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召喚奴隷の異世界録  作者: 荒渠千峰
3章 異世界指名手配
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15 少しだけ取り戻せたもの

 次にリキヤが向かった先は工事現場改め現在は事故現場となり果ててしまった広場。

 『竜交祭』メイン会場……となる予定だった場所。ここで一人の大工が亡くなった。そしてステージとなる舞台の骨組みは先の戦闘でバラバラとなっている。

 あまり自分の責任が伴った結果というものは見てていいもんじゃないな。

 けれど半分以上はそこに突っ込ませた張本人が悪いのだから気に病んでも仕方ないと腹をくくってその骨組みが安定している部分に腰かける。


「いつ頃来るかな」


 リキヤは待った。だが、そうやすやすと誰も彼もがが入ってきていい場所ではない為、人の気配は全く無い。立ち入り禁止のテープが張ってあるが、その意味はこの前とはワケが違う。殺人現場に気安く入ろうという好き者はいないはずだ。何かの目的が無ければ。

 あるいは誰かに誘われない限り。


「どうしてこのような事をしたのですか?」


 誘われたのが一人。左手にはくしゃりと丸められた紙があった。


「アイツらいい仕事するじゃん」


 その紙を広げリキヤに見せてくる。そこに書かれている内容は『広場にて待つ』という書置きだった。それはリキヤがさっき情報屋に渡したものでもある。


「それを持ってるってことは、いよいよ俺が脱獄したってことがバレたってことかな? それでアンタはすぐに情報屋に頼ることは目に見えていた。だから俺が自分自身を売ったんだ」


 リキヤは立ちあがり彼女に近付く。


「アンタは雷を纏っていたはずの俺の軌道を読んで弾を撃ちこんできた。そんな実力がありながらどうしてグロート本人を狙わなかった? セネカが人質だったとしても気絶して抱えていたのなら的は当たり易かったはずだろ?」


 彼女、ルティは何も言い返そうとはしない。


「あれほど激昂していたアンタの様子が、やけに今は大人しいのも引っ掛かる。そして俺は牢屋に入っている間にひとつ思い出したことがあった」


「……やはりそうですか」


 諦めがついたようにルティは棒立ちになったままリキヤを見つめる。


「アンタにはグロートという男が見えなかったんだろ。狙わなかったんじゃなくて狙えなかったんだ」


 理由はわりと単純。あの広場に入った時、ルティはリキヤだけにしか焦点を当てれていなかった。一時的でもセネカやグロートの方に視線をやったりはしなかった。そしてさらにルティはあの時こうも言っていた。『セネカお嬢様を連れた何者かが逃走しました』と。この情報は曖昧で不確定要素をあまりにも含んでいる。グロートは外見を装っていたわけではない。なのに特徴も何も述べたりは一切しなかったルティはセネカを救い出すという意志に欠けていた。


「私には、あなたが宙に向かって独りでに話しているようにしか見えませんでした。それも私たちをかく乱させるための手口だと思ってました。ですが声が聞こえたときに一瞬判断を誤ったのだと確信しました」


「声、だけ……? だから何者かが居たという情報と俺が言った情報を掛け合わせてあの場であんな事を口走ったのか」


 間違いではないがそれだけでは証拠にはならない。だから俺を捕まえたのか。いや、あの場ではそうする他に場を収めることは難しかっただろう。


「だから一人でココに来たのか」


 ルティは頷いた。珍しくその表情はどこか悲しげなものに見えた。


「私は大きな失態を犯しました。我を忘れてしまってはメイド失格ですね……、どうか煮るなり焼くなり好きになさってください」


 リキヤは歩き出した。それはルティに向かってではなく広場を出るための方向に歩き出した。


「貸し一つ、そして今からさらに貸しを作ってやるから。俺についてきて」


 ルティは数秒、黙りこくったが結果なにも言わずにリキヤの後ろをついていくことにした。




「一晩、さまざまなことがありました」



 都立キャルベラン医学病棟。診療ベッドに眠る、新米メイドの姿を私は見ていました。彼女の名前はリーン。私がセネカ様のお世話役に推薦したメイドです。彼女は田舎の孤児院育ちでここへは施設費と院の子どもたちの食費を稼ぎに来ていました。子どもの扱いに慣れており家事全般が得手とする彼女はメイドにはうってつけだと思いました。私はワケあってその孤児院に一度訪れたことがあります。その時に知り合ったのがリーンでした。彼女の必至な行動は私の心の中に何かを生み出し、その後メイド業に就いたとき、彼女を一つの鑑だと思って過ごしていました。


「リーン……」


 思えば屋敷であの男と対峙してから私の心に余裕が無くなっていったのです。燃えていく屋敷、侵入者、気絶寸前のリーン、いなくなったセネカお嬢様……。


「ルティ……さん」


 うっすらと目を開けたリーンがこちらを見ていました。その様子だと意識もハッキリしていると分かった時、安堵しました。


「っ! リーン、目を覚ましたのですね……よかった」


「はい……お嬢様の悪戯、のおかげでなんとか」


「……え」


 ゆっくりとベッドから背を上げるリーンの一言に私はリキヤ様を捕らえた時から感じていた違和感にまた襲われたのです。何かが食い違っているのではないか、という。私はてっきりリキヤ様がリーンを閉じ込めたのだと思っていましたから。


「リーン……セネカお嬢様はまだ見つかっていません。屋敷に賊が入り込みあなたを助け出した時には既に居ませんでした」


「……そうですか。ですが、腕に包帯を巻いた人が一緒でしたので……多分その方と……」


 私はリーンの言い方にやっと気付きました。リキヤ様に対する見解の違いに。


「その人はセネカお嬢様誘拐の容疑で捕まりました……」


 案の定、私の放った言葉が信じられない、という風でした。


「そんな、あの方が、お屋敷を出て行かれたのはセネカお嬢様の意思なのに……ッ!」


 リーンのその表情で、私は今まで何をやっていたのだろうと、悔やまれました。即刻リキヤ様を解放するように頼み込み、詳しい事情を聴かなければ。キャルベラン側には任せてはおけない、と。




「それが私の過ちです」


 リキヤと並んで歩くルティはしおらしくなっているので少し可愛いなと思っているリキヤだったが、しかし調子が狂う。


「誤解が解けて何よりだよ……」


「? はい、ですので私が少し前にアシュリア様に掛けあったところ、とても伝えづらそうに「脱獄した」と聞いてそれはとても驚きました。


「まぁ、俺もまた広場での戦闘は避けられないだろうな、と思っていたのでそこは驚いたけどね」


 理解の早い人で良かった、と心から思うリキヤだった。


「ともかく冤罪だったとしても、脱獄したことには変わりないので結局捕まることは免れないとは思う。でも、だからってすぐさま捕まるわけにもいかないし、さっきの情報屋をこれからあたってみようと思う」


 あっちのほうもそろそろ頃合いのはずだ。

 リキヤは小走り気味に次の曲がり角を曲がろうとした。しかし、それをルティが遮るように前へと出てきた。


「こちらのほうが遠回りせずに済みます」


「助かります」


 土地勘を持った者がいるというのは心強い。そういえばセネカはさほど土地勘はよくなかったな、と思い返す。


「あの屋敷は……セネカだけしか住んでいなかったのか?」


 単に気になっただけ、というわけではないがリキヤはルティに質問をしてみる。返答次第では気になっただけとは済まされないことも起こすかもしれないが。


「はい、セネカお嬢様と主に私と他のメイドが何名か居ましたが、ほとんどの者はやめていきました」


「あの我儘わがままに耐え切れなかったということ?」


 リキヤの問いにルティは顔を横に振った。


「セネカお嬢様は滅多な事で人に我儘を言ったりなどしません。それ以前に他のメイドたちに対しては『私に近付かないで』の一点張りだったのですから」


「まじかいな」


 残念だがリキヤはそんなセネカの姿は想像しづらかった。リキヤに対しては最初から最後まで我儘の一点張りだったからだ。


「本来、セネカお嬢様が誰かを連れて外へ行くなんて考え、起こしません。ですから真っ先に誘拐だと私は疑ったわけですが……リキヤ様はどうやら別だったようです」


 とんだ奴に気に入られたもんだなと、嘆息した。だが最後に見せたあの姿だけは違う。あれは我儘ではなくお願いだった。会って間もない男を、俺を頼ろうとしてくれたんだ。だったらやるしかないだろう。

 リキヤの決意は固かった。それは紛れもなく誰かの為に頑張れる自分を形成する自身のゆるぎない信念だったから。想われたならその感情に報いなければ。


「着きましたね」


 大通りではなく、そこは一つのしけた建物だった。築何百年経っているのだろうか、と考えさせられるような石造りの三階建ては異彩を放っていた。立地条件も通りからだいぶ離れている裏路地に建っていて常に日陰のような場所だ。


「あの、ここは」


 リキヤは先だって建物の扉を開くルティに訊ねてみる。


「情報屋の本部です。下町の情報屋には階級があります、直接訪れる方が時間短縮できますので」


 なんでもありか、この街。



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