十三話 巨人
ーー今思えば、自分が調子に乗っていたのが分かる。
"何ができるのかは分からない"。そうじゃなくて、"何かができるわけがない"が正解だ。
結局、俺は何もできない。無力だ。
俺は、そんな余韻に浸った。
★
駆け出したはなから一人、巨人が手にする斧に高く打ち上げられ、戦闘に参加する人数が削られた。
刻々と、目に見えて悪化していく戦況に、戦っている猛者達も焦っているようで、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
先輩のその顔に不安に駆られ、俺は未熟ながらも助太刀せねばと思い、巨人の足をすり抜けるようにして短剣で傷を入れた。
「よしっ!」
そのまま走り抜け、距離を取る。すると、剣から不思議な何かを感じた。恐らくこれが吸魔剣の力なんだろう。
そして、巨人にも斬られた時の特殊性に違和感を感じたのか、僅かだが目を見開いている。
「兄ちゃんに続けぇ!」
「「「おぉ!!」」」
巨人の意識をこっちにやってしまったが、先輩方の指揮は上がったようだ。
意気消沈しかけていた味方は、各々の得物で総攻撃を仕掛けた。
よし、これで少しは持つだろう。あとはライニスだ。魔王軍に深い恨みがあるんだろう。
昨夜のことを思い出す。あれだけの感情を表に出していたのに、理由を聞いてやれなかった自分が悔やまれる。
いや、今は切り替えろ。それを踏まえて対応すれば冷静になるだろう。
「ライニス、落ち着いて。冷静に動くーーッ!」
頭を刈り飛ばさんと水平に振られた斧をなんとか避けた。どうやら標的を俺一人に絞ったらしく、味方の攻撃には最低限の反撃しかしていない。
こいつ、知性があるんだろうか。
「ギャァ!」
ジリジリと後退していく中で、思考していると、高く跳躍した大剣使いの男性が落下する勢いのまま背中縦一文字に斬り裂き、巨人が悲鳴を上げる。
今しかない。
俺と巨人の均衡状態が解けたことで、静止の余地なく足が動いた。
逆手に持ち、膝のあたりに突き刺さそうと突進する。
「ガッ!?」
刹那、胸部を貫かれたような痛みと共に意識が飛んだ。
ちらと視界に入った巨人の体勢を見ると、膝蹴りを食らったようだ。
次に、強い衝撃が背中に奔る。受身も取れずに地面に落下したため、まともに息ができなくなる。
くそ、なんで俺は何も…なんで!
非力さが恨めしく、体を動かそうと試みるが、少しも動かない。
何もできない自分が情けない。
無力さが憎く、歯噛みするが、何も変わらない。
…はずが、赤い大量の血が空を舞っていた。
ぼたぼたと地面が染まり、次いで轟音が響く。
巨人のいた方を向くと、腰から肩にかけて深く斬撃が入っており、当の巨人は白眼を向いて固まっていた。
今までの戦いを見る限り、これをやったのは途中参加してきた奴だろう。
颯爽と登場してあっさり敵を淘汰、か……。
少し、憧れはある。いや、少しどころじゃあない。本当は、英雄視されて、異世界を無双したかった。最強と謳われたかった。
けれど、現実はそう上手くはいかなかった。
今思えば、九死に一生を得て、思い上がっていたのかもしれない。
いや、数回命の危機を打破して、調子に乗っていた。本当は、落ちこぼれの出来損ないなのに。
…本当に、俺は何しに来たんだろうか。
俺は、自分のこの世界での存在意義を失った気がした。
ーー俺は、悔しさや不甲斐なさ、そして虚無感。そんな余韻が俺を誘い、只々青い空を眺めた。
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