38話 マジックバトル・オンライン 11
38-1「分離」
俺達は40階層の町に到着した。
そして俺達は今後のことを話し合う。
そろそろペースアップしようと提案した。
タイムリミットは無いのだが、あまり時間をかけすぎると俺達の現実世界の肉体にガタがくると思ったからだ。
実際今俺達の現実での肉体はどうなっているんだろう? そもそもあれから現実世界は何日経ったのだろうか?
などの疑問が出るが、今はそんなことを考えてもしかたない。一刻も早くこのゲームをクリアしないといけないのは明白だった。
俺達は準備を済ませ、山を下り、谷を下り、次の町を飛び越して、ようやく40階層の迷宮に到達した。
ずいぶんと遠くにあった。途中の町で上の階層に行くことが出来る迷宮はどこですか? と聞いてみたら、それらなこうこうしてこう行けと言われたので、俺達はその通りにした。
そしてやっと上の階層に行ける迷宮を見つけたのである。
それはやはり塔の中にある巨大な塔であり、天まで伸びており、雲を突き抜けている。しかもいつもよりかなり不気味な表情を見せるかのように、周りの空気はどろどろとした粘土のように、粘着質のある気持ち悪さが感じられるような雰囲気だった。
塔の先のほうは真っ暗闇で何も見えず、雷鳴が鳴り響いていた。
俺達はかなり不安になったが、先も急ぐことだし早々に昇ることにした。
暫く行ったら、分かれ道があった。右か左どちらかに行く道がある。俺達はどちらに行こうかなと考えていると、よく見ると、そこには立て看板があった。
書いてある内容はと言うと、『ここから二人組なら一人一人別の道を行き、三人以上だと必ずどちらか一人か二人で、四人以上だと二人以上で別れないといけない。もしパーティの人数が足りないと感じるなら引き返すのもありだ。ただし、もし守らずどちらかの道に全員で行くことになると、全員に苦痛と恐怖と過酷な運命が待っているだろう。安心しろ、最終的に必ず、巡り合えるので別れたままというのはない。だから心配しないで別れていけ』
看板の内容は特に罠と言うわけではないと思ったが、戦力を半分にするのはかなり不安がある。
実際問題このゲームはPTの数が少なくても多くても実は敵の数は基本的にかわらない。なのでやはり多いほうがいいのだが、PTのメンバーが多いといちおう敵の数が多く出現しやすくなるフラグがあるらしく、ソロプレイだと殆ど敵の魔物は一体ずつしか出ないらしい。
だからあえてソロプレイも有らしい。
それにソロだとモンスターを倒したときに貰える経験値を独り占めできる。
これはPTメンバーが多い場合だと例えば5人パーティだと一体のモンスターを倒した場合経験値は一体分の経験値を五等分する形になる。
もちろんPTメンバーの数が多いほど敵も多く出現しやすいので結果的にはソロプレイと同じぐらいの経験値が貰えることになる。
ただボス戦に関しては一長一短だ。
なぜならボスは基本一体で出現するのでソロプレイだと一人で倒さないといけないが、もし倒せたらボスの経験値をこれまた独り占めできる。
よって何度もボス戦を一人で勝ち上がると、短期間で大幅にレベルが上がる。
成長速度は少ない戦闘回数でも上に上がれば上がるほどレベルが上がり続けるし、なんと話によるとソロボーナスがつくらしい。
これによりかなり普通の多人数PTに比べたらソロプレイヤーは有利だ。
だが、もちろんのことだが落とし穴はある。
まず危機的状況での対策が出来るかわからないこと、仲間がいないことによる孤独との戦い。
自身が戦闘職の場合、回復役がいないので、回復魔法が使える職業じゃないとソロに向かないなど、さまざまな問題がある。
自分自身が回復魔法などの自身のHPを回復する手段が無い場合、回復薬に頼らざるをえないのでどうしてもアイテムストレージを圧迫する。
じっさいこのゲームではアイテムストレージはレベルが上がるほど解放されて、一度に持てるアイテムの量が増えるシステムとなっている。
レベル1のときは30個しか持てないのが、今ではレベル40ぐらいなので150個ぐらい持てる。
だがそれでもアイテムはあるだけあったほうがいいので少ないと感じるのである。
実際俺達は中級回復薬をいつも一人50個ぐらい迷宮に挑戦する前に買い込み、中級魔力回復薬も50個ぐらい買い、そして貴重だが、迷宮などで拾えるSP回復薬を10個はストックする。
残りの40個ぐらいは便利アイテムとか換金アイテムとかで埋まる。
日用品とか寝袋とかはアイテムストレージとは別の項目に収納できる。
あくまでもアイテムストレージは魔法的アイテムなどを収納する空間らしい。
それにソロプレイだと使えるアイテムストレージが自分の分だけなのに対し、PTを組むことで全員でアイテムストレージを持つので最悪誰かのアイテムストレージの中の回復薬とかが切れた場合、他の人のアイテムストレージの回復薬を使ってもらえばいいのだ。
このようにソロプレイだと道具を持つ面でも不利だし、特にボス戦でのソロプレイは自殺行為としか言えない。
ボスはたいてい4、5人のPTを想定して置かれている存在だ。
3人ぐらいでも倒せないことはないが、やはり多いことに越したことはないだろ。
多ければ多いほどより多くのダメージを与えられるからである。
だが、PTを組むと経験値が分散することはもう説明したからわかるように例えば30階層でボスと対峙する場合ソロだとその時点でレベル40ぐらいになっていたら、5人パーティとかだと全員のレベルは同じ戦闘量だとすると25ぐらいだと推定する。
実際そんなに差が開くかわからないが、ソロだとレベル上げするうえで強い敵に単独で挑むので、自然に場馴れする。
なので戦闘技術はソロプレイのほうが実は上になる。
だからPTを組んだ場合連係プレイになるので、個々の戦闘力より全体のチームプレーが優先される。
だから個々の戦闘力が低いことがあるので、PTを組むと突然の不幸に弱くなると考えられる。
なのでやはりPTプレーだとみんなで助け合わないとすぐにあっという間に全滅とかもありえるかもしれない。
以上でソロプレイとPTプレイの違いの説明を終わる。
さて……どうしたもんか……これは一時的な試練だろう。
たぶん従わないといけないだろう。
サタン戦の時みたいに、無視してそのまま進むとペナルティを受けるだろう。
俺はルカとテルネアスとスワルにどうするか聞いた。
するとスワルが「ここはそうですね……難しいですね……二手に分かれる場合、例えば俺とタケオさんが右に行って、テルネアスお嬢様とルカさんが左に行くことになると、たぶんボス戦まで合流できないですよね。すると道中のモンスターを相手にする時二人だけで倒さないといけませんよね?」とみんなに問うように聞く。
俺はすぐにこう返した。
「相性の良いというか、お互いがお互いをサポート出来る関係でいいんじゃないのか?前衛職と後衛職がペアを組んだほうが良いと思う」
と言うと、ルカがこう言った。「それなら、私とタケオさんがペアを組むべき……というか組みたいです。たぶん相性も良いと思いますし……」と少しだけ俺のほうを伺って覗き込んで、良いかなと? と目で訴えかけるかのようにみんなに言う。
するとテルネアスが話す。「私はそれで……いいと思う……私はスワルと組む……」と静かに座った眼でみんなに言う。
スワルがそれにすぐに反応した。「いいのですか? テルネアスお嬢様!? 俺なんかがあなたの御傍にいて……足手まといになりますよ」と別に自分と組まなくてもいいというオーラを放つかのようにテルネアスに言う。
しかしそれでもテルネアスはこう返す。「タケオとルカは確かに相性が良い……タケオが攻めて、ルカがサポートすればたいていの敵は倒せる。バランスがいい……逆にタケオと私がもし組んだら前衛ばかりなので……特殊な敵だと苦戦するかも……それにそうしたらルカとスワルが組むことになり、アタッカーがいないので、どうしてもそれはありえない……またタケオとスワルが組む場合だと実質タケオだけが戦闘することになり……私とルカだと一応バランスは取れるけど……相性が合うかどうかわからないなどの不確定な博打になる」と長々と説明するテルネアス。
そして最後にこう注釈する。「私なら足手まといのスワルをなんとか引っ張れるしね……」
と真顔で言うテルネアス。
スワルはズッコケる。「そりゃないですよ~足手まといだから俺と組むなんて、確かにお嬢様は最初のほうはソロで戦闘を行っていたんですよね? だから自信あるんですね?」
「そう……私は最初のほうはソロプレイ……基本的に雑魚の魔物だとソロで問題なかった。だから一人ぐらい増えてもたいして関係ない……スワルは陽動とか囮は達人レベル……攻撃はしなくていい……」とテルネアスは言う。
「………………………………もうそれでいいです……俺は陽動係り……囮係り……はぁ……」と心底落ち込んだように言う。
そして俺は最後の確認をする。「そうだな、確かにそのペアなら相性も良いだろ。じゃあ俺とルカのペアが左に、テルネアスとスワルが右のほうに行くでいいか?」とみんなに聞く。
「それでいい……」とテルネアス。
「そうしましょう」とスワル。
「じゃあ行きましょうかタケオ」とルカは俺の手を握る。
あまりにも自然に手を出してきたので俺は思わず握り返してしまう。
そして俺とルカは左の道に、テルネアスとスワルは右の道に行ってしまった。
長い長い暗い道が待ち受けているのかもしれない。
38-2「跳躍」
左の道を進んでいる俺とルカは適当に出てきたモンスターを倒して進む間に、暇なので歩きながら話をすることにした。
そしてその時俺とルカは何故か手を握り合っていた。
俺は別に特に意味なんてないと思った。
ただ一緒に歩く時、離れ離れにならないようにとかあるし、心配しないように相手の気を使わないように距離を詰めるためとかそういう理由があるんだろうなと俺は思った。
だからルカが俺の手を頑なに離さないで、握り続けていることに特に文句も言わないし、手を放そうとも思わなかった。
そして戦闘中だけ、手を放し、パソ丸を起動させ、光キーボードを弾いてプログラムを書いて、実行する。
それを何度も繰り返す。俺は自身の拳でモンスターを殴り殺す。
時には爪を伸ばして肉を切り裂く、骨を断つ、首を切り落とす。
そうして俺達は血みどろになりながらも前に進んだ。
そして殆ど魔物が出なくなったので少しルカと会話することにした。
「ルカ……お前はもう慣れたのか? この世界に?」と俺は聞く。
ルカは「そうですね、もう慣れたって言うと誤解されそうなので、まだ全然でもないですが、まあまあ慣れましたよ。タケオさんこそ順応性高いですよね?」
「俺はもともと能力者ファイトやってるからな、あれ? そう言えば言ってなかったっけ?」と俺はルカに聞くと、ルカは少し驚いたように答えた。
「タケオさん超能力者なんですか!? 何で言ってくれなかったんですか?? 教えてくれてもよかったのに……」と少し残念そうに答えたルカ。
俺は「別にゲームするうえで関係ないと思ったからな、すまん言っておけばよかったな」と謝罪する。
そしてルカは優しく可憐にこう返した。「まあタケオが現実世界で何してるかとかは現実世界に帰ってからでいいかな……ここは現実と隔離された世界だしね……」と少し嬉しそうに言う。
そして俺は「このまま先を進んで、みんなと合流できるんだよな? なんか俺は騙されてるような気が済んだが」といきなり今後の心配をする。するとルカは「大丈夫だよ。この階層だけの試練なんじゃないかな? だから安心してタケオ?」とまるで天使のような笑顔で俺を安心させる。
ルカの笑顔は眩しい太陽よりも静かで美しい透き通るような青い月のようなそんな感じを受ける。
でもそんなルカはまだこのゲームの世界で会ったことがあるだけで彼女の現実での彼女を知らなかった俺は。
それでも俺は彼女に現実のことを聞くのは失礼かと思い聞いたことはなかった。
なのでお互い現実の自分のことは伏せていたし、あえて聞かなかったのかもしれん。
俺達はゆっくりと歩いてついにはボス部屋の前に来た。
「行くか……ルカ!俺についてこい!進むぞ……こんなとこさっさとクリアしようぜ」とかっこつけて言った。
そしてルカは「うん。私タケオについていく今までもこれからもずっとついていくから……」となんか裏を返せば告白とも取れそうな言い方をするルカ。
でも俺は特に深い意味は無いと思い、スルーしてルカの手を掴んで一緒にボス部屋の扉を開いた。
そこは黒を主体とした暗黒の空間だった。
特に何もないとにかく黒い黒い。
そして中央に謎の魔法陣があった。
それは光輝いている。
俺達は不審に思い近づいてみる。
そして魔法陣の上に立つといきなり魔法陣がさらに輝きを増し、ついには俺達を飲み込んだ。
そして俺達はいつの間にか別の階層にいた。
そこは神殿で、誰もいない。
外に出ると、森の中で周りは自然に囲まれていた。
そうだ……現在階層は……それはまさかの内容だった。
俺のメニューウインドウを開くと上のほうに現在の階層の位置を文字が示していた。
50階層。俺達は10階層も跳躍していた。




