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36話 マジックバトル・オンライン 9

なんかいつもとは違う感情をぶつけた。そしたらこうなった。ではどうぞ。

36-1「それぞれの時間」


 34階層に着いた俺達は自分の自由な時間を持てた。

 俺とテルネアスが当分の間ここで静養しようと言ったし言い出した。

 実際そのほうが良いと思ったからだ。

 なにせみんなここまで戦い続けていたからかなり疲れただろうと俺は思った。

 なのでみんな暫く自由な伸び伸びとした休み時間が必要だと感じた。

 出来れば早く帰還して現実リアルのほうで休みが欲しいのだが、それはまだ無理だと感じたので俺達は休むことにした。

 俺は特にやることが思いつかなかったわけではないのだが、それでも目ぼしいことはだいたいしているので自室でスワルと一緒にトランプでもしていた。


 スワルはまたトランプですか……?と言いたそうな不満そうな目で俺を見ていた。

 それでも俺は無性にトランプがしたかったので、トランプでゲームをした。

 七並べからババ抜き、しんけいすいじゃくにポーカー、大富豪にブラックジャックまでした。ほとんど俺の勝ちだった。スワルは負けるたびに悔しそうな表情で俺にも勝たせろよという目で俺を見てきた。

 なので俺はあえてわざと負けたら、今度は本気で勝負しないなら僕はもう降りますと言い、トランプゲームをやめてしまった。俺はやることもなくなったので外に出た。外に出たら、宿屋の廊下の前をちょうどしずくが歩いているように見えた。あの後ろ姿はしずくに違いない。俺は走って追いかけた。その人物の手を掴み、顔を見た。

 

 するとその人物はしずくではなく、全然似てもいない女性だった。相手の女性はいきなり手を掴まれたので驚いていたが、俺が「すいません人違いです」と言うと、にっこりと笑い「いえ、間違えたなら仕方ないことでしょう。その人は私の後ろ姿にそっくりだったんでしょうね」と俺を許し、諭した。何かのご縁だと思い俺はその女性と少し話をすることにした。

 宿屋を出て少し行ったところにある広い公園のような場所にベンチがあったので俺とその女性は腰かけた。そこで二人きりで話をした。

 まず、俺が「あなたもこのMBOマジックバトルオンラインをプレイしているんですね、どういう理由で?」と聞いてみた。

 すると女性は「私には妹がいるんです。その妹がこのゲームをしたいと言うのでなら私もやってみようかなと思いやってみたんです。でもどういうわけか出られなくなり、今は仲間とともになんとかここまでこれました」と言った。

 女性は名を名乗った。暁美と名乗った。暁に美しいと書くのだそうだ。年は19歳。高卒で、現在劇団員で、将来俳優を目指しているらしい。アルバイトしながらお金を貯めて、コツコツ芝居をしているとか。

 彼女は今は別に特に不満やトラブルはないのだそうだが、ちょっと気になる男性がいるらしい。その男性は同じ劇団に所属する仲間なのだが、俳優志望ではなく裏方志望で美術を担当している。その男性は暁美から見ると決してかっこいいかと問われるとそうではなく、むしろ地味で、情けなく頼りないという。だがそんな彼を好きになってしまったらしい。彼の書く絵は素晴らしく、ゴッホのひまわりを連想する。

 書かれた絵はチューリップで油絵で描かれている。その絵は一見何の変哲もないが、暗たんだが明るく煌びやかでレモンの香りでも匂ってきそうな酸性な感じで、分厚い辞書を何度も読み返したくなるほど絵に内容がつまっている感覚を感じさせる。そんな絵である。

 そんな絵を描く彼だが、意外な趣味を持っている。曲作りである。なんと絵も描くのに音楽まで彼を突き動かすのである。

 彼はもともとミュージシャン志望であったが夢をいったんあきらめて美大に通い、念願の劇団の美術の担当を任されることになったのはいいが、あの時の夢を諦めきれずに彼は休みの日だけ自作の曲を愛用のギターとともに持っていき、その辺の駅とか公園とかで時代遅れのラジカセで曲を再生させて、自分で作詞した曲を歌うギターの旋律と合わせて。

 

 このストリートミュージシャンという前時代の遺物だと思われる活動は今のところ彼ぐらいしかやってないでいた。それもそのはず現在ではインターネットの動画共有サイトなどで自作の曲を公開して自分で演奏して歌う。そのような動画をあげている輩がいるがこれも少し古い。

 今の流行は自分で作成したオリジナルボーカロイドに自作の曲を歌わせるのが普通だ。ボーカロイドツクールが発売されてから三年の月日が流れる。それからである自身の分身、理想の自分などを投影したボーカロイド通称仮想アイドルもといシンガーソングライターが増えてきて、現在ではプロの現実にいるミュージシャンやアイドルを食い始めている。

 そんなことがあるが、彼をここまで懐古的な衝動にかりたてることは一体なんであろうか? 彼が昔を思い古き良き時代を愛するモダンな男なのだろうか? たぶんそうではない。

 彼女が考えるところによると、彼はただの夢想音楽家のたまごだとかそうだとかいう前に一人のストリートミュージシャンであり、ただ自身の曲を愛し、自身の演奏する曲を歌い人々にそれを届けたい。偶像の力なんて借りないそれよりも俺の曲、歌、演奏を聴け、そしてお捻りを貰う。そして次の曲作りに向かう。それの繰り返しだ。

 そんな彼のような人はここの世界でたぶん彼しかいない。そんな彼を暁美は好きだと言う。

 暁美はあまり自分のことを話さないので、俺は少し聞いてみた。「暁美さんはなんで劇団員になったんですか?」と聞く俺。

 すると暁美さんはこう答えた。

「私はね、実の両親から将来立派な公務員か、記者になりなさいと言われたの。でも私はどちらも興味はなかったわ。だからあえて両親の願いとは違う職業に就こうと思ったの。それで私は最初何になりたいのか実は子供の時から頭の中にぼんやりとしか浮かばないの。でも漠然と何になりたいかという気持ちはあったの。だから私は何にでもなれる役者になろうと高校二年の夏のある日決めたの。その時はミンミンゼミが五月蠅く鳴いていて、照りつける太陽の日差しがカンカン照りで燃えるように熱く、騒いでいて近所では毎日子供たちの遊び声がけたたましい音量で私の耳に届いたわ。それでも私は役者になりたい決心をしたの」

 俺はこの時なんでかなと思った。でも詳しい理由は聞かないほうがいいと感じた。特に理由なんてないかもしれない。

 なぜなら彼女の眼は凛として鋭く力強く俺の眼を見て話していたし、話している彼女の楽しそうな顔を見たらそんなくだらないことを聞くなんて到底俺には出来ないと思った。俺は彼女の話を最後まで聞くことにした。


36-2「つれづれな場所と記憶の日記」


 ベンチで話していると、誰かが話しかけてきた俺達に。

 それは俺の知っている人だった。

「やっと見つけたよ……誰その女性? もしかしてタケオさんの彼女ですか~秘密の、私に内緒とかずるいです~私も話に混ぜてくださいよ。でもお邪魔ですかねやっぱり」

「誰?」と暁美さんが俺に聞いてくる。

 俺は「同じPTの鈴子ちゃんだよ」と言った。

「そうなんですか、初めまして、私は暁美……宮沢暁美みやざわあけみ19歳よ。劇団員をしてるの」と暁美さんは微笑んで会釈しながら言った。

 鈴子ちゃんは「ああ、そうなんだ。初めまして。私は指場鈴子さしばすずこ13歳です。中学生やってるちょっと特殊な女の子ですよ」と少し嫌そうな顔で手を差し出して握手を求めるようにして言った。

 暁美さんは手を取り、握手した。

 そして暁美さんは「あなたはこんなとこまでタケオさんを探しに来たのね。つまりそれだけ心配かもしくは彼に気がある方なのかしら?」と人差し指を上に向けて、首を傾けて少し疑問形になるように聞いた。

 鈴子ちゃんは「そんなことないよ心配なのは確かだけど、タケオさんには既に気になる女がいますよ」と少しだけ顔を斜めに曲げて、にやりとした笑顔で言った。

 俺は「ちょっと鈴子ちゃん! 俺に気になる女? そんな人はいないよ今のところ、何か誤解しているようだね」と訂正するように勢いよく誤魔化した。

 実際のところ気になる女、もとい少女はいる。まず一人目は美知みしるかな。彼女は俺のことを気にしてくれるし彼女も俺のことを気にしてくれる。そんなお互いのことを察知してくれるそんな共有関係にあった。

 二人目はテルネアスだな。彼女は何故か俺の行く先々で必ず先にいて、俺の手を引っ張ってくれるような存在で。そして彼女は綺麗で美しくて可愛いという男として普通の理由もある。何より不思議な印象を受ける彼女は俺の中で決定的に美化されていた。俺は曇りガラスで濁ったレンズがクリアな透明なガラスよりも美しく見えるガラスを通して見ていたのかもしれない。


 暁美さんは俺の言い訳なんてどうでもよさそうにして、自分の話を続けた。

 まず私は小学校時代山に男の子とカブトムシを取りに行ったと言う。そしてカブトムシを取りに行ったが一匹も取れず泣いて帰ってきたという思いでもある。そんなことを俺達に話していた。

 そして話の終わりが見えてきたので、暁美さんは自分で話を終わらして、じゃあ私そろそろ戻らないと……と言った。

 俺は「もういいですよ」とだけ言った。彼女は「こんなに話し込んですいませんでした。悪かったかしら……」とだけ言って立ち上がり、あたふたとして帰って行った。

 俺はその場で一人残された。鈴子ちゃんは「じゃあ今度は私の話に付き合って下さい。その辺をぶらぶらしながらでいいので。ほんの少しだけだから」と言った。

 その時の鈴子ちゃんの顔は真剣なものに見えた。そして俺は鈴子ちゃんとその辺をぶらぶら歩き始めた。話をしながら。

 「まず最初にね、言っておきたいことがあるの、いい?」と聞いてきたので、俺は良いと返事した。

「それじゃあ言うけど、私はねしずくちゃんが死んでも全然悲しくならないから」と当たり前のように言う。その時の彼女の眼は笑っていなかった。俺はしばし硬直する。動かない石像のように。だが実際は歩きながら話しているので動いている瞼も口もひくひくと痙攣するように動いていたので、本当に動かなかったのは俺の心だった。

 俺は「なんで、そんな冷たいこと言うんだい?」と聞いた。

 すると「それはね、私はいちいち他人のために泣いたり悲しんだり喜んだり怒ったりなどね、そういう感情を出さないし見せない女なんだ」と苦し紛れの嘘を言いたいがゆえにさらに嘘を重ねる子供のようにさらりと言った。

 だが本当のところは本心に近い答えだろうと俺は感じた。なぜそう思ったかと言うと、鈴子ちゃんは俺にやみんなに本当の感情を見せたことは一度だってなかった。

 彼女はいつも俺と話すとき笑顔を絶やさなかったが、逆に考えるとむしろ笑顔でしかなかった。つまりその他の顔が無かった。笑いの感情はあっても悲しみの感情はないし、怒りの感情も見せたことがない。

 いや怒りはあったが、直ぐに本人はその後訂正して「ごめん、ごめん冗談だよ嘘嘘怒ってないから」と毎回言う。

 だから彼女は怒ってないし、笑っても無い、偽りの顔しか見せてなかった。

「それでね、タケオはみんなにね本気の答えしか言わないよね? そうでしょ? だからね私そんなタケオがね大嫌いなんだ。だからね今度から私に構わないでほしいんだ。もう一度言うよ? 私はタケオが嫌いだから、今度から構わない。そちらからも構わないで絶対に。いや本気だよ。そんな顔されても。今更決意は変わらないからね、だから私の願いを聞いて欲しい。お願いタケオ」そう言うと、立ち止まり、背を向けて明日の空を見ている女性がいた。

 その女性はしんどそうな背中をしていて、まるでいつも孤独にさえ悩まれて、誰にも相談できない。すがる相手もいない。力になってくれる友人もいない。そんなものが見えてきそうな何かを感じた。

 俺はその女性に後ろから抱きついた。そっと手を後ろから握り、抱きしめるようにした。女性は何も言わず、その場で立ったままで、俺の手をぎゅっと握り返した。

 そして痛くなるほど手を握る女性は目から涙を流し、俯いたまま顔を手で隠して、俺のほうを向き、ギュッと抱きしめ返してきた。

 女性は「うっ……ううう…………うわーーーーーーーーーーーーーーん……………………………………………………」と唸りながら、俺の胸より少し下のところに顔を頭をこすり付けてきた。

 俺の旅の服は涙でべとべとになり、唾もついていていっそう汚れた。

 そして彼女はずつと俺と抱きしめあっていた。

 その際、女性は「お兄ちゃん、お兄様、兄貴、兄様、お兄たん、兄上、泣かないで、必ず戻るよ」と言いながら俺を抱きしめて話さなかった。

 そして女性は彼女となり、ついには俺の腕の中でそのままだった。

 俺は彼女をそっと公園のベンチに座らした。そして彼女の話を最後まで聞いた。

 彼女は永遠に喋っているかのようにずっと話していた。内容は8割は兄の事。残りの2割は俺のこと。

 しかし俺のことを話すときの彼女は嘘偽りなく話しているように聞こえた。彼女は嘘ばかり重ねてきた女なのかもしれない。だが、彼女は彼女だ。それを俺は止める必要がない。

 彼女の生き方に口を出す権利なんてもともとない。

 唯一あると言えば、彼女の話を最後まで聞く権利ぐらいはあった。

 彼女はやっと泣き止み、涙でぐちゃぐちゃになった顔を俺に見せて、目を瞑った。唇をほんの少しだけ突き出して、俺の顔を見上げた状態になり彼女だけの世界が停止したかのごとく彼女の顔と体は動かなくなった。

 俺は困惑した。突然のことなので心の整理がつかなかった。何せ彼女のことを俺は愛とか憎しみとかそんな俺と無縁の感情は持ち合わせていなかった。

 もちろん俺は彼女のことは嫌いではなかった。親友の妹というだけの関係で、特に不満があるわけでもなかった。

 だが、それはそれだけの感情でしかなく、それだけの関係でしかなかったはずだ。

 もちろん彼女に対して何かアプローチをかけたとかそんなことはない。

 だが彼女は俺に求めた俺の体験したことのない関係を。

 それは感情とも言う。いつも俺は待っていた。待つことしか出来なかった。

 しかしいつもいつもいつもいつも待っていたが、誰も来ることはなかった。

それどころか気づいてもくれなかった。俺は何時しか待つことをやめて、歩き始めた。彼女は半目を開けて、俺を睨んだ。

 それが俺に対して向けられた怒りの感情として初めてのものだった。

 俺はしぶしぶ彼女に答えた。

 周りの景色はオレンジ色の空が、灰色の空気と混ざり合い、いつしか闇の黒を基調とした厚めの斑模様が空中に浮かんでいた。浮かんでいたそれはぷかぷかと周りを漂い、いつの間にか消えていた。


36-3「恋愛とは何か」


 長い間、俺と彼女は一緒にいた。

 時計を見ると、もう夜の9時だった。

 俺はもう帰るかといった。

 彼女は「まだだめ、もう少しこのままでいて」と言った。

仕方ないのでもう少し彼女を抱きしめながら、彼女の眼を見ながら、口と口を合わした。その際視線は明後日の方向を見ていた。

だが心は彼女のほうを向いていた。

俺は優しく、何度も彼女のことを見て、もう一度唇と唇を繋ぎあわせた。

そしてずっと永遠かと思われる時間が過ぎて行った。時間が経ち、深夜の0時を迎えた。


俺と彼女は手を繋ぎ、一緒に歩いて元の場所に戻った。

そしてそれぞれ無言で寝床について、同居人には何も告げず寝る準備をした。そして共同洗面所でまた顔を合わして、また二人は愛し合った。

それは愛だったのだろうかその場限りの感情だったのかわからない。

だが俺はその時彼女のことを愛していたし、彼女も俺を求めていた。俺は彼女にこれ以上のことをしないかと提案した。

彼女はいいよと返事した。だがそれは叶わなかった。出来る場所がなかった。出来る方法がわからなかった。それをするには知識がいた。

彼女はまだそういう知識が欠如していた。だがそれはのちに嘘だと知った。

彼女はむしろ頭の中は経験豊富で俺よりも詳しかった。

つまるところ彼女はこのとき安易に返事をしたが、内心抵抗があったらしく、無理に断るのはいけないと思い、彼女は知識がないということにした。

ならば俺が教えてやるよ言った。だがそれでも彼女は嫌々した。首は縦を向いて振っているのに。彼女は試したがりだった。でもそれでもいいと思った。

彼女は嘘つきだからこういうときは彼女の嘘を信じようと思った。

俺は彼女の胸をむりやり押さえた。彼女の胸は膨らみかけの状態で、俺の手の中に綺麗に収まった。彼女は吐息を漏らす。そして俺は彼女の唇を塞ぐ。そして塞いだ、中で舌を入れて歯を舐める。俺はそれを繰り返した。


何分か経ち、彼女の顔を見ると高揚していた明らかに赤面していて、何かを求めていた。俺は気分がいつもより究極的にハイになっていたが、あえてそれ以上のことはしなかった。

俺はもう遅いから寝ると言い、自室に戻ろうとした。

すると彼女は「そりゃないよ……ここまでしておいて、タケオは実は狼より狡猾で、狐よりずる賢い、魔性の男だったんだ? 酷いよこのペテン師野郎。幼児性愛主義野郎。この童貞」


「最後のは関係ないだろ最後のは!」と俺は本気で怒った。


「だってここまでやるなんて私聞いてないし……乙女の純情を返して欲しい本気で」とジト目で俺を見る。ただ怒りの感情というよりもうあきれたように言った。


「じゃあ外でするか? それなら出来るだろ?」と冗談と見せかけて本気で言った。


「イヤ!流石に初めてを外とか……死んだ方がまし」


「でももうじゃあやる暇ないぞ?」と俺は意地悪そうに言った。


「じゃあ現実世界に帰ったら休みの日でも泊りに行くから」とうっとりとした目で言った。


「…………それは出来ないな」と俺は言う。


 なんでという顔をされた。俺はわけを話す。

「じゃあお前は自分の両親に俺を紹介できるか?」

「出来るよ、もちろん、嘘は言ってない」


「でも俺は出来ない。わかるだろ?」と俺は心底残念そうに言う。本当に残念だ。せめて後3年遅ければよかったのにと呟きながら。


「そんなの関係ないよ。愛に年齢とか関係ないよ。そうでしょ?」


「そうだな、でも俺の場合世間体がそれを許さないんだ、わかってくれないか鈴子」俺は初めて彼女のことを名前で呼んだ。呼び捨てで。


「無理無理……我慢出来ない。帰ったら絶対私が襲うからね」と本気の眼で言う。俺はその眼があまりにも本気に見えたので怖かった。恐怖と言う感情が少し生まれた。

「そんな顔しても私が奪うからタケオの童貞」

「そもそも俺いつお前に俺が童貞だっていった?」

「感だよ馬鹿じゃないの? 顔に書いてるよそれだってことが、誰でもわかるよ」と言った。俺は心底がっかりした。顔に出ていたとか……ばれてないと思ってた。


 もういいよと言い、鈴子は俺の前から姿を消した。そして俺は彼女の後を追うが、一向に距離を詰められず、ついには追いつかなかった。


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