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七話 ギルド

「お前、本当にギルドに入りてえのか?」


「いや……あの……すいません」


 俺は、額に傷の入った厳つい顔のおっさんに怒られていた。


「……すまん、言い過ぎた。謝るから土下座はしないでくれ、しかも入り口で」


「……なら入れてくだ」


「断る」


「しくしく……」


 でも土下座はやめない。

 こうなったのにも理由があった。

 ライニスに案内してもらい、灰色の石造りの中では目立つ、木造の屋根の低い酒場のような場所に来た。

 受け付けの可愛い人に登録を頼むと、 実力試験 と称して、【危険】と書かれた暖簾の奥へと連れてかれた。

 そこで、色んなもので色んな事をされた。ライニスと一緒に。

 結果、 適性なし のレッテルを貼られ、権力のありそうな人に抗議して、今に至る。


「おい、本当に頼む!ギルドの評判にも関わるから土下座は勘弁してくれ!」


 おっさんはその太い腕で俺を起こそうとするが、土壇場の俺はそう簡単には負けない。怪力相手に互角以上の戦いを見せている。


「せめてワンチャン!あと一回!」


「わかった!わかったから起きろぉぉ!!」


「あっ」


 しかし、現実的に長期戦は無理だった。全力で上に引っ張られた俺は抵抗できずに宙を舞う。


「おっと」


 静観していたライニスが俺を抱き止めてくれた。


「さんきゅ。じゃあおっさん!もう一回実力試験、受けるよ!」


「……おう」




「さて、まあ魔力量とか膂力のバラメーターは変わらんだろうから、技術的なものをみようじゃないか」


【危険】と書かれた暖簾の奥、地下の闘技場のような場所で俺とおっさんは対峙していた。少し離れたところにライニスも待機しているが、手出しする気は皆無のようだ。


「さ、来い。俺が直々に実力を見てやる」


「お願いします」


 俺は一気に突っ込む。

 俺がギルドにここまで固執するのには理由があった。

 ギルドに入る事で少しだが特典がついてくるらしい。その中の パスポートが必要なくなる 点が欲しい。

 まあ、貰えるものは貰っとこうの精神だ。


「甘い!」


「痛い!」


 おっさんは身体を横に逸らす事で突進の威力を殺し、俺の空いた背中に鉄拳を叩き込んだ。

 歳の割にやるなこの人……。


「どうした?魔法とか、使ってもいいんだぜ?」


 俺が立ち上がるのを待っているおっさんは、耳を掻きながら魔法とか言っている。

 そもそも、魔法の使い方がわからん。


「魔法ってどうやって出すんだ?」


 起き上がって、服に付いた土を払い落としながら訊いてみる。


「……お前、嘘だろ?嘘だと言ってくれよ頼むから」


 媚びるような目で懇願してくるおっさん。

 嫌そうな顔をしているあたり、結構面倒臭い事案なのだろう。


「嘘は言ってないよ」


 俺の言葉を聞いたおっさんは、ガックリと肩を落とす。


「隙あり」


 落胆の色の濃いおっさんの顔面を思い切り蹴り上げる。

 手応えはバツグンだ。


「へぶっ!?」


 おっさんは呻き声をあげて仰向けに倒れ込む。

 どうしたことか、完全に伸びている。やっぱり俺のスペックが高すぎたんだね……。


「俺の勝ちだな。ところでおっさん、魔法ってどうやって使うんだよ」


 勝利を確信した俺は、僅かに痙攣し、虚ろな目をしているおっさんの胸部を軽く叩き、意識を呼び戻そうと試みる。


「うぅ……」


 鼻血が、つるつるの頭や褐色の顔に広がっているおっさんは僅かに声をあげるが、反応が薄い。

 もしかして大怪我させちゃったのか……?

 そんな事を思い、焦っていると苦い顔をしたライニスが歩いてきて。


「はぁ……治癒魔法【リザレクション】」


 と、唱える。すると、光がおっさんの顔面を覆い隠した。

 光源であるおっさんの頭に、更に光が集まっているあたり、側から見ると、なかなかにシュールな絵だ。

 笑いそうになるのを抑えて二人を見守っていると、一気に光が霧散する。

 そこから現れたのは、より輝きを増し、綺麗になったおっさんの顔だった。


「……凄っ」


「凄っ。じゃねえよ。不意打ちして勝ち誇ってんじゃねえよボケ」


 ゆらゆらと立ち上がったおっさんは、額に青筋を浮かべて俺に歩み寄ってくる。

 目でライニスに助けを求めてみるものの、ライニスはスルー。


「待って。お願い。不意打ちの件は謝るから、お願い許して!」


 ジリジリと詰められる距離に、焦燥感が強くなっていく。

 おっさんは指をゴキゴキ鳴らし、完全に俺を威圧しにかかっている。

 これでは伝家の宝刀 土下座も効果は望めない。


「許すわけねえだろ」


 おっさんの声色は冷たく、相当ご立腹だ。許してもらえる気は全くしない。


「ライニスぅ!」


 耐え切れずにライニスの名を叫んでみるものの、完璧なスルースキルで見捨てられる。


「この薄情者!お前の性格バラすからな!」


「なっ!?ちょっと待て!それは……」


 慌てふためくライニスを見れただけで十分です。


「起きたら合否通知を見せてやるよ」


「南無」


 低く鈍い音が頭蓋に響いた。


 ★


「それじゃあ魔法の使い方を教えてやる」


「頼むよ」


 あれから目を覚ました俺は、おっさんに頼み込んで、魔法の教授を受けてもらった。

 ちなみに、ギルドの件は合格した。何せ勝っちゃったからね。


「まず、魔法ってのが何かは知って……ないみたいだな。魔法は、体内の魔力を練って、それを属性に置き換えて、手などに集めて噴射する、って感じだ」


「……イマイチわからないんだけど」


「つまり、見えない力を溜め込んで、撃ち放つ。という事だ」


 理解に苦しむ説明に頭を傾げていると、ライニスがフォローを入れてくれた。


 ……属性限定なのだろうか。まあ、なんとなく分かったので、実践してみよう。

 手をかざし、適当な詠唱をしてみる。


「吹き荒れろ、風」


 ……そよ風が、颯爽と通り過ぎていった。


「……下手くそ」


「煩いですライニスさん」


「魔力を練るところまでは良かったんだがな……」


 魔力練るイメージなんてしてないんですけど。


「じゃあどうすればいいんだよ」


「……まあ、俺と彼女」


「ライニスでいい。ユウガもそれでいいぞ」


 つまり、敬語は要らないのかな。


「ライニスの表現の方法が違った様に、体感的なものには個人差があるからな。お前にはお前の出し方があるはずだ」


「じゃあなんでみんな魔法使えてんの?」


「普通、理解して生まれてくるからな。こんな説明させられるのは理解できずに生まれてきた落ちこぼれだけだ」


 やれやれ、と首を横に振るおっさん。ライニスも苦笑いの対応に、ちょっぴり傷付く。


「……地味に落ちこぼれ呼ばわりするなよ」


 こっちだって異世界召喚された身なんだから。真実を話して理解してもらいたい気持ちが湧き上がる。

 だが、人体解剖とかされそうなのでやめておくが、とてももどかしい。


「まあ、こればっかりは練習あるのみだからな。毎日練習すればいつかできるさ」


 すると、見兼ねたライニスが励ましてくれた。素直に嬉しい。


「そうだね!頑張るよ!」


 自然と笑顔が溢れた。やっぱり人とのコミュニケーションは疲れるけど、楽しい。


「ああ、頑張れ!それじゃあ、私もユウガもまだまた駆け出しだ。だから……」


 ライニスは顔を紅くし、もじもじしだす。


「だから?」


 ちょっとの期待を胸に、続きを催促してみると。


「わ、私と、ダンジョンに入ってみないか!?」


 ……ですよね。


「ああ、うん。いいけど……紛らわしいわっ!」


「同感だな」


「ええ!?なにが!……私、誘っても断られてばっかりだったから……」


 暗い話になってきたな。てかこいつ、ギルドに入ってないのに誘ってたのかよ。

 しかし、こんな美人を断るなんて、そいつの神経が知れないな。


「そっか。それじゃあ行こうか。そのダンジョンに」


「!!……ああ!」


 俺とライニスは、彼女の言う ダンジョン へと向かう。

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