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召喚奴隷の異世界録  作者: 荒渠千峰
4章 氷上境の戦線
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14 竜の導き


 今日は色々なことが一度に起こり過ぎて流石に疲れたということで、各々休むことにした。

 引き続き療養が必要な俺は保健室のベッドに、宿直室にはセネカが寝て、あの濃い老夫婦は学校近くのどこかの家に勝手に住んでいるらしく、そっちへと帰った。なんとも迷惑で注意しようとも思ったが、今はどこも空き家も同然なのでいいのかなと思いつつ言い留まった。



「はぁー」



 この場所を護っている人間は俺と同じ世界の人間ではなかった。話によると俺と同じ神竜を相棒にしているらしく、ナバトさんが俺に目を付けたのもそれが理由だということだった。



「つまりは俺もそういった使命がある人間だと勘違いしちゃったわけか」



 ……使命。



 竜崎家を見たときから元の世界へ帰る希望が潰えたかと思っていたが、今はココを護っているらしい銀の鎧を着た騎士に興味があった。この中に居る限り、襲われることはないということだが他の場所に出るとたちまちソレは目覚めるらしい。何しろここ一帯はその蒼白い神竜、名前はなんと言ったか、神竜ジヴラシオンとやらの魔力が根付いていてちょっとやそっとの魔力感知などは無意味だという。

 木を隠すなら森の中、とはよく言ったものだ。



「俺と同じ可能性だって……あるよな」



 自分自身の能力、と考えてみてもこの世界から来ているわけじゃないリキヤが魔法を扱えている以上、例外はあると思ってもいいだろう。ナバトはリキヤがこっちの世界の人間だと思って話しかけていたわけだけど、実際は違う。異世界の人間がこの場所を護っているというのはどうにも腑に落ちない。ならば、リキヤと同じ世界から、ここと同じ場所から来た人間でいたほうが辻褄は合う。

 自分だけがいろいろな魔法を使える、という事実であった方がリキヤ的にはテンションが上がるが、そうは言っていられないのが現実だ。異世界の人間で魔法が使えるやつは必ず存在する。



「どうにかして会えないものか」



 相手が話の通用する人間とは限らないが、そうでないとも言えないんじゃないだろうか。少なくとも俺の棲んでいた町を護っている、とは言いきらない方がいいか。この場所に固執する何かしらの理由があるみたいではあるし。見たことも会った事も無いから何とも言えないが。



「余計な期待を込めて、後悔するのは俺自身じゃないか」



 胸の奥のざわつきをどうしても鎮めたいのだ。だけど、その可能性を否定はしたくないのだ。

 その騎士の正体が、もしかしたら雹華なんじゃないかって。

 何故、竜崎家の二階に行ってはいけなかった? あそこは危険だと言われたから、では何故危険なのか。その神竜がそこに居たからではないのか? 数ある家の中でわざわざ竜崎家を、二階にある雹華の部屋を選んだのか。

 いや、待てよ。

 ナバトが言っていたことを思い返すとその銀騎士は数十年前からここに居るという、俺がこの世界に来る前に雹華と一緒に居た、ということはそれよりも前から雹華がここにいるという事は考えられない。この世界に召喚される時系列が同じじゃなければ可能性はある。そうなると俺がここへ飛ばされたあとのいずれかに雹華はこの世界に飛ばされるということになる、のか?



「くそっ! 訳わかんなくなってきた……」



 これ以上考えても答えはきっと出ない。正体を確かめたくても今は無作為に動くわけにはいかない。万が一違ったらどうする? 襲われたら勝てるのか?

 今までのような行き当たりばったりじゃ、勝てない。



「修行って言うとちょっとカッコつけてる感じがするけど、仕方ない」



 今ある問題に対抗できるように、明日は自分の力を試そうと決意し、深い眠りについた。







* * * * * * * * * * * *







 昼と夜の概念が存在しないと分かった、そんな一日の始まりだった。外を見ても寝る前と変わらない薄暗い空だった。

 ふと、自分たちの捜索などは行われているのだろうかと考えてみる。ディアさんたちは心配しているのだろうか。

 いずれは戻らなければならないが、今はとにかく確かめたいことが多い。



「雷を通すもの……金属や水とか、か」



 今、自分が扱える属性は雷。それを駆使した闘い方をどうにか編み出さなければ、これまでの付け焼き刃じゃなく。



「そういえばココって学校だったな」



 保健室を出て職員室へと訪れたリキヤは古い記憶を辿るように壁側を注目しながら歩く。確か記憶の通りなら棚の側面にフックが付いている筈だ。



「あった」



 たくさんあるフックにはそれぞれ名前プレート付きの鍵がぶら下がっている。グラウンド、と書いてある鍵を手に取り職員室をあとにする。グラウンドそのものに鍵があるわけでもないが、これは誰が一目見てもグラウンドにある倉庫の鍵を指していると分かるため簡略化されている。なんとなく抜けている感じがして笑えてくる。

 職員室を出たリキヤは一つ隣の扉を見て立ち止まる。



「…………」



 職員室の隣は宿直室になっているが、セネカが恐らくまだ寝ている。声を掛けようかとも思ったがまだ眠っていたら少し申し訳ないと思いそのまま生徒玄関へと向かう。

 昨日は焦っていて気付かなかったが靴の汚れなどが何故か床や壁につかないという現象が起こっている。ナバト曰く、これもジヴラシオンという神竜の魔力によるものらしい。何十年とここの姿かたちは何をどうしても劣化することがなく、本来ある扉などはそのまま開いたり閉じたりする動作に関して問題はない。だがもちろん電化製品などは電気がないと反応しないし水も水道を引いているわけではないから氷壁からの天然水を汲んでこなければならないらしいが。そもそもナバトたちに電化製品は扱えないし、それどころかきちんとした用途も知らないだろうからあまり困らないだろう。

 この町そのものがまるで冷凍保存でもされているみたいだ。

 土足のままグラウンドへ出ようが汚れないので心配などはないが、靴に砂利を踏む感触がくるので妙にソワソワしてしまう。

 もともと倉庫には鍵穴がないので錠前と鎖が施されている。錠を外し開き戸に巻きつけてある鎖がジャラジャラと音を鳴らしながら下へ落ちていく。ゆっくりと扉を開けると埃っぽい臭いはしたものの、中はきちんと整頓されていた。

 リキヤが捜していた物はわりと直ぐに発見できた。少年野球があることを思い出し、少しくらいはあるだろうと思っていたが割と種類は豊富だ。木製やアルミ、カーボンやジュラルミン。その中でもいいのは恐らくジュラルミンと思われる黒いバットを手に取りグラウンドへと出た。

 野球部ではないが見てくれだけで素振りをしてみる。悪くない。



「雷をイメージ」



 グリップを握る手に集中させてみる。



「避雷針の代用にはなるかな」



 雷の力を通す回路のようなものを作ってみたかったのだが、生憎のこと理数系は得意というわけでは無いので扱い方に明確なイメージが出来ない。



「貫く、弾く、磁力とかも雷で出来るのか……?」



 うまくいけば摩擦とかで熱も作れるかもしれない。



「応用さえ利けば立ち回れるかな」



 試しにバットを置いて少し距離ととってみる。右手に魔力を集め掌に雷を滞留させるイメージを作る。するとバットが引き寄せられるように回転しながらこちらへ飛んできた。



「っ!?」



 その勢いに圧され恐怖を抱いてしまったリキヤは堪らず避けてしまう。だが、軌道を変えたバットはUターンをしてリキヤの背中に直撃した。



「~~っ」



 声にならないほどの痛みでその場に倒れたリキヤは下唇を噛みきる勢いで無理矢理立ち上がり、また同じ工程で試してみる。



「見えない糸のように引っ張るイメージで……」



 手に当たりそうな残り数センチあたりで雷を押し出す。すると回転していたバットが宙でピタリと止まる……が、押し出す力が強すぎたのか逆回転しながらバットは地面へと突き刺さった。



「今までのようにはいかないか」



 扱える魔力量の桁が並外れているということなのだろう。



「神竜の、セネカの力か」



 今度ばかりは自分の力でどうにか出来そうな問題ではない。魔法石も策もない今、勝手に吸い上げてしまったセネカの力をどううまく扱うかだ。



「ほう、これはまた珍しい戦い方を編み出そうとしとるの~」



 バットの扱いですっかり気付かなかった。少し距離をとったところにナバトが寝惚けた様子で立っていた。



「同じような戦法をしていた娘を思い出させる動きじゃ、何年前じゃったか」



 顎鬚をさすりながら低く唸るナバト。正直あまり集中力を削がれたくはないのだが、助けてもらった恩義もあるので大人しく動きの確認を再開することにした。



「それ、続けるのはよいがもっとパートナーと仲良くすることも大事だとは思うぞ?」



「セネカか? 生憎だけど、あいつを連れて戦いにはいかないですよ」



 回転しながら戻ってくるバットをようやく掴むことに成功した。だがそのまま勢いが止まらず後方へと回転しながら突っ込んでしまう。



「調整できね!」



 茂みに頭から入り込んだリキヤは口の中に入った葉っぱをぺっぺっと吐き出しながらヨロヨロと立ち上がる。

 怪訝そうにこちらを見ていたナバトに先ほどの言葉の続きを言い忘れていたことを思い出した。



「セネカは人間じゃない、とか言うのであれば俺は怒りますよ。あいつは精神的にまだ年端のいかない女の子って認識してますんで。そんな子を何故危険な目に遭わせないといけないのかって話です」



 怖い思いをしたっていうのに、何度も同じ目に遭わせられるかよ。

 例え相手が人と竜で同時に攻めてきたとしても、同時に相手取れれば万事解決な話だろうに……。



「敵をなめきっておるのう。あとパートナーを見くびっておる。それだと今まで同様、何も成し遂げられはせんぞ」



 今まで同様? まるで俺のしてきたことを見てきたかのように語りやがって......。



「あんたにいったい俺の何が分かるって言うんだ!」



 それを言った。確かに思った事を言ったはずなのに、それを少し後悔した。

 目の前にいる老人ナバトは、まるで世界の全てを悟っているような悲哀に満ちた顔をしていたのだから。



「ただの老害と思うてくれるな。これでも多くの人間を見てきた身ぞ? 儂には分かる、おぬしにとって大切な何かが、護られているだけの器か? 今も籠の中に入れておくつもりか?」



「じゃあ俺はどうすればいいんだ……」



 ナバトの表情につられ、何故だか自分自身のやろうとしていることに疑念を抱いてしまった。このままじゃいけないのに、余計にダメな方向へ陥ろうとしている気がして胸がざわついてしまう。



「今は悩め、自分だけじゃ解決しないのであれば話せばよいんじゃよ。話し合ってから悩むのと一人で悩むのはまた別格じゃぞ」



 空を仰いでみても先が見えない。気持ちが晴れないのと同じように空は薄暗く何もない。風も吹かないこの空間で、見慣れた慣れない町にまだ気持ちが揺らいでいるのかもしれない。

 そういえば、俺はまだセネカとまともに話していない事にようやく気付いた。



「答えが出たあとに、改めて修行に付き合おうぞ」



 リキヤの気持ちの変化に気付いたナバトは笑みを浮かべながらその場から消えた。


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