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召喚奴隷の異世界録  作者: 荒渠千峰
3章 異世界指名手配
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17 ジョン・ベイルナの教示

「本題に入る前に、少しこちらから注意をしておきたいので話しますね」


 頭領が一度、外した眼鏡を拭きながら話を振る。


「いえ、でも私たちにはあまり時間が……」


 ルティが前のめりに話を断ち切ろうと試みた。


「あまり時間は取らせませんよ。それにリキヤさん、あなたには自覚がないようなので、あえてそれを語る役目を僕が引き受けようと言っているのです」


 拭き終えた眼鏡をかけた頭領は「うん、良く見える」と呟いて眼鏡拭きに使っていたハンカチを懐に入れる。


「この世界がいつから存在するのか、起源というものがハッキリと分かっていません。それこそ歴史を語る人物が今のところ存在し得ないからです」


 頭領は静かに語り出した。


「僕たち一般人でも、およそ五百年という歴史が築かれているのがこの世界の今のところの正体です。そこまで書物が存在するから、というのが一番の決め手でしょうか。しかし、それはあくまでこの国における歴史です。各国と対立しあっている現在ではその情報の信ぴょう性も照らし合わせようがありません」


 突拍子もない話が始まり、リキヤは眉間にしわを寄せる。


「僕は思うんですよ。たった五百年あまりで、ここまで世界が繁栄できるのだろうか。そんな僕の下に入った情報が異世界という存在です」


 リキヤは自然と拳に力が入る。そのせいか、顔も強張ってしまう。


「どうして国の上層は異世界という新たな存在を……悪い言い方をすれば領地になるかもしれない場所を知って尚、そこに攻め入ろうとはせず人員だけを引き連れて自分たちの国の兵にしているのでしょうか?」


「おやめください」


 黙って聞いていられなかったルティがたまらず止めに入る。


「……いいえ、これはあくまでも僕が考えただけの仮説にすぎない話です。仮説など商品にはならない」


「聞かせてくれ」


 リキヤは真っ直ぐ頭領の顔を見た。頭領はテーブルに肘を付いて静かに息を吸い込む。


「僕個人としての考えは、恐らくその召喚という儀は双方向ってわけじゃあないってこと。この国の王であるナバト・ディク・キャルベラが亡くなってからは民の調和は解れた。指導者を失えばこの国は隣接する国にあっという間に食い物にされる。だから現統括者たちは大規模な転送陣を創り上げた。国ごと逃げようとしたんだ、それが不可能なら自分たちだけでも。そこで使ってみると、現れたのは……」


「俺達のような存在」


 リキヤはボソリと呟いた。そして頭領の反応を見たリキヤはそこから落胆していく。


「そこから召喚された人間は、かろうじて言葉は通じても僕たちとは明らかに異なった特徴がみられた。誰ひとりとして魔法が使うことが出来なかったんですよ。いや、もともと魔力なんて持ち合わせてはいなかったんだ。魔法石は使えても、ね」


 今まで誰も疑問になんて思わなかった。いや、思ってはいてもそれを指摘してくる人が運よく今日まで居なかっただけなのかもしれなかった。

 それもそうかもしれない。いつの間にか召喚されたこの世界でリキヤはただ訪れてくるピンチをがむしゃらに乗り切っただけなのだ。それで救われた人は感謝をしている、命の危険があった人たちにとっては異世界人が魔法を使うのは些末なことだったのかもしれない。


「俺は、おかしいのか?」


 今まで自分の身の危険を間近で感じながら、ただ生きて帰りたいと、今も待っているかもしれない雹華のもとへ帰ろうとしているだけでも、願っていることさえおかしいことなのだろうか。


「おかしいなんてこたぁ、ねえだろうよ。こっちの世界生まれでも魔法がうまく扱えないやつだって魔力を微量にしか持たない人間だっているんだ。人それぞれってな。だが、異例なんだよ、それこそ何が起こるか分かったもんじゃねえ」


 フェイが嫌味たらしくぼやく。


「それと、君は人前ではあまり魔力を熾さないほうがいい。熾し方がヘンなのかは知らないけど、君の魔力はなんだか少し濁っている。人間の体内に宿せる属性は一種類とだけ、解明されていることなんだ、コレ実は極秘なんだけどね。心当たり、あるんじゃないかな?」


 リキヤは生唾を飲み込む。地面から根っこを出した、雷を纏った。リキヤは属性というのはよく分かっていないが、使役したのは恐らく二種類。


「ほとんどの人間ならば魔法石の使用だと勘違いするだろうけど、そうじゃない人間からしたら? この上ない実験対象だろうね。何をされるか、想像するだけ寿命が縮みそうだよ」


「それでも」


 頭領の話を遮ったリキヤは、今自分がこうしていることを見つめ直す。それでも今はこれしか浮かばない。


「最初は早くこんな世界から抜け出せるものなら抜け出したかったさ。この世界の誰かと関わったところでロクな事なんてないし、わけのわからないまま殺されそうになったし凄く危ない力だって使わなきゃ、生き残れてない。だけど関わってなかったらもっとロクでもない事態になっていたかもしれない。文化の違いはあっても少なからず俺を信頼してくれる人だっている。セネカが連れ去られたあの時だって、アイツは俺に助けを求めてたんだ。だったら応えてやりたいじゃないか。ちょっとは良いことして元の世界に帰っても、誰も責めないだろうよ」


 雹華なら、仕方ないって言ってくれるに決まってる。なんせ、アイツはファンタジーが大好きな俺の大切な幼馴染みだからだ。


「若いですねえ」


 頭領は嬉しそうに立ち上がると、懐に手を入れて小さい紙切れを取り出した。


「街の西門の警備態勢が変わったそうです。昨晩、二台の馬車がそこから街を出て行ったのを仲間が確認しています。そこを指揮していたのが、金髪の特徴的な兵士だった、とか」


 そして頭領は机の上にその紙切れをリキヤのほうに向かって差し出す。


「この街では屈指のロージャ家がお墨付きなら信頼に事足りるでしょう、今の情報はお詫びです。それと、僕の名前はジョン・ベイルナと申します。今後は是非ジョンと及び下さいね」


「お、おい頭領」


 リキヤは差し出された紙切れを手に取ると、まったく読めない字で書いてあった。だが、形状からしてどうやら名刺らしい。それを見たフェイは慌ててジョンに詰め寄る。


「いいんですよ。僕はこのクソみたいに恥ずかしい事をスラッと言えるリキヤさんが大変ツボに入りました。しかもとても強い魔力を有している上に異世界から来た方ですよ? 彼らの世界にも興味はありますし、面白い話が聞けるかもじゃないですか」


「あーあ。出たよ頭領の知りたがり」


 こうなれば手におえないとフェイはリキヤの肩に手を置いた。


「俺は気に入らねえけど頭領が気に入ったんだもんな俺は気に入らねえけどっていうかルティと距離が近いんだよボケ離れろ死ね、塵となれ」


 間髪入れず悪口をズバズバ言うフェイ。リキヤは目の前で中指を立てた。


「あ? なんだそのポーズ」


「神のご加護があらんことをっ」


 とりあえず嘘を吐いた。


「フェイ黙りなさい」


 今まで黙っていたルティもあまりの罵詈雑言に気分を害したのか、会心の一撃という名の文句を放った。


「うぐっ。チィッ、覚えてろ」


 ココを出たら忘れてそうだからその約束は取り決められそうもない。


「リキヤさんは、もうこれから奪還しに行くんですよね」


 席を立ちあがって出口に向かおうとするリキヤをジョンは引き留めた。


「あなたにはドラゴンが見えますか?」



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