十話 寝床
渾身の思いで叫んだ言葉は、何処に届いたのか。
『ーー仕方ないなぁ。これっきりだよ?』
その声が聞こえたと思うと、不思議と身体が軽くなった。
どういう原理かは知らないけど、今はやるべきことをやるだけだ。
「うおぉぉぉぉっ!!」
近くに落ちていた剣を掴み、雄叫びを上げて牛野郎に向かって猪突猛進し、足を深く斬りつける。
「グギッ!?」
初めて痛みに悶える声が牛野郎から漏れる。
俺はそのまま距離を取り、斬られた事で闘志を燃やす牛野郎と対峙する。
「絶対にここで止める!」
いつになく機敏に動く身体は簡単に牛野郎の懐に迫り、容易に反対の足を傷つける。
そして、より身体が快適に動くようになる。
明らかに変わった俺の動きに、牛野郎は目を見開いて、驚愕を隠せないでいる。強者独特の余裕もいつしか消え去っていた。
ーーと、牛野郎は俺のいる方向、つまりライニスがいる方向とは反対方向に走り出した。どうやら逃走するつもりらしい。
けど、力が漲っている俺は倒せる自信があった。
「終わりだぁぁあ!!」
無防備な背中を縦一文字に斬りつける。
深く抉られた肉からは鮮血が吹き出し、牛野郎は断末魔を上げ、力なく倒れた。
「この剣は……?」
途中、不思議な力を感じた気がした。
まあ、考えこんでも分かるわけもない。
俺は急いでライニスの居た方向へ駆け出したのだった。
「ライニス!」
戻ると、ライニスは自分で治癒でもしたのか、傷口も閉じており具合は良さそうだ。
「おお、ユウガ!……悪かったな、私が誘っておきながらこんな目に合わせてしまって……」
ライニスは責任を感じているのか、下を向いたまま謝ってくる。
「いや、これは事故だし、俺は、俺たちが無事でいられてるだけで最良だと思ってる。だから、ライニスが謝ることはないよ」
疲れで、あまり元気な声は出せないが、できるだけいい方向に話を持っていってみる。疲労回復も一時的なもののようだ。
「……そうか。そう言ってくれるとありがたいな」
ニコリと笑うライニス。その笑顔は、クールな口調とは対照的に、可愛かった。
「……それじゃ、今日は引こっか」
「……それじゃあ?」
俺の言葉に引っかかっのか、ライニスは俺に続きを促してくる。
「ん?また今度、一緒に行こうって」
「本当に?」
何を不思議がっているのか、ライニスに訊き返される。
「うん」
なので、頷いてやると。
「やった!それじゃあ……疲れもあるだろうし、三日後の昼に、ギルドに来てくれ!」
そんなに嬉しかったのか。ライニスは子供っぽい一面を見せる。
「いいよ」
「それじゃあ、今日はここまでだな」
「うん」
三日後に会う約束をして、ダンジョンの出口で俺とライニスは別れた。
そして、街へ戻った時に気がついた。
「寝床、どうしよう」
そういえば、死活問題だった……。
人脈もツテもなく、無一文な現状を、どう打破すればいいんだろうか。
と、路頭に迷ってフラフラと歩いていると。
「……はあ。まさかとは思って付けてみたが、宿にも困る身だったとは……」
呆れ顔のライニスが建物の陰から出てきてそう告げた。
言い返す言葉もない。
「……冷やかしにしたの?」
「いや……その」
「ん?」
口ごもるライニスに、先を話すことを促してみると。
「……数日なら、泊めてやってもいいかな。と」
恥ずかしそうにそう言ってくれた。
「ありがとうございますっ!」
俺は土下座して感謝した。
それを見たライニスが、慌てて俺の上体を起こそうとする様子が可愛かったので、もう少し粘ろうかと思ったけど、なんでか泣きそうになってたから素直にライニスの言う通りにしてやった。
更新遅れてすみません。
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