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召喚奴隷の異世界録  作者: 荒渠千峰
3章 異世界指名手配
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25 グロートの思惑

 動こうとすると節々が痛い。痛みが更に強い痛みを神経として伝えてくるこの身体が鬱陶しくて仕方がなかった。胸部が焼ける様に熱い。いや、実際に焼かれることがあったので「様に」では表現として間違えているのだが、そうとしか表現できないくらいに痛みが、熱が襲い掛かっていた。

 ヴァラウィルと戦った時とは比べ物にはならないくらい小規模な攻撃な事は分かっている。だが、あの時よりも非常に痛みが増している、というよりかは今までの方がむしろ麻痺していたのではないかという気さえしてくる。

 本来、人は少しの刺激にも強くは無いのだ。今まで平然といられたほうが不自然だと言っていいくらいに、正気の沙汰ではない。


「あ…………っつぅ……」


 リキヤを見下ろす顔ぶれには共通点があった。突発した髪の色をしていない、ということだった。これが何を意味するか、リキヤは一瞬で理解できた。

 ……元の世界の人間だ。

 その場にいる全員が全員恐らくは別世界、地球と呼ばれる場所から召喚されてきた人たちだろう。魔法なんて使えない、この世界では餌として、また使い捨ての道具として扱われる人間たち。里山力哉と同じ境遇だったはずの人たち。

 そういえば、ナナミって子はこの世界に来てのカモフラージュの一貫かは知らないけれど髪の毛を黄緑色に染めていた記憶がある。生え際がわずかに黒かったので覚えている。恐らくそうすることでこの世界に溶け込もうとしているのではないだろうか。

 そんなことを思い返していると……。


「抵抗されると厄介なんだよ、俺達は魔法を簡単に使える奴らに隙を与えるなって教育されているもんでな。力は無いが、手数で攻めろってな」


「そういうことだ、頼むから抵抗はしないでくれ」


 顔なじみがある何人かと、そうではない人たち。その表情を、リキヤは知っていた。恐らくこういう実践的な事は、何度かやってきているのだろう。迷いはあれど、油断は無かった。


「どのみち、見られたからには逃がすわけにはいかないんだ。俺達の仲間にならないか? お前がどういう事情でここにきてあの女の子を連れ戻そうとしているのかは分からない。が、俺達が元の世界に帰るためにはあの子が必要なんだ」


 なんだ、何を言っているんだ?

 元の世界に帰る為に、セネカが必要? 必要とはなんだ? 人質か何かでキャルベラン側の言う事を聞かせようってわけではなさそうだが……。


「ぁ……あ」


 問い詰めようにも喉から先が締め付けられたかのように言葉が音にならない。高いところから地面に突き落とされて動悸がする。器官が思うように働いていないのだろう。未だに手足が痺れて動けるような状態ではない。


「少しは落ち着きたまえよ、君たち」


 リキヤを見下ろす連中は一斉に声のする方を向いた。


「グロートさん、お疲れ様です」


 倒れているリキヤを見下ろす人影が増えた。その顔に噛みつきたいくらいの見覚えと焦燥感が溢れ出た。

 お前が屋敷を、屋敷にいたメイドさんを、セネカを連れ去って、お前のせいで俺は捕まったんだ、セネカを返せ、セネカはどこだ、あいつをどうするつもりだ、こいつらはどうして生きている、ここにいる人たちに何を吹き込んだ、どうしてこの場所を選んだんだ、何故全員に魔法石を持たせている、お前たちの目的は何だ、セネカである必要はなんだ、俺はお前を捕まえる、無実を証明してみせる、お前が憎い、グロート……、

 お前を殺してやる。


「はははー、何か言いたことが多そうだね。いいよ、ゆっくりお茶でも飲みながら訊いてあげようじゃないか。リキヤ、お前の言いたいこと、望むこと、それらをきちんとお前の口から話してほしいね」


 グロートは来た道を退き返すように戻っていく。


「あ、君たち。彼を連れて来てくれ、くれぐれも乱雑に扱わない様に。俺の客だから、大丈夫、抵抗なんてしないさ。君たちもご存じの通りだろう? 彼は魔法なんて使えないんだから」


 どよめきを隠せない男たちは言われるがまま、反論もせずリキヤを担ぎ連れていく。


「ふぅ、すまないな。俺達は油断するとすぐ殺されちまうからな」


「二階から落ちるなんて、普通じゃありえないもんな」


 それぞれが労うようにリキヤに声を掛けるが、返してあげられる言葉がリキヤにはなかた。単純に喋ることが出来ないだけではない、どちらかというとショックの方が大きかったのだ。助けようとして助けられなかった人たちと、こんな形で再開しようだなんて、思えなかったから。そんな渦巻いた感情の最中でもリキヤの眼差しは先を行くグロートをしっかり捉えて離さなかった。


「…………」


 その様子を最初にリキヤと対峙した男は、疑念を抱きつつも黙って見送っていた。




「さて」


 奥の部屋へと連れ込まれた。来たことのない場所だった、ここは何の為に用いられた部屋だったのだろうか。そもそも意味なんて無かったのかもしれない。ここはもとより撃ち捨てられるための施設だったのだから。

 リキヤは木箱にもたれ掛かり、「二人にしてくれ」と言われ男たちは去っていく。その対面上のソファにグロートは座った。両手を広げ、脚を組み、真っ直ぐリキヤを見つめていた。


「よくあの女から逃げ切れたものだと賞賛しよう、あるいは説得でもしたのかな」


 …………。

 何も答えようとしないリキヤ。もうとっくに呼吸は整っているはずだ。だけど、その茶番めいた話し方が既にリキヤの抑えきれない怒りと同調し、今すぐグロートをどうにかしてやりたいという衝動と、それに応えてはくれない自身の身体に憤りを覚えた。


「まあ、いいか。今の君なら通じる話を一つしてあげよう。俺達の仲間になれ、リキヤ」


「なんでだ」


 痛みを押し殺しながらも口を開く。短い会話くらいならなんとかこなせそうだ。


「俺はあのキャルベランが憎いんだよ、それだけじゃなくこの世界そのものがな。魔力による優劣が付けられるような、生まれ持った力だけで人生を左右されるなんて世界は間違っていると思わないか? 奴隷みたいな扱いを受けて、お前だってそうだったんだろ?」


 グロートは眼を閉じて、数瞬でリキヤの状態を察した。


「やっぱりな、今のお前からはまったく魔力を感じない。最初お前に会った時は、冗談を言っていると思っていたけど、そうじゃなかったらしい。お前の中から僅かに魔力を感じたが今は全くそこらの連中と差異がない」


 魔力感知。理屈はよく分からないが体内に魔力を熾している場合など、それを感知できるらしい。

 今のリキヤには魔法が使えない。それは自分が望んだ結果には違いは無いのだが、それでも今の自分には何かが出来たものではないと思う。


「俺は……」


 世界を恨んでいるのだろうか。生まれ持った力、もといた世界では才能に似たようなものか。魔法とは、なんなのだろう。レベルなどという概念が無く、鍛えるようなものでもない。単純に集中力や熟練度とばかり思っていたけれど、それも違う。生まれつきで較差があるのだから。それは抗うことが出来ない絶対的な基準値になってしまう。確かに魔力で全てが決してしまう人生というのも嫌気が差すのも分からないではない。

 それでも努力をしたんじゃないのか。

 だから魔法石が生まれたんじゃないのだろうか。どうにかして魔法と親しみたいから、生み出されたものではないのだろうか。


「お前らは何を以てその行為をやろうとしてるんだ」


 どうにも引っ掛かる節がある。グロートという男には何かもやもやとした違和感を感じて落ち着かないのだ。


「報復かな。自分たちが何に護られているか知らない国民への見せしめさ。国の裏側は泥まみれなのになぁ、毎日毎日のうのうと生きててさ」


 言っていることはテロリスト宛らだが、グロートには何か感情の向かう先が違うような気がしてならなかった。


「セネカを返せ、報復だけなら人をさらう理由なんてないだろ」


 リキヤの真面目な表情にグロートは盛大に嗤った。


「何が可笑しい!!」


 起き上がろうとしたリキヤは忘れかけていた全身を蝕む痛みにむせかえりながら横たわる。


「無理はすんな。悪かったよ、お前は何にも知らないもんな。俺はさっきあいつらに二人にしてくれって言ったよな?」


 グロートは立ち上がり、薄暗い壁際まで歩いて行く。リキヤからは木箱が邪魔で奥が窺えない。

 突如部屋に灯りが点いた。


「ゆっくりとこっちに来てみろよ」


 言われるがままに、リキヤはゆっくりと立ち上がり箱に捕まりながら歩く。奥には少し広めの空間があり、異彩を放つほど傷付いた檻があった。

 その中にはドラゴンがいた。セネカの服がドラゴンの近くに落ちていたことに違和感を拭えなかった。ボロボロになった服と、もう一着ある新品の服、そちらはきちんとたたんであった。


「俺は人さらいなんてしていない。さらったのはコイツさ」


 ドラゴンの幼体はゆっくりと起き上がり、悲しそうな眼でリキヤを見つめ、低い声で鳴いた。


「セネカ……!」


直感でそう呼んでしまっていた。

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