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召喚奴隷の異世界録  作者: 荒渠千峰
3章 異世界指名手配
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21 忍び込む焔

 リキヤとはぐれてほんの少しあと、ルティはスタミナには自信があったので走った。時折後ろを振り返るが誰も後を追ってくる気配がないのでリキヤはうまく足止めをしているのだと、そしていの一番に追いかけて来てくれていることを願い小さな村に辿り着いた。

 木製の柵で囲んでいるこの村はごたごたとした街が住みづらい人たちが移住してくるのどかな村だ。そう認識しているルティは、まさかこの村にセネカが連れて来られるなんて考えたくは無かった。

 実際に村に入ってみてもおかしな点はとくに見当たるものじゃなく、子どもたちが外ではしゃいでいる風景からしても事件と関連性が全く無さそうだった。もしかしたらただ通過して行っただけかもしれない。とにかく情報を集めなければならない。


「すみません、昨日あたりから今日にかけて不審な人物など見掛けませんでしたか? あるいは馬車が通ったりなどは」


「ん……いや、悪いけど見てないなぁ」


 昨日から今日にかけての記憶を掘り起こしているのか、少し不安そうに答える老人。


「わかりました、ありがとうございます」


 そうしてルティは手当たり次第に声を掛けていった。だが、結論から言えば有力な情報は得られなかった。


 この村にいないならまだしも見掛けてすらいない、というのは少し気にかかりますが……。


 小さな村を抜けた先は国境に差し掛かるので正規の手続きをしていない馬車が容易く通過できるようなものではない。ならば国内に潜んでいることがまだ情報としては強い。最悪なケースを想像すると国境沿いにも仲間がいて突破されている場合……そうされては捜索どころではない。規模から考えると探し出すのはほぼ不可能になってしまう。


「それに、あの男はどうして私の過去を……」


 屋敷を襲ったあの男は、何者だったのか。セネカをさらったグループの一人ならば、また会う機会がある。その時にはっきりとさせなければならない。


「き、騎士様がこんなところに何の用で?」


 村人の慌てた声が聞こえてきたルティは民家の陰に身を寄せる。


「いや、この村に女が一人、訪ねて来なかったか?」


 騎士たちは後を追いかけてきた。それはつまりリキヤが騎士に敗れたということなのだろうか……。あるいはどうにか逃げてくれていることを願うが、こうなってしまってはきちんと事情を説明して協力を仰ぐ方が判断として正解だろうか。


「ああ、来なすったよ」


 こうなってはすぐに村を出ていくしかないか……。


「じゃがのう、昨日あたりからか村の近くに不審な人影が見えてな、村の連中は怯えてそれどころじゃないんじゃよ」


 っ!?

 さきほどから受け答えをしている老人はルティが最初に声を掛けたあの老人だ。だが、あの老人はまるでルティが頼みたいことをそのまま代弁している様にみえる。


「お姉ちゃん、こっちだよ」


 後ろから声を掛けられ振り返ると数人の子どもたちが手招きしている。一体何が起こっているのか、ルティもワケが分からないままに手を引っ張られ連れて来られた場所は村の南にある小さな林道だった。


「長老はたぶん、僕たちが見たものとお姉ちゃんの話が合っているからあんな話をしているんだと思うよ」


「合っている?」


 林道を進みながら引っ張る子ども達の手に不信感を少し抱きながらもついて行く。


「うん! 僕たち昨日の夜に森の方が騒がしかったからナイショで見に行ったの。そしたら馬の鳴き声とか地面を引きずる音とか、怖かったから逃げたけど」


「そのあと親にばれて怒られてるときのほうが私は怖かったー」


「わかるー」


 そう言いながら歩いていくと林道がやがて獣道になり道という道が無くなってしまう。


「あなた達はここから帰れるのですか?」


 注意していなければ大人でも迷子になりそうなこの森。来た道を戻るならば今の内だろう。


「へいきだよー」


 しかし、子どもたちが進んでいく道の方には人が立っていた。格好からして騎士だろうか。仮面を被って何かを捜している様子だったが、こちらに気付いて近付いてきた。

 ルティは子どもたちを自分の背に隠し構えた。だが騎士は慌てたように両手を挙げて降伏の意思を示した。


「えっと、お嬢さんはロージャ家のメイドさん、でしたよね?」


 どうやら素性が割れているらしい。それに狙いは自分たちではなさそうなので警戒を解くことにした。


「はい、まさかこのようなところにまで潜んでいたとは予想しませんでした」


「なにか誤解しているようだ」


 話を遮るや否や仮面を被った騎士は先を歩き出す。


「道案内ありがとうございました。ですが、ココから先は何があるか分かりませんので明るい内に村に戻った方がまた怒られなくて済みますよ」


「そっかー。姉ちゃんがそれでいいなら仕方ないね」


「ばいばい、また村に遊びに来てね」


「あでぃおす」


 少し不服そうだったが、これ以上は子どもたちも危険な目に遭いかねない。陽も傾いてきているため、夜の森は何かと物騒になる。子どもたちだけで帰らせるのは少し不安が残るが、この事件が終わったらもう一度寄ってみようと決心したルティは騎士の後を追う。多分それで正しいと思ったからだ。


「優しいですね、ロージャ家に介する方々は皆一様に聖人のようだ」


 騎士はこちらを振り返らないが、ルティに話を振る。


「私はそんなつもり、無いのですが」


「そうでしょうね、あの人だってきっとそう仰るでしょう。でも傍から見れば優しさになるのですよ」


 どういうことだろう。この騎士は自分たちを捕まえに来たわけでは無いのだろうか。もしくは敵側の人間か、今のところ魔力も熾していないうえに敵意を向けているわけでもない。まるでどこかに案内をしているように。

 ルティはますますこの騎士が何を考えているのか分からない。


「私たちを捕まえに来たのではないのですか?」


 恐る恐る訪ねてみる。


「ええ、本来なら。ですがあなたはロージャ家に介する人間だとハッキリしてしまえば、あなたを追う必要は無くなります。残りはリキヤという男ですが……この森のどこかに逃げたらしいのですよ」


「リキヤ様が……」


 よかった、少なくとも捕まってはいない。これならばまだセネカ様を救い出す可能性が高まったはずです。

 そして幸いにもセネカをさらった集団が使ったとされる馬車はこの森のどこかにあるかもしれない有力な情報も貰っている。辿り着くのも時間の問題だろう。


「どうして一緒に居たのか、あるいは誤認逮捕だった場合を考慮して私はあなたの素性を報告しに行こうと思っていますが、どうしますか?」


 騎士は僅かに見える仮面の隙間からルティの顔を窺った。


「どうやら何かを決意していらっしゃるようだ、分かりました。こちらも応援を連れて戻ってきます、くれぐれも無茶はなさらない様に」


「はい、あなたはとてもいい人ですね。恐らく騎士の中でも随一でしょう」


 そう言い残すと仮面の騎士を追い越してルティは走り出す。


「いい人……か」


 道を逸れて茂みに入ると血まみれで半裸の男が恐らく長くは持たないであろう呼吸を僅かにしている。


「ひゅぅー……、ひゅぅー……」


 関節を焼かれ血や肉は黒く、骨もクズクズになっている。痛みで顔は涙や鼻水でぐちゃぐちゃになっている。

 それを騎士は仮面を取って見下ろした。


「どうやら私はいい人らしいですよ。あなたたちなんかよりもよほど! 嬉しいなぁ、アシュリア様がお選びになったメイドが言うんですから、それはとってもとっても、トッテモ嬉シイナァ」


 森の中には未だに拭えない戦禍が残っているため、生臭さというのが鼻孔を突いてくる。だが、おかげでルティに気付かれることはなかった。


「人デハナイ、コノ私ガネ」


 目の前では突如と火の手が燃え上がり、パチパチと音を立て始めた。


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