ロリ神様
AMAYです。
異世界漂流ものを書こうと思い、書いてみました。
今話はプロローグです。
ーー突き倒された。腰が抜ける。鼓動は不規則にリズムを刻み、脳が目覚まし時計より煩く警鐘を鳴らし続けている。
理解できない状況に、人生最大の動揺をする。
じわり、と腹部から熱を感じた。
「……う?」
スローモーションに見えているのか、それとも本当にゆっくりだったのか、ジャケットごと紅く染まっていく白いT-シャツを見た。
ーー血
それが、自分の血だと理解した時には意識が飛びそうな程の鋭利で新鮮な痛みが襲った。
激痛に思考が飛んで真っ白になった頭に最初に浮かんだのは家族の顔だった。走馬灯だ。
「死ねェェ!?」
狂気に裏返った声が脳を揺らす。
黙っててよ。今、人生を振り返ってるのに。
霞んで行く意識を眼下に裂くと、次に胸部に熱が篭った。
「っああぁぁぁ!!!」
鮮明に感じた痛みに、今度は悲鳴が溢れる。
硬いアスファルトに仰向けに寝転がった俺に、狂気に染まった笑い声が木霊する。
殆ど奪われた視界に捉えた俺を殺した奴の顔は、気色悪い笑みを浮かべていたーー
クリスマスイブに、俺は刺殺された。
★
「やあやあ秋宮 悠臥君」
走馬灯が死因にまで到達してた時、いきなり白いワンピースを着た幼女が意識に介入してきた。
走馬灯って死ぬ直前まで見なきゃいけないんだね。
「いやいや、普通そんなことないよ〜?今回は死後まで意識があったから見れたんだよ〜。ラッキーでしょ?」
なんで会話成立しちゃってんの?
「自分が死ぬところとか見たくなかったよ……。で、どちら様ですか?」
「神様。だから心も読めるんだよ!」
「いや、確かにロリコンの方々には神様なのかもしれないですけど……」
言葉は濁しておいたけど、この幼女、現実離れした整顔を持っている。
「え、なに、もしかして私が中年の人に家に連れてかれてあんな事やこんな事をされてしまう妄想でもーー」
「そんな妄想してないよ!!」
「え、なら悠臥君と私とがいろんな事する妄想ーー」
「歳上が好みです」
「ずーん」
「いや、口で言われても……」
完全に相手のペースだな……。
「こほん!そんな事より悠臥君」
愛らしい声こそ変わらないものの、陽気な雰囲気が一転し、厳かたるものになる。
「は、はい」
「君は、自分の死に納得がいっているかい?」
真剣な眼差しでこちらを見つめる幼女。
納得なんてできるはずがない。俺には使命があった。十五になる妹に、クリスマスプレゼントを渡すんだ。
「納得なんてできるわけがないだろ!」
声を荒げてしまった俺に、幼女は感慨深く頷き、口を開く。
一挙一動が腹立つが……黙っておこう。
「そうだよね。うんうん。なら、異世界に行ってみないかい?」
今度は深く、ゆっくり頷く幼女。
本当に腹立つけど、スルーして。異世界?
「ごめんごめん、もう頷くのやめるから両手を握り締めるのやめてね?……そう、異世界!魔法が使えて剣もあって、ギルドがあって……凄くイイところだよ」
嘘偽りなく、飛び跳ねるように身体いっぱいで表現する幼女。長い漆黒の髪がブンブンと風を切っている。
もっと見ていたい気持ちをゴミ箱にダンクシュートして口を開く。
「嫌だ。俺はあいつが居ない世界で生きていける自信がない。魔法?剣?ギルド?そんなものいらないから妹をくれよ」
「君、本当はロリコンなんじゃない?あと、シスーーあだぁ!?」
「う、うるさい!」
ニヤニヤしながら俺の顔を覗き込む幼女に頭突きをして黙らせる。
「と、とにかく、俺は異世界に行くくらいなら、消滅する!」
「いつつ……顔が赤いよ?あぁ!ごめん!だからその殴られたら痛そうな右拳を下ろして!?」
土下座して許しを請う神様を見て、優越感に浸れたので下ろすことにする。
「ぐぬぬ……調子いいときだけ神様呼ばわりしおって……。まあいいや、とりあえず、君は死んだ、それはちゃんと認めるね?」
事実を認めさせようと催促させる言葉に、妙な不安を感じた。怪しげに目を光らせ俺を見る幼女は、何者なのだろうか。
「だから神様だって」
無視して。
「……確かに、俺は死んだよ。クリスマスイブの日に、見知らぬ誰かに刺されて」
思った以上に口にすると辛い。
けど、幼女はその言葉を聞いた途端に顔を歪ませる。
「ねえ、私も本当はこんな事に権力を振りかざしたくないんだけどさ。死んで魂となった君に、拒否権なんてないんだよ?嫌な思いで異世界ライフを送って欲しくないから隠してたけど、お前、異世界に行くの確定だから」
幼女は悲痛な顔をして俺を見つめてくる。
俺が威圧され、諦められるように言ったんだろうけど、覇気がない。
「……なんでそんな顔をするんだよ、別に、俺一人が異世界に行ったくらいで、地球には代わりがいっぱいいるんだろ?」
遣る瀬無い気持ちになって、幼女を慰める言葉が自然と出てきた。
でも、幼女のその顔は晴れないままだ。その面持ちを崩さないまま口を開く。
「そんな事言わないでよ、君も私の子供だ。それは君の妹も、家族も、君を殺した奴もだ。もちろん、そいつには相応の罰が下るだろう。私は、みんなを平等に愛してる。愛してるから、そんなに自分を卑下されると悲しくなるんだ、だからやめてくれると嬉しいな」
言い終わった後、恥ずかし気にほっぺを掻く。その頬は紅潮していて、普段言わないセリフを言って恥ずかしいんだな、と思う。
「……神様、名前は?」
俺は、自分の髪を弄りながら訊く。
「らしくない質問だね?ふふっ、そうだねえ……」
顎に手を当て、考えるそぶりを見せる。
名前考えてなかったんだ。
「よし!決めた!私の名前は、エール、君を応援するしがない神様さ」
「……そっか、ならエール、なんで、俺は異世界に行かないといけないんだ?」
「……七億分の一の確率で引き当てた」
「……え?」
つまり、くじ引き?
「……うん、まあ安心して!他の人も居るし!安心だよ!それじゃあ行こう!」
「うんーーって嫌だ!!」
「大丈夫、私からの贈り物もあるから!君なら生きていけるはずさ!それじゃあ、私はいつでも君を見守っているから!」
急くように早口で説明された言葉を理解する暇もなく、エールに背中を押される。
元々上下左右わからなかったが、今は落下している事がわかる。光の粒子が奔流し、俺自身も光になっていく。
不思議と心地よい感覚に包まれて、俺の自我は地球上から消えたのだった。