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召喚奴隷の異世界録  作者: 荒渠千峰
4章 氷上境の戦線
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12 目的の過失

今月は多忙につき、投稿が遅れてしまい申し訳ないです(・・;)


「ひゃっ」



 突然点いた灯りにセネカは驚きを隠せなかった。

 目覚めた場所は畳が敷き詰められた部屋で、セネカは畳を見るのは初めてだった。



「珍しい床、それに床に布団を敷いているなんて変な感じ」



 しばらくすると一つの大きな叫び声がセネカの耳に届いた。



「な、なに!?」



 警戒をみせようとしたがつい先刻ほど自身の未熟さを思い知ったばかりではないか。それに自分が居る部屋には他に誰も居ない。少し埃っぽいが寝泊まりをする部屋というのは理解できた。



「もしかして、リキヤ?」



 この叫び声をあげているのがリキヤだとしたら、悠長に寝ている場合ではない。もしかしたら何かあったのかもしれない。早く合流をしなければと思うセネカだが、まずここが何処なのかさえ分かっていない状況で果たして勝手に動いていいものなのだろうか。



「うだうだ考えてたって仕方ない!」



 布団を這い出て立ち上がったセネカは自分の格好に驚いた。ボロボロだった服が一新され白いシャツと下は黒の短パンが穿かされていた。



「え……」



 自分はこんなものを着ていた記憶は無い、それに着替えた覚えもない。もしかしたら誰かが着替えさせたのかもしれないが、それが一体誰なのか。セネカは鳥肌が立った。



「う、急に怖くなってきた」



 だが、ここを出て行かなければどうなっているのか分からない。この状況を早く理解するためにも、そしてリキヤと合流するためにも、セネカは扉に手を掛ける。

 開けた瞬間、その先は白い廊下になっていた。珍しい造りだ、セネカは未だかつてこのような場所を見たことが無い。灯りが点いているようだが白く細長い、これも見たことが無かった。



「そとだ」



 この位置からでは低くてあまり確認できないが、外は土っぽく、そして外壁と門構えがきちんとしてある。やはりどこかの屋敷なのだろうか。

 真っ暗な外がぼんやりと見える。その先の方は、見えない。小さな家々が密集するように建っておりそれを繋ぐように細い糸があちこちを張り巡っているようにも見える。



「なんだろう、あの糸。何かを掲げているわけでもないし」



 キャルベランの街並みの様に民家の間にはロープなどが張ってあり、そこに服や国旗などが吊るしてある風景ならば多々目にする。だが、ロープなんかよりも細いうえに、何も掛かっていないとなると、少し物悲しい気がした。



「地面も石造りには見えないし……不思議なところ」



 外を眺めていると突然、ガラスの割れる音が建物内に響き渡った。



「な、なに?」



 体をビクつかせたセネカは慌てて外の方へ視線を向ける。どこか焦る表情をチラつかせながら門の外へ走る人影を見た。そしてその人物をセネカは一目見ただけで理解できた。



「リキヤ!」



 セネカは居ても立ってもいられず、ココを出る為の玄関を捜すために走った。







* * * * * * * * * * *








 見覚えがある。いや、あった。


 でもそんなはずはないと自分に言い聞かせたかった。それでも自分の知っている光景を肯定したくてリキヤは走った。

 否定できれば楽になれた。今まで葛藤していた想いが無駄な時間だったなんて考えたくない。そしてここを否定できなければ、自分は恐らく壊れてしまうだろう。帰りたかった世界を、そんな世界を模している本物か偽物なのか分からないこの場所は、きっと終わりを迎えているのだろうから。

 この世界で見て来たどこよりも安心するはずの生活感あふれる光景が、その輝きを魅せようとすらしてくれない。



「あ、ああ」



 走りながらも懐かしい光景がまるで走馬灯かのようにフラッシュバックしてくる。その感情を沸かせる度に、リキヤの胸の奥を何かが締め付けてくる。



「この範囲なら恐らく、あるはず……!」



 道に迷う事は無かった、しばらく通らない道であったとしてもそれが己の棲んでいた馴染みのある場所なら、何も知らない世界のどんな場所よりも自身を以て突き抜けることが出来てしまう。



「…………」



 時折何かを期待するように周りの民家に視線をチラつかせるが、人の気配は何もない。人は滅んだのだろうか、なら町はどうしてここまで綺麗に形状を保っていられる? いや、そもそも誰かが造り上げたものかもしれない。だとしたら俺より先にこの世界に来た、元の世界の記憶を持つ誰かということになるのだろうか?



「体中のあちこちがいてぇ」



 痛いけど、だからといってそれを理由に歩を緩めない。それを理性が赦してくれない。お前は一刻も早く確かめなければならない、そう言われている気がしてならない。そしてあの角を曲がれば目的のものが見えてくる。



「は、はは」



 緊張の糸がとうとう切れた。

 それを見た瞬間、たまらず膝を付く。コンクリートで出来た地面の痛みなど忘れ去ってしまう程に、リキヤは今見えている光景に思わず涙が出てしまっていた。



「表札まで……よく出来ているじゃないか……は――」



 乾いた笑い声が誰もいないその世界に響いた。

 もし今ここで認めてしまえば、今まで頑張ってきたことが無駄に終わってしまう。絶望してしまう。やっと自分という存在を掴みかけた矢先で、こんな酷いプレゼントを神様は与えてしまった。



「なんで、よりによって俺の家なんだよ……俺たちが住む町なんだよ!」



 そこに掛かっていた表札の『里山』という苗字を見たリキヤは力なく頭を垂れた。

 これ以上、傷付いてはいけないと分かっていても確かめなければならないことがあったリキヤは何かを思い出したように立ち上がり少し来た道をもどっていく。今度は違う角を曲がり足取りもおぼつかない。



「あの日は六月になりかけてたってのに……やたらと寒かったな」



 この世界に来る前の夜、その時のことをふと思い出したリキヤは少しだけ肌寒い今の空気に懐かしさすら覚えつつ歩く。



「そうそう、わりと近いんだよな」



 分かってはいたけれど、やはり望みは薄かった。

 あの時と何も変わらない、それが何よりもリキヤの胸を深く突き刺した。



「竜崎家」



 作り物だと信じたかったが、虚妄に浸るほど今の自分は愚か者になれない。もう自分を騙す余裕すらない、目の前にある現実を受け止めるしかない。それは今まで頑張ってきたリキヤに終止符を打たせるには理由は十分だった。この世界を本物を認めてしまう。ならばキャルベラン城にあるかもしれない元の世界へ帰るための手掛かりは? 今ここにある自分の知る世界は何なのか。元の世界でいったい何が起こったのか。親は何処に? 友達は? 他の人は?

 大好きだった幼馴染みの雹華はどこへ消えたというのか――――。

 好きな人が待つ世界へ帰りたかった、そんな世界が誰も遺さずしてここに現在或る。リキヤは帰るための希望と理由を失くした。


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