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五話 完治

 目を開けると、また知らない白い天上だった。

 でも、決定的に違うのがベットの質。体全体を包まれるような安心ーー


「烈風魔法【ムーブ】!!」


「うおぉぉぉ!?」


 いきなり、最近体験したような爆風に襲われて壁に激突してしまった。


「お嬢様!そんな身元も分からない要注意対象を屋敷に連れ込むなんてお止め下さい!」


 被弾の確立を減らそうと丸まっているため、さっきの詠唱と同じ、女の人の声が誰かを諭している。その声からは日々の苦労が滲み出ているような気がする。


「あなたは馬鹿なの!?阿呆なの!?身元が分からない危険人物だからこそ、監視の行き届く範囲に置いておくんでしょうが!ーー流水魔法【マリン】!」


 それに、どこかで聴いた事のある声が反論し、また魔法を使うみたいだ。

 あと、危険人物ってなんだよ。

 どんな魔法なんだろう。とちょっとだけ好奇心が湧く。

 それに赴くままに顔を少し上げてみる。

 一人はシャインティア。もう一人は黒いスーツを着た、歳上の堅そうな女性だった。


「うひゃあ!?」


 直径五センチメートル程の水が頭の上を掠めて壁を貫通していった。

 いや、死ぬ。傷は治ったけど死ぬよこれ。

 そう思って、壁際でビクビク縮こまっていると、未だ続く会話のやり取りが聞こえてくる。


「それでもしもお嬢様の身に何かあったらどうされるんです!?」


「そうならないためにここに置くって言ってるんでしょう!!」


「……はあ」


 激しかった口論に静寂が垣間見えた。このまま静かに終わってくれれば万々歳なんだけども。


「なによその目は。あなた、私の眼を疑っているの?」


 確かに彼女の目は凄いと思うけれど、何か含んだ言い方が気になる。


「そんな事は。ただ……」


 機会を見て、顔を上げると黒スーツはもどかし気な顔をしていた。

 言いたい事はわからんでもないけど。


「……サティ。あなたの言い分もわかってるのよ。でも、この私が、人の本質を見間違えた事があったかしら?」


「そ、それは」


「ないでしょう?だから、今回も信頼して、とお願いしてるのよ」


「……はい」


 黒スーツーーサティさんはシャインティアに軽く丸め込まれた。


「ふふっ、ありがとう。サティ」


 微笑を浮かべてサティを抱きしめるシャインティア、顔はこちらから見えるが、サティさんの視界から顔が消えると同時に黒い笑みにシフトした。


「……あ、ごめんなさいユウガ。怪我が治ったばかりなのに、喧嘩に巻き込んじゃって」


 弛緩した空気だけど、気は抜けない。平静を装いつつも警戒はしておこう。


「……いや、いいよ。怪我を無料(タダ)で治してくれただけで感謝してもしきれないし」


「っ!」


 壁にぶつけた箇所がちょっと痛むけど、丸まったままなのもあれなのでゆっくりと立ち上がる。

 サティさんが痛烈な舌打ちをしたのは気のせいだ。何も聞こえてない。


「そうねぇ……まあ、タダとは言った覚えはないんだけどね?」


 俺の口調を咎める言葉をシャインティアに期待してたんだろう。

 しかし、その様子が感じられない事を悟ったようで、サティさんは罵声を浴びせてくる。


「貴様ァ!アスティーナ王国第七皇女のシャインティア・アスティーナ様に何をタメ口きいている!」


「そんな……なら、俺に何をしろ、と仰るので?」


 対価を払え。というならば、俺にとって結構な無理難題だ。だって住所不明に無一文だから。


「むぅっ……」


 無視して更に敬語にシフトチェンジした俺に、サティさんはしかめっ面だ。


「この国随一の回復魔法師(ヒーラー)に治療させたんだから、それ相応の治療費を」


「お、お嬢様、この者にそんな大金などあるはずもないでしょうに……ぷぷっ」


 笑いを噛み殺しながらサティさんはシャインティアに告げる。

 これは癪にさわるものがあるな。寛大な心の持ち主の俺でも苛立つ時はある。イケメンとか。


「黙ってろクソビッチ」


「殺されたいのか?」


「ごめんなさい」


 長剣で脅された。勝てないや。

 颯爽と土下座にシフトチェンジする俺。

 話が通じる人間相手なら延命は楽だな。二回もの死地を切り抜けた俺には軽い相手だ。


「……はあ。住所不明に無一文か……」


 サティさんは深いため息を吐く。

 できれば元の場所に戻して欲しいんだけど。


「お嬢様の一存だ。ここに置いてやる。だか、監視役は付けるからな」


「置かなくていいから、治療費をまけて欲しいんですけど」


「……そうねえ。このままじゃ未熟だし……うん、決めたわ」


 シャインティアから物騒な呟きが聞こえる。

 彼女は少し考えて、告げた。


「街で、ギルドに入りなさい!」


「ギルド?」


 聞き慣れない単語だな。異世界臭がプンプンする。


「そう、ギルド」


 至極当然の様に言ってくるけど、俺はギルドが何かわからない。

 だが、ここで逆らえば身の安全は……。


「わかったよ」


 ボロが出る前に引き受けておく。

 すると、サティさんが詠唱を始めた。


「転移魔法」


 部屋全体が青白く発光し、特に俺の周りに強い熱を感じる。


「【テレポー」


『緊急警報!屋敷に敵襲です!主力部隊は今すぐ表に出てください!!』


「……ト】」


 最後の部分が、けたたましく鳴るサイレンと、スピーカーのようなもので拡声された声によって止まった。

 そのあと、気まずそうに言い切ったサティさん。

 嫌な予感しかしない。


「すまんな、少年」


「ねえ待って。何を謝ってんの?ちょっーー」


 光が一気に強くなり、サティさんやシャインティアが見えなくなった。




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