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十八話 交渉

「交渉だと?」


 余裕で満ちていたミナギの笑みが驚愕に変わった。

 俺は対等さをアピールすべく、彼女と向き合うように正座する。

 最低限のリスクで最大の戦果を得る。それなら避けられない事態すらも天秤に掛けてしまえばいい。


「うん。まあ前提として、隠し事(・・・)をしている人の派閥に所属はできない」


「な、なんの事かしら?」


 ミナギは明らかに動揺しながらもそれを否定し、ハンカチで汗を拭う。

 ここで食い下がると状況が悪化するだけなのにね。


「とぼけるのか?異世界召喚の件。話してたことに嘘はないと思う。けど、そんなものは仮初めの建前だろ?効率が悪すぎる」


「そんなわけないじゃない!裏の事情なんてあるわけ……あ」


 墓穴を掘った事に気付いたのか、額に当てられていたハンカチが宙を舞う。

 思ったより簡単にボロが出たな。こいつチョロいわ。


「裏の事情ねぇ?」


「くっ……」


 苦虫を噛み潰したような顔をするミナギはキッと俺を睨み付け、魔力を練っている。最悪武力行使を考えているようだ。


「そんな物騒な事考えなくても俺からは手出ししないって。俺はただ、その勇者代理の依頼に関係する情報を隠蔽するような組織を信用できないって言ってるんだから、教えてくれれば済む話だと思うけど」


 ただ、それがブラックなら拒否する事になるけど。


「……分かったわよ、言えばいいんでしょ、後悔しても知らないけど」


 はぁ、とため息をついてミナギは降参の意を示して正座を崩す。

 張り詰めていた空気が弛緩して、密かに緊張していた俺もホッと息を吐いた。

 ちなみに、俺が疑念を抱いた点は『魔王討伐に伴う勇者の分散』だ。

 魔王討伐のために召喚されたのは本当なんなろうけど、それを各国に分ける意味、まして取り合うなんて不可解すぎる。


「まず、召喚の件。魔王討伐という名目で、それぞれの国が国民から金を取り、莫大な資金をつぎ込んで行ったわ。けど、本当の目的は戦争。より有能な人材を選んだ方が有利だから」


 何度も頷きながらミナギの言葉を咀嚼する。

 魔王が討伐された後には戦争をするつもりらしいなこの国。


「私は反対したんだけど、所詮側近、聞く耳も持たれなかったわ」


 悲しげな面持ちでそう告げたミナギ、下を向くあたり幾度もこういう事を経験したと見える。

 そして、何度も大人数に反対する意見を支持しているとなると、立場も危うい事もあり得る。

 確かに俺は復讐すると誓った。 戦火に見舞われて苦しめばいいと思う。けど、国民やミナギみたいな人は悪くない。だから、


「顔を上げてよ。俺が勇者になって、魔王と和解して、戦争なんてさせないような世界にしてやるから」


 俺は、平和を追求する事で俺を貶めた連中に復讐する事に決めた。


「……そんな世界を、楽しみにしてるわ」


「ああ」


 結局、俺はアスティーナ国の勇者代理になることになった。結果的に衣食住も安定したし、とりあえずは良かったのかなと思う。ただライニスを除いては。

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