18 西門から外へ
キャルベラン西門前。こちらから出ると一体どこに続くかは分からないが、東門側を出てそのまま真っ直ぐ進むと闘技街コルーク……だった場所、跡地がある。今、あの場がどうなっているのか、俺は知らない。そもそもあの街を跡形もなくした原因は俺にだってあるのだ。いくら不条理な街だったとはいえ、そこに住む人たちの居場所を同時に奪ったことには変わりない。
「兵士がいるなぁ。当たり前のことなんだろうけど」
赤外線センサーとか無い時代は元の世界でもこんな感じだったのだろうか。戦国時代辺り。
リキヤとルティはあのあと情報屋を出て、得た情報を頼りにそのまま西門へとやってきたわけだが、門兵が二人阻むように立っている。
「通常、街の外には魔物が出ることもありますので、ああして衛兵を立ててはいますが少し様子がヘンですね」
ルティの言う事はもっともだ。普通の考え方では敵や流れの商人が来るとしたら、見張るのは門の内ではなく外ではないだろうか。見張り台があるにも関わらず、そこには上らず下の方で待機するのは素人目から見たリキヤからしても少々おかしい部分が際立つ。
「なんか、まるで外に出る人間を疑ってる感じ?」
「通常はこちら側から外に出ようなんて思う人は居ません。東の大通りが人の出入りなどは明らかに多いですし、安全性も考慮されています。逆にこちら側は警備が最小限でしかありませんから、考えようによっては侵入や脱走というなら誰もが西側を使おうとするでしょう」
西門と東門では真逆の場所に位置するならば意味も逆になっている。東側が正門なら西側は裏門。表向きか裏か。
「どう突破したもんか。流石にもう俺が脱獄したのはばれてるのかな?」
もしそうだとしたら素通りというわけにはいかないだろう。なるべく穏便に済ませたいが、もし一戦交えることになってしまうと、冤罪だろうがそれなりの罪が重なってしまう。
「本当に、私の軽率な行動がこんな結果を……申し訳ありません……」
確かにリキヤが疑われなければ事はもう少しうまく運んでいたのかもしれない。
「いやいや、セネカと一緒にいたのは事実だし。どんな形であれあいつの事はきっちり助けるって決めたんだ。それに罪滅ぼしもあるんだろ? 俺に付いてきてくれてるってのは」
その言葉を聞いて重ね重ね深く頭を下げるが俺はそれについては何も返したりはしない。恐らく彼女のプライドにも関わるのだろう。メイドとしての失態、が大きいと思うけど他にも何かありそうだ、と。リキヤはフェイたちと会ってから様子が普通ではないルティにそんな違和感があった。
「いいよ。自分でもあんまり嬉しくねーけど、こういう状況に慣れて来てるらしいからさ、俺って」
今までのリキヤだったらそれは皮肉を込めていたであろう、しかし今は逆に強みになりつつあるということを知った。それに対抗できる力もある。そのあたりの兵士なら楽に倒せる自信がある、それにルティもついているので頼もしい。正直一人でもここまで辿り着けたかどうか。
「ん? 誰かこっちに来る」
カチャリカチャリと地面を鳴らす嫌な音が聞こえてくる。鉄製の靴など考えられる可能性と言えばひとつ、兵士だ。門に構えている三人ほどの兵は違う、こちらの存在には気付いていない。ならば新手か。
「む」
必要とあれば眠らせる覚悟で警戒していたリキヤは歩いてくる兵士の顔を見て、たちまち目が合ったかと思うと、あっさりと警戒を解いた。
「隊長!」
「お前、まだこんなところで悠長にしていたのか」
駆け寄ってきたのはつい先ほどまで会っていたトウドウだった。別れてから数時間といったところか、待ち合わせなどもしていなかったが、この広い街中で会えたのは恐らく偶然ではなかった。トウドウは散歩をしていたわけではなく、明らかに西門に用があってきたようだった。
「お知り合いですか?」
リキヤの態度を見てからルティは遅れながら警戒心を解いた。
「そうそう。で、隊長はどうしてここに?」
「お前に言われて金髪の男の事を調べていたら、あいつの報告書が改ざんされていた跡が見つかったのだ。うちの隊の馬車が二台とも戻ってきていない」
リキヤたちが仕入れたジョンからの情報と一致している。どうやらセネカを連れ去ったとするなら、やはり西門を越えた先だということだろうか。
「行き先は、西門を越えた先にある村のようだが、物資の詳細も目的も記されてなかった。それで気になって来てみたのだ」
すると西門に視線をやったトウドウは顔色を変えて門兵の下へ歩き出した。まるで何かを発見したように。
「リキヤ様、私たちも」
慌ててリキヤとルティはトウドウの後をついて行く。
「お前たち、精鋭騎士だな。ここの管轄は我ら兵団の筈だが?」
トウドウの後ろにいたリキヤが「うん?」と頭を抱え込むようにしてルティに顔を近づける。
「なんか違うんですか?」
小声で言ったリキヤは門兵をチラと見た。
「見た目ではあまり違いは分からないでしょうが、この国の勢力は二つ存在します。ベランド卿が統括するキャルベラン兵団。こちらは主に国の防衛を主としています。そしてその一転、進攻することを活動としているキャルベラン精鋭騎士団。どちらかというと血の気が多い連中が好みます。指揮しているのはクウェイ卿です」
国民の信頼が厚いのは、兵団というわけか。アシュリアさんは強いのに騎士団のほうじゃなくていいのだろうか。
「おや? これはトウドウ隊長。何かお探しか、それとも昼下がりの散歩であらせられるか?」
ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら門に立つ一人の騎士が挑発する。見ている限りでは、二つの勢力というのはどうやら仲がよろしくないらしい。
「ロクに功績も残さない我々に何か御用であらせますかな? いやぁ、貴殿の慕う勝利の女神、アシュリア様がそちらのところの団長を辞めて聖騎士などと呼ばれて以来、国民からは次代の王などと称されて。さぞかし鼻が高いでしょうな」
知らなかった……。アシュリアさんって次の王になるのか?
「まだ候補段階ですが、アシュリア様の戦歴からいきますとロージャ家そのものが王家にとって代わる可能性もあります。ですので今回の事件もそれが絡んでいないとは否定できません」
「選挙争いみたいなもんか」
候補ってことはまだ数人その可能性を秘めている人間……または家柄があるってことだろう。そんなことに巻き込まれた家族はたまったものではないが。
トウドウはわざとらしく鼻を鳴らした。
「攻めてばかりいるせいか、やたらと攻撃的な口調のようだなお前たち。生憎そんな安っぽい挑発に乗っていられるほど暇ではない。今すぐ持ち場に戻ってもらおうか」
先ほどもトウドウは言っていたが、西門の管轄は兵団の仕事。では何故、ここに騎士団の者たちがいるのか。物怖じしないトウドウの威圧に気圧された騎士たちはたじろぐ。
「ぐっ……! ま、待て。後ろにいるやつ、確か指名手配になっているやつじゃないか!?」
事態を誤魔化そうとした騎士の一人がリキヤの方を指差して叫んだ。
「っ……しまった!」
このままでは応援を呼ばれてしまう。リキヤとルティが咄嗟に動いたのは全く同時にだった。雷……スタンガンをイメージしながらトウドウの横から飛び出したリキヤはそのイメージを保ちつつ騎士の一人に掌底撃ちをかます。ルティは騎士の目の前に掌を差し出した。怪訝な顔をした騎士は表情を一瞬で崩したかと思うと、顔面に思いっきりゴム弾を撃ちこまれ後ろ向きに吹き飛ぶ。トウドウの前に並ぶ三人の内、二人が同時に宙を舞って倒れる。
「ひ、ひぃっ」
後ずさりをして逃げようとした最後の一人は握り拳を作ったトウドウの一発に腹を抑えながら倒れ込み気絶。
「ふぅ、間一髪か」
騎士は甲冑を着ていた、もちろんトウドウも甲冑を着ているがパンチ一つで気絶するとはどんな威力なんだろうと、リキヤは身震いした。
「そう言えばそうだった。先ほど兵団のほうにも通達が来てな、お前が脱獄したという話は恐らくもう街中に広がっている。ここの警備が騎士団だったことも気になるが、お前たちは早く身の潔白を証明するために動いた方がいい。俺が手を貸せるのはここまでだ……行け」
いよいよこの街にも居づらくなった、というわけだろうか。しかしその街を今から出るところだったので案外都合がいいのかもしれない。セネカを連れて帰ることが出来たらまたこの街に居られるかもしれない。それに、あのキャルベラン城にはまだ所要があるのだ。
「隊長……ありがとうございます」
リキヤが頭を下げると、それを制止するようにトウドウがリキヤの肩を掴んだ。
「その呼び方はあまり気に食わないな。もうお前は隊にいる必要がないのだから、今度からは普通にトウドウと呼べ」
「……だったら口調も戻させてもらうぞ、ありがとうなトウドウさん」
トウドウはニィ、と笑った。たまらなく恐ろしい顔をしていた、とはとてもじゃないが本人には言えなかった。
「行きましょう、リキヤ様」
倒れている騎士たちを避けて西門の扉を開け放つ。
「ああ、グロートの野郎にたっぷりお礼しないとな」
ギィと音を立てて扉は閉まり、その直後にたくさんの駆け寄ってくるカチャンカチャンという音には気付かないリキヤたちは先を急いだ。




