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召喚奴隷の異世界録  作者: 荒渠千峰
3章 異世界指名手配
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26 セネカ・ロージャ

 ドラゴンについては幾つか分かっていない説がある。恐竜時代からの生き残り、またはホムンクルス、神の使いや神そのものだとか。空を舞うその姿は仰々しく、また神々しい。一般的に空を舞う竜は野生だ。ドラゴンに野生も何もないと思うが、竜の中でも末端だということを意味する。彼らは魔力の持たない者には見ることが出来ない存在なのだから。ドラゴンは魔法によって誕生したとも言えるし、魔法はドラゴンによって誕生されたという絵本がこの世界にはあるほど、密接な関係なのだ。


属性加護が付くまでは魔法を使う事は極めて困難だ。世界には魔力が充ちているという状態から考えると、無力も同然だ。この世界で起こる現象の一つ、『属性加護』とは人が持つ魔力を中和してくれるものだ。それは生まれてから十二年という年月でやっと結びつく。属性加護を持たないまま高濃度の魔力の出現地へと向かえば、たちまち吐き気や頭痛に襲われ近付くことを許されない。


 一般的なドラゴンにも属性加護があるが、それらを有さないドラゴンもまた存在した。

『真龍』または『神竜』とも呼ばれる極めて知能が高いドラゴンだ。この世に同じ属性を持つ真龍は二匹と存在できない。故に子を遺すときは己の死を意味する。精霊たちを生み出すのも真龍と言われる程に存在価値は絶対的象徴であった。


 各属性の中で頂点に君臨する真龍、姿を変えることもまた可能であった。そして魔力は底なしとされている。


 竜交祭、私が拾われたのはその日だった。とてもよく晴れた日、何も分からないままに泣いていた。青い空を見ながら、凪いだ空気に身を震わせながら。ただただ周りから聞こえてくる楽しそうな音域に、私の鳴き声はかき消されていく。


「どうしたのー?」


 声を掛けられた。金髪を二つに括った十歳くらいの女の子が立っていた。


「どうしたんだ姉さん」


 こちらも同じく金髪の少女。ボブカットの少女は体格としては少し小柄だが、大人びていた。


「ディア、これってきっと迷子だよ」


「それなら一度お父さんとお母さんに相談してから、街中を捜してみましょう」


 ディアと呼ばれた次女はしっかり者だった。魔力には長けているわけではないが、属性加護も領域が広くハッキリ言うと芯が強かった。


 姉のアシュリアも魔力は著しく弱く病弱気味だったが、次女の勇敢さに自分の弱さなど小さなものだと気にはしていなかった。ロージャ家は代々魔力に嫌われている家系らしいが、人柄は良くとても好感をもたれた。それにより周りの信頼はとても厚かったようにも思える。何故、幼い私がこんな情報を持てているのか、それを疑問に感じるにはあと数年の時を要するわけだが。


 結論から言えば私の家族は見つけられなかった。

 孤児と断定された私は普通ならば施設行きだが、寛大なロージャ家の当時、当主だったアシュリア達の父は竜交祭で拾われたのも何かの縁だと言って、私を養子に引き入れた。


 私はその日以降、セネカという名前を与えられ、ロージャ家三女として育てられた。




「私をこんなところに連れて来て、どうするつもり?」


 馬車の荷台、木箱の中に押し込められ着いた先は森に囲まれた建物だった。どうにも無理矢理連れて来られた割には、強制的という連行の仕方ではなかった。いう事を聞かせるための暴力を振るったりするわけでもなく、肉多面に関しては少なくとも傷つけようという企みがなかったのだと思った。


「まあまあ、いいだろ? どうせあの屋敷にいつまでも飼われてたってロクな事ないんだから、どうせなら有効的にいきたいじゃないか。ほんと今の今まで勿体ないことをしてきたよ」


 建物の中に誘導され仕方なく歩く。逃げ出そうとしても恐らく成功する確率はほぼゼロだということは分かっていた。しかも、意味不明なこの男が使う魔法の仕組みを理解もしないで動くのは自殺行為に等しい。


 それならばただ誘拐の被害者ではなく、相手の素性を探ったうえで意味のある人質として居ようではないか。

 ただ存在しているだけでいいなんて、私は絶対に嫌だから。耐えられないから。


「いいよな、存在しているだけでいいんだもんな。俺たちはそういうわけにはいかなかったからさ、羨ましいよ」


「さっきから何を言っているのか、ぜんぜん分かんないんだけど」


 扉を抜けるとそこはまるで憩いの場みたいだった。奥にはキッチンも見えており、食堂か何かだったのだろうと察した。天井は高く、二階の各部屋と連動していた。宿舎か何かだろうか、と思った。想った以上にさびれている感じもするが、それは脆くなった建物の現状を差し引いてもやはりどこかが寂しく感じられた。

 まるで監獄のような隔離された感じがする。


「この奥の部屋に入って、そこで君をさらった本当の目的を話してあげるから」


 グロートに促されるまま、私は言われたとおりにその部屋へと入る。後ろから付いてきていた男たちはいつの間にか居なくなっていた。


「はぁ? 一体なんのことを……」


「まだ恍けるのか? 人間のふりをよくもまあ、続けられたもんじゃないか……。なぁ、雷神竜『ヴォルガーナ』って知ってるか?」


 ソファに座りグロートは話を続ける。セネカも一人用ソファに座り、フンと鼻を鳴らす。


「バカにしてるの? 各属性に一体ずつしか存在できないっていうドラゴンのおとぎ話でしょ? そんなの誰だって知ってることじゃない」


「お前がその一体だとしても?」


「は…………」


 ハッキリと「違う! そんなわけがない!」とどうして口に出さなかったのだろうか。本音は否定したかったのも事実だけど、それが全く違うという否定も私には出来なかった。

 私は拾われた子だった、それは何故か自分だけでもその記憶が呼び起こせるということが、疑問に思わなかった。思えなかったのだ、そういうものだと私は思って育ってきたから。

 でもそうじゃない、人の記憶というのは曖昧だという事実を知った。単に記憶力がいいだけだと思いたかった。些細な事でも覚えている賢い子どもだと周囲は褒めても私自身がそれを認めなかった。私は変わっていた。


 私が拾われてから優しくて温厚だったロージャ家は突如とした力に目覚める兆候が度々見られた。目覚めた魔力は強力だったため、ロージャ家の経済は瞬く間に豊かなモノになっていった。一見、それはいいことの様に思えた。

 しかし、最も高い魔力を目覚めさせたのはディア、次いでアシュリアだった。女の子の身でありながら、時には勇猛で正義感が強い彼女たちは、もちろんその魔力を国の為に生かそうとした。国にとって異例中の異例だった。王が亡くなった国の主謀たちはこともあろうか二人の少女を戦場へと送ったのだ。

 一時は民の反感を買えど、その実力には誰もが目を瞑るしかなかった。力が膨大過ぎたのだ。アシュリアもディアも次第に情を捨てるようになり、ロージャ家の人々もまるで悪い夢にうなされるかのように人柄が変わってしまった。政治欲に目が眩んだ一家は最愛の娘たちを戦場へ送ることに罪悪感が無くなり、自分たちの収入源とばかりにしか思わなくなったのだ。


 私は、それがたまらなく嫌だった。だから私は、次女として三女の面倒を誰よりも見ていて、誰よりも強く気高いディアの魔力に対して無意識にリミッターを掛けたのだ。



 これで少しは皆も考え直してくれると。



 だけど、そんな甘い考えはすぐさま打ち砕かれた。

 力を失くしたディアは絶望したのだ。過信していた自分の思い上がりに激しく後悔した。一緒に、無邪気に遊んでいた頃の優しいディアに戻って欲しかった。だけど、私が見たのは全身がボロボロになっても魔力を熾すことを未だ諦めずに、必死に戦うディアの姿だった。姉のアシュリアが少しずつ戦場で名を上げていく最中、ディアはただただ声にならない叫び声をあげて地面に打ちひしがれているだけだった。


 次女のディアの魔力が消失し、このままではアシュリアの魔力も無くなる可能性もあると、もしそうなればロージャ家の信用を無くすかもしれないと恐れ、怯えていたアシュリアの両親、つまり私の里親となっていたお父さんとお母さんは自殺した。


 長女のアシュリアは自分が家族を護るという使命に縛られ、全盛期に戦場で戦っていたディアのような人間になることを決意し、自分という人間を捨ててしまった。

 次女のディアは全てに絶望をした後、己の中に宿していた正義感を封印して誰かの為に出来る限りの事をしようと、己の未熟さを嘆いて弱いことをただただ受け入れていった。


 そして三女……、彼女は、私は、自分を拾ってくれた家族にしでかした罪の重さに耐えきれず、自身に様々なリミッターを掛けることにした。魔力も、思い出も。







 セネカの目からポロポロと涙がこぼれた。


「何を思いだしたのかは知らないけど、自分が自分じゃない事だけは分かったんだよな?」


 グロートは表情を一切変えることなく、冷静だった。


「誰だって過ちはある。でもそれはもう取り戻せないことだからな、だったらもうそんな悲劇は起こらない様にしたいだろ?」


「いや、やめて……」


 グロートは立ち上がり、セネカの前に立つ。見下ろすその眼は、とても冷酷で人を見るような眼差しでは決して感じ得なかった。


「ドラゴンってのは諸説あるが、一番効果的なのは感情の揺さぶりだったか」


 グロートはセネカの服に手を掛け強く引っ張った、というよりは引きちぎった。千切れていく繊維の音は一瞬でセネカの上半身を護る物は無くなり、白い肌が露わになる。その衝撃にセネカは何が起こったのか分からず反応できなかった。


「あ……ああ…………」


 頭が真っ白になる。零れた涙もいつの間にか枯れていた。そしてセネカはその場で歯を食いしばった。こみ上げる恥ずかしさと怒り、そして恐怖。それらの感情が昂って自分の中にあったリミッターが外れていくのが分かった。


「ははー、やっとお出ましか」


 魔力の渦に少し目眩を覚えながらもグロートは上げた口角を下げることはなかった。

 セネカの体が光を放ち、形状がみるみる変化してく。白い柔肌はパチパチと電気を放つ硬い鱗に変わり手の形も大きく爪も鋭く、口は大きく牙は尖ったものに。発光がやがて治まるころには、セネカが居たソファの上にセネカと同じ大きさ位の青白い電気を放つ金色の竜が、そこには居た。



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