十五話 イタズラ心
「なあユウガ」
昨日と同じホテルで食事をしていると、ライニスが口を開いた。
「ん?」
「あ、明日、暇か?」
美味豚を頬張っていると、端的に俺の予定を探ってくる。
「暇も何も、金も住む場所もアテもないんだからここにステイするしかないじゃん」
「そうか、なら明日、街へ買い物に行かないか?」
下を向いてボソボソと呟くもんだから、何を言ったか分からない。
「え?なんて?」
「なっ!うぅ……明日、買い物に行かないか!?」
バッと朱に染まった顔を上げてライニスは叫び声に近い大声を出す。
その勢いで青の長い髪も舞い上がるわけで。
「別にいいけどそこの汁に髪が浸ってる」
「えっ……あぁぁぁ!!」
「うるさい、落ち着けよぉぉぉ!!」
喜声か悲鳴か分からない声が俺の耳を劈いた。
★
まだ少し肌寒い夜中、読書のためイスに腰をかけて、この世界は日本より少し季節が早いんだなぁ。なんて思っていると、コンコンと扉がノックされた。
ライニスが風呂に入ると言って部屋を出たため、たぶんその件だろう。
「入っていいよ」
「……」
ノックするから返事したけど、その返事がない。大きな声ではなかったので、もう一度言ってみよう。
「入っていいよー!」
「……」
しかし反応はなく、その無反応さが不可解だ。
ちょっとだけライニスが心配になってきたので、怖いけど扉を開けてみようと思い、扉の前まで来てみたものの……。
「……幽霊出てきて呪われたらどうしよう」
夜中に不可解なことが起きるとそう考えてしまう。
そんな事を思ってると、寒くなってきた……そういえばまだ春だわ。
ガチャリとドアノブを回し、ゆっくりと扉を開けると。
「うわあ!!」
「うひゃあ!?」
ライニスが大声で驚かしやがった。ビックリした……心臓が止まるかと思った。
「なんだよビビらせやがって!」
「あははははっ!」
「笑いすぎ!」
「い、いやだって、ユウガがここまで驚くとは思えなくて……くくく」
……。
「……もういい。寝る」
俺は下を向き、ケラケラと笑うライニスを放置して布団にもぞもぞと潜り込む。
「えっ、待て、冗談だろう?」
チラっとライニスを見てみると、酷く寂しそうに罪悪感で歪んだ顔をしている。 それに湿ったロングの青髪が悲哀感を上乗せしており、ちょっぴりそそ何でもない。
しかし、ライニスって結構感情の起伏が顔に出るな。
「……」
「な、なあ。私が悪かったから。謝るから機嫌を直してくれないか?」
少し震えた声で語りかけてる。
俺にはそれが年不相応の幼い対応に感じられた。
「……」
「うぅ……悪かったから……」
なんか泣きそうになってる。
泣かせてもいいかな、と思った俺はもう少し黙っておく事にする。
すると、ツンツンと布団越しに横腹を突かれた。
どうやらいつのまにかベットの横まで接近してたらしい。
「ゆ、ユウガ……」
耳元で寂しそうに囁かれた言葉が酷くこそばゆく、けれど心地よい。少し眠くなってきた。
さっさと誤解を解いて寝よう。
「……ん?」
「お、怒ってるか?」
恐る恐る訪ねてくるライニス。顔が近く、吐息が耳に掛かっていてムズムズする。
やばい。凄い眠い。
「怒ってないよ……」
もういいや、寝よ。
「本当か!?良かったぁ」
そうだね。とは口が紡げず、俺はそのまま夢の世界へ直進する事になった。
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