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召喚奴隷の異世界録  作者: 荒渠千峰
3章 異世界指名手配
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27 神竜の幼子


「この世界の事を全く以てよく分かっていない君に、良い事を教えてあげよう。本来ドラゴンには属性ごとに環境に適した姿になるんだ。空に棲む者は自身を霞みに変えることもあるし、自然の中では擬態することもある。岸壁で岩のようにジッとしている者もいるし、こうやって人間社会に溶け込む者だっているってわけさ」


 リキヤはグロートの話が素直に頭に入ってくるわけでもなく、かといって肝心のセネカを見つけて尚も素直に安心できないのには幾つかの思いがあったからだった。


「なんだよ、ドラゴンって……お前は俺を、俺だけじゃなくてディアさんとか他の家族のことも騙していたのかよ……っ!」


 リキヤの拳には力が入る。体の痛みで地面に膝をついてしまった、その姿を見ていられないのか、金色の竜は心配そうに近寄ろうとするが臆してしまう。

 自分は人間じゃない、皆を騙して生きてきた卑怯者だ。穏やかな家庭を壊して、挙句の果てにこの世界の人間じゃないリキヤをこんなにボロボロにさせてしまった。




 そりゃ、怒るよね。怖がらせるよね。不気味だよね。嫌われても仕方ない、よね。




「その状態じゃ、人の言葉も喋れないのかよ……」


 リキヤは目の前の雷を帯びた竜に手を伸ばす。



 だ、だめっ!



 少し高い声を上げて、後ずさりをした。鱗に触れようとすると静電気の様な感覚が奔ってくる。それでもリキヤは尚のこと近付き、竜の角を掴み引き寄せた。その眼差しは真っ直ぐセネカという人格に向き合っていた。


「恐くなんかねえ、痛くもなんともねえ。自分が何者かだなんて今は考えなくていい。だから……」


 セネカの眼には涙が溜まっていた。


「俺と一緒に帰って、言いたいことがあるならその人たちに言う言葉を考えとけ。一緒に謝るくらいならしてやる。それでお前を忌み嫌うような人たちじゃないのは分かってるだろ?」


 ドラゴンの肌ってのは、とても冷たいな。冷たくて硬くて、そしてセネカの場合だけなのだろうか、ピリピリしてる。それでもきちんと体面には熱を持っている。自分にも誰かにも優しく出来なかった、幼いその身体は確かに暖かかった。


「クルルッ……」


 突如、セネカの体が発光し始める。グロートはその現象に見覚えがあった、だから動いた。その現象だけは避けねばならない。


「水を差すようで悪いね、戻って貰っては困るんだよ」


 リキヤの襟首を掴み後方へ放り投げ、セネカから距離を離した。リキヤの身体は宙を浮き、木箱にぶつかる。煙を巻き上げ崩れた木箱の中でリキヤは咳をする。セネカの体の輝きも次いで失われた。


「もし神竜の魔力が人に転移できたら? 君はこの世界の人間ではないと言っていた、だけど確かに魔法を使っていた、それは魔法石なんかの類じゃとても発動できないものばかりだ。魔力の源であるドラゴンからどうして人が使えるまでに魔力を宿した? それを可能に出来るなら異世界から来ていようが、生まれつき魔力が乏しくても強くなれるんじゃないのか? その実権の為に、この幼体はどうしても必要なんだ。まだ魔力がうまく扱えない幼体がな。とても貴重なんだ、何も殺しやしないさ」


 言いながらグロートはリキヤを引きずり、扉を開いて外へ投げ出す。


「俺たちの大事な兵器なんだからさ」


 さらに負った背中の痛みに悶えながらリキヤは集まってきた男たちに囲まれる。


「どこかに捨ててこい、お客さんはお帰りだとよ。あと魔力無しの奴らを呼んできてくれ、そろそろ実験を開始する」


「実験ってなんだよ!? 何をするつもりだ! おい、グロート!!」


「あー、それと野暮用で出掛けるから見張りよろしくな」


 恐らくはグロートの本当の意味のところである仲間の男たち二人に担ぎ上げられ、抵抗も虚しく呆気なく外へと運び出される。森の中を数分歩いた先の地面に無造作に投げ捨てられる。


「グロートさんも甘いよな、早く殺してしまえばよかったのに」


 みすみす帰すわけにはいかない、と言っていたのに外へ追い出すとは虫が良すぎる話だと思った。案の定、男たちは腰元にあった剣を抜いてリキヤに剣先を向けた。


「やっぱりそう簡単にはいかないよな!」


 リキヤは、油断しきっていた男の一人に向かって石を投げた。


「がぁぁあああっ!」


 男の体は火だるまの様に一瞬、燃え盛りその隙にリキヤは一発顔をぶん殴る。その男から剣を奪い取り呆気にとられていたもう一人の男の太ももに貫きとおした。

 痛みで叫び助けを呼ぼうとした男を蹴り飛ばし茂みの方へ突き落した。下は二メートルほどの崖となっていたのでそう簡単には死なないだろうと思いつつも剣を地面に置く。


「俺を運んだのがたった二人で良かった……」


 リキヤは暫く切らした息を整える為に下を向いていた。


「………………」


 グロートが恐らく主謀核とみて間違いはないだろう。とうとうあいつの魔法がどんなものか見ることは出来なかったが、厄介なのはその周りだろうか。恐らくはこの世界の人間でグロートの配下となっている人間がさっき俺を外に出した五人で間違いはないだろう。格好が明らかに違った。そして元の世界から召喚されてきた人間が四人。召喚されてきた人間がこれで全てなのかは断定できないが、明確な魔法を使うだろうという敵は五人だ。グロートを入れると六人か。


 さっきので確信した、俺はいつの間にか魔力感知が出来る様になっていたらしい。今まではただの思い込みだとばかり思っていたが明確な位置が分かっているというのは偶然ではないと信じたい。集中しなければ分からないことだった為、いつから使える様になっていたのかは判断できない。これで事が優位に運んでくれる、今からでも充分に反撃が可能だという事だ。


 リキヤは手元に握っていたキラキラと光る石を目の前に置いた。リキヤが運ばれている時に、敵からくすねた物だ。他の奴らが持っていたポーチのような鞄を下げていたのでこっそりと手元に忍ばせていた。


「……やっぱり」


 魔法石に関しては魔力感知が微弱だった。こればかりは近くにないか、死ぬほど集中しない限り感知することは不可能だ。

 そしてリキヤが初めに出くわしてしまった、元仲間の異世界人。恐らくは彼も魔力を有して無い為に感知が不可能だ。だが今のリキヤは彼らと同じ状況、つまり魔力を悟られることはないという点においては奇襲に出られる筈だ。今回は武器も手にした。反撃するには十分可能な手はずだった。


「ルティさん、来なかったな」


 せめてもの救いとして彼女が居てくれれば全員を倒すことも容易だったが、それは甘え過ぎなのかもしれなかった。


「底辺である俺を舐めた事を、思い知らせてやるよ」


 リキヤは立ちあがり、再び建物へと向かって歩き始める。グロートが言っていたことを鵜呑みにするならば、今は絶好の勝ち込み時だった。


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