A1話 竹谷竹男の高校生活と虹咲真歌との出会い1
A1-1「否能な落ちこぼれ少年の日常」
「くっそーーーーーーーー!! なんでこうなるんだよ!! ちくしょうが……」
少年は走っていた。
主に、生命の危機のために。
「待ちやがれーーー!! てめぇ逃げんのかよ!! この野郎が!! この臆病者が!!」
追いかけてくる荒くれた不良どもが5人はいる。
なぜ彼は追いかけられているのかと言うと少し順を戻って説明すると、こうなる。
まず彼、こと少年はこの無限異能都市のいわゆる普通の高校一年生で国立荒多高等学校の生徒である。その高校は一般的な高校よりも入るのが難しいと言われているが、それは一般人である場合の話だ。
いわゆる通常のカリキュラムを組まない一般人つまるところ否能力者や無能力者などが一般の入口から入るのに対し、いわゆる超能力者、のレベル1さえあればいいなどは裏口入学も真っ青な簡単な心理テストぐらいしか受けなくていいという優遇ぶりだ。
なので超難関の教科試験を突破してこんな高校に入るのはかなりのもの好きかただの変人ぐらいだ。そもそもなぜみんなここに入りたがると言うと、まず学費が国立なので安いこと、そしてここは通常とは違う教科つまり超能力の訓練や開発、能力の上昇を目的とした普通の高校とは違う超能力のノウハウを教えてくれる高校であるからである。
なのでそんなチャンスはめったにこないのが否能力者や無能力者達はやっきになりこの高校を受けにくる。
そしてその一人でもある彼現在高校一年生の16歳である竹谷竹男は今理不尽にも不良どもに追いかけられていた。
なぜ追いかけられているかと言うと、至極簡単な理由である。
女の人が不良どもにナンパされていたのを注意したら、不良どもが逆切れしただけである。
女の人は凄く嫌そうな顔をしていたので、竹男はついいつもの癖で人助けをしてしまったのだ。
竹男は人助けが趣味というわけではないが、それは男として大事なことなので生き様にしていると本人は語る。
なんと馬鹿なというかまっすぐと言うか、お人よしと言うか、やはり頭の中が人より違うのかわからないがつまるところめんどくさい少年である。
そんなアホな少年竹男は今逃げている。
全力疾走で駆けている。
なんとも間抜けな姿であろうか。
「はーはーはーーーーーーー!!! くそっがああああ!! もういい加減にしろ!! お前ら!!」
「うっせぇ!! 素直に俺らに捕まれば許してやってもいいけどなあ!!」
とある不良は言うが、そんなの勘弁してくれとこの時の竹男は思っていた。
なぜならこいつらは普通の不良ではない……いわゆる超能力者だ。
何も珍しいことではない。この無限異能都市の超能力者人口は全人口のなんと7割もいるとか。人口は確か100万人ほどだったような……つまり70万人もなんらしかの能力を有しているらしいのだ。
そんな中彼こと竹谷竹男はやすやすと能力者にもちろんなれやせず、彼はいわゆる否能力者の烙印を押されたのであるこの無限異能都市で。
否能力者とは文字通りの意味で能力者として否定された存在だ。
否定つまり君は違うのだ他の人とはだから能力者ではないというまさに落ちこぼれのカースト制度がまだ存在するのなら最下層に位置する状態と言える。
実際竹男はかなり落胆した。それでもせっかく無限異能都市に来たのだ、このままはいそうですかと学校をやめて元の生活に戻れるかと言うとそうは行かない。
もう前払いで学費を一年分は払っているのでどうしてもやめるなら高校二年生になってからしか無理である。
そして彼は学校で微妙な位置にいる。いわゆるハブられた状態だ。友達も出来なかった。意図的に彼を無視しているクラスの奴らは。それで彼は少しばかり不登校ぎみになっている。
だが、それでも食料の買い出しなどとかで買い物に出かけたりするので、学生寮を跳びだすので、こういう不運に恵まれるのだ。
でも竹男はこういう不運をちっとも苦運にしない。むしろ逆境を乗り越えてこそ、その先にある何かを掴みとれるとすら考えるようになった。
これでも色々あったのだ中学時代もだ。それはおいおい語るとして今はこの状況をどうにかしないといけない。
こいつらは超能力者なので捕まったらただではすまない。
竹男は考える。こいつらをまくには……ええっと一とにかく逃げる二立ち向かう三土下座してあやまるの三択しか思いつかねえな……くそ~何かないのか他に?
そんなことを考えているともう夕暮れ時なのか辺りが少しだけぼんやりと暗くなってきた。そして歌が綺麗な歌声がどこからともかく聞こえた。
その歌は何かどこか悲しげにも聞こえるし、はかなくも聞こえるし、逆にとてもうれしそうにも聞こえた。
そして今まで歌の歌詞があまり聞こえなかったが、それがはっきりと聞こえてきたのである。
それがこんな歌詞だった。
うたかたの夢が 遠くに散っていく それが儚いと呼ばれる所以なの
無情なる景色が あなたの味方になる でもそれはそれは嫌いなの
これでも夢は決まらないの 私はあなたを飲み込む魔物かもしれない
それでも それでも 私のこと愛してくれますか
お願い嫌いにならないで
――こんな歌詞が何度も木霊する。
そしていつの間にか俺の後をつけていた不良どもがいなくなっていた。
どこにいったのだろうか? もちろん俺は逃げていたのだが、まったく気づかなかった。
そしてここから遥か上空の巨大なレインボータワーから一人の少女が落下してきたことに俺は気づけなかった。
そしてその不思議な髪色の少女が俺の眼前に降りてくる瞬間やっと気づけた。
「なっ!!??」
その時はもう遅かった。俺の体にずっしりとその少女が全体重をかけて俺にまたがるように着地したのである。
俺は何が起きたのか直ぐに理解できなかった。
その少女は直ぐに起きてこう言った。
「なにやら……クッションがあって助かったのです、であなた誰ですか?」
「お前が言うか……つうかおまえこそ誰だよ……」
俺とその少女は二人とも困惑していた。
A1-2「謎の歌姫」
「で、あなたは誰ですか?名前を名乗るなら自分からですよね……私の方からか、ええと真歌です」
真歌と名乗る少女俺はすぐに何故上から落下してきたのか聞いた。
「それはですね……わたしは歌をいつも通り歌っていたら、空気の中にきらっと目映い光が見えて……それに触れようとしたら、つい落ちて……」
俺は驚愕した。この少女の謎の思考回路に。この娘はもしかして危ない娘か?お薬いる系の……これはヤバいなんだが不運の予感が……
竹谷竹男は感は鋭いほうではないがこの時の動物の感はたぶん凄く鋭いと感じていたが、実際のところはわからない。
そして真歌は何かを話す。
「わたしの歌聞いてみる? ……きっといい気分になれるから、ねえ、お願い、聞いて、ね?」
と半分以上は強制のような顔でこちらを覗きこんでなんか無表情だけどそれが逆に怖いと俺は感じた。
「わかったわかったそんな睨むな……聞いてやるから歌ってみろよ」
「んじゃあ……場所うつそうよ、こっちかな……」
と言って彼女は俺の手をぎゅっと握り、引っ張ってくる。
俺はそれに答えると真歌はとてとてと歩き出した。
――そして今俺と真歌はガラクタ小屋の中にいる。ここはいわゆる空き家で誰も住んでいないのだが、それが結構心地よいとか秘密基地だとかここは真歌の。
そして彼女はもういい?と念を押して、俺に問う。
俺はああ、いいぞと答える。
そして彼女の歌声がこの世界に響きあった。
それはなんというか澄んでいた、爽やかであった、朗らかだった、煌びやかだった、眠くなるようなほど心地よかった。
そんな感想が出た。
そして彼女は歌い終わると……
「どう? 元気出た? 竹男、あたしの歌よかった?」
「ああ、すごく良かったよ、なんか元気出たし、何かに目覚めそうな歌だった」
「それは良かった……だけどこの歌毎日聞かないと効果ないの、だから毎日ここに18時になったら来て、お願い、きて……あなた、だけどそれは無理がないのなら、そういうことね、でも、これは、そのためだから、ねぇ、お願いだよ、竹男、さあ、きてね」
俺はなんかこの娘変わった喋り方するなと思っていたらもう遅いので帰ることにした。
俺は送っていくよと言うと、別にいいと言われたので俺は先に帰った。
そして次の日ある事件が起きることになるとはこのとき俺は夢にも思わなかった。




