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十一話 拾った剣は

 ライニスに案内された所は、石造りが目立つ周りの中で一際目を引くような、レンガ造りの、俺から見ても超一級のホテルだった。

 何者だよこいつ……。


「さあ、早く入ってくれ」


 玄関前で立ち竦んでいるとライニスに門扉の前で催促される。けど、煌びやかな外観から、正装で来客を待ち受ける人が並んでいる時点で、中に入る気が失せる。


「いや……ちょっと場違い感が否めないかな!」


「そんな事言われても……」


「俺はお前がこんなにいいとこの娘だとは思わなかったよ」


 困った顔をするライニスに追撃を掛けると、途端に周りに居た人達が各々の武器を手に、威嚇してきた。


「ごめん嘘。嘘だから!」


「……本当?」


「うん。だから放置プレイは勘弁して」


 疑わしく訊いてきたライニスだが、俺の返答を聞いてため息を吐く。


「仕方ないな。相部屋は我慢してくれ」


「……うん」


「なんだその間は!?」


 ライニスの最後の一言に浮き足立つ俺だった。


 ★


「ライニス」


「なんだ?」


 風呂上がりで濡れた髪を括って後ろに垂らしているライニスは、鏡台から少し安堵の篭った声で俺に振り向く。

 覗くとでも思ったか。怖えよ。


「世界地図見せて」


 下手な事を言って、深く生い立ちを尋ねられても困るので、浅いラインから切り込んでいくことにする。

 最低でも世界事情がどんななのかは抑えておきたいからな。


「構わないが」


 そう言ってライニスは備え付けの机を漁りだすと、それらしきものを俺に手渡してくれる。


「サンキュー」


 ……よくわからないけど、九の国がある事がわかった。

 あの日の九国は、世界全ての代表陣だったようだ。

 世界を相手に俺は復讐ができるんだろうか……。


「私たちが今いる所が、アスティーナ国の南端の街だ。すぐ下にタナリアという国がある」


 アスティーナ国……シャインティアの言ってた事は本当だったのかもしれない。


「う、うん」


 困った顔が出ていたのか、苦笑を浮かべたライニスが後ろから教えてくれた。

 けど、思春期男子に風呂上がり女子は刺激が強い。


「あ……迷惑だったか?」


 そっけない返事にライニスは慌てて俺から離れる。


「ああ!いや、そういうわけじゃないんだけど……もっと自分の身体を理解してほしい」


「ん?」


「なんでもないよ。それで、タナリアって……」


「エルフが統治している国だな。それもあって、エルフが生きやすい国になっているが、名のある冒険者や権力者には、手厚い補助が出たりする」


「エルフかぁ」


「まあ、あまり勧めはしないが……」


 よし、その内行こう。異種族とかトキメキを感じる。


「なるほど。それじゃあ、やっぱり魔王ってのは脅威なのか?」


 思い返せば、俺がこの世界に召喚された根本的な理由がそれにあたる。あいにく、不適格のレッテルを貼られたが。


「ああ。……ここだけの話、最近、九国が同盟を結んで魔王討伐のために幾人かの勇者を召喚したらしい」


 怪訝そうな顔で語るライニス。やっぱり、魔王討伐だけのために呼び出したとは思えないのかもしれない。俺がそう思うように。


「……本当、クズだよ。あいつらは」


 怒りを、復讐の意思を確認するように、俺は小さく呟く。ライニスにはハッキリとは伝わらなかったようで、首を傾げている。


「そういえば!ユウガ、その剣はどこで手に入れたんだ?」


 ライニスは突然、俺の布団の上に置いてある、質素な剣を指差す。


「それは……なんか拾った。凄いの?」


「ああ。解読不能の文字列があり、それを詠唱する事によって最大限の力を発揮する事ができるらしい、魔剣。勇者以外が使うと、ただのボロ剣らしい」


 読めるか?と言って剣を手渡される。

 読めるわけないじゃん……。渋々その剣を見ると、吸魔剣(ヴァイドソード)と書いてあり、その下に効果の説明があった。


「吸魔剣……斬ったもののあらゆる力を吸い上げ増幅し、所有者の力とする。etc…」


「読める……のか?」


 ライニスは目を見開いて驚いている。

 ポケットに入っていた紙切れの時といい、街の看板といい、今回といい、ロリ神様が言ってた特典っていうのは、この自動翻訳機能なんだろうか。

 ……しかし、読めるものが使いこなせるならば、全部の勇者専用シリーズコンプもありえるんじゃ。


「なんか読めた」


 やめよう。変に期待して貶められた人生だ。

 俺は現実に意識を戻す事で思考を断ち切る。


「これは報告だ。ユウガ!お前も勇者として、英雄として優待されるぞ!」


 まるで自分の事のように喜ぶライニス。

 けど、彼女には悪いがそれは嫌だ。


「いや、いいよ。俺はそんな事より自由でいたい」


 だって、勇者として呼ばれた連中と同じような分類になっちゃうから。

 俺の発言にギャップを感じたのか、聞き間違えだと思ったのか、ライニスは目を丸くして沈黙している。

 だから、キッパリ言う。


「俺は、勇者になんてならない」


「……そうか。それなら仕方ないな」


 ライニスの好意を断絶するように放った言葉は、彼女にとって余程ショックだったのか。それ以降、その日は二人、無言のまま夜を明かした。

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