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召喚奴隷の異世界録  作者: 荒渠千峰
3章 異世界指名手配
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13 挽回の好機

「さあ着いた着いた」


ナナミが指し示す方向はやはり何もない壁であった、だがナナミにしか分からないような仕掛けが恐らくはあるのだろうとディアは見たことのない技術に大いなる期待を込めて生唾を飲み込み、それを見守る。


「ほーいさっと」


そんな期待をものの見事に裏切った行動をナナミはした。ボコボコとした壁の出っ張りを掴み、ただ横にスライドしただけでいとも簡単に牢獄内へと繋がった。


「「そんな単純なっ!?」」


扉を開いたことに驚いたリキヤとそれを見守っていたディアが揃いも揃って声をあげた。なんだかリキヤと会うのが随分と久しぶりのことのように感じられる。いつの間にか腕の包帯を解いて身軽になっていたリキヤは思いがけないカラクリと救いの手に笑みと涙が溢れていた。


「やった! ディアさん来てくれたんすね!! だいぶ予想外なところからだったけど……あ、そうだ俺の話を聞いて欲しいんだ」


言いかけて詰め寄ろうとしたリキヤの目の前に一人の女子が立ちはだかった。黄緑の髪をしたメイドさんだった。


「話を聞きたいのはむしろこっちなんだけど」


ムスッとした表情のメイドにリキヤは顔をすぼめた。


「はい?」


「ま、今はそっちの件が重要みたいだからいいけどさ。とにかく早くここを出なきゃならないんだろ? このことが勘ぐられる前にとっととずらかるよ」


そう言ってナナミは来た道を先導して引き返していく。


「とにかく今はここを出ましょう」


ディアにも促されてとりあえずリキヤはそれについて行く。驚いたことにスライドした壁はリキヤが抜け終えると自動的に壁は閉まっていった。


「はー、自動ドアねぇ」


こういう技術だけなら俺の世界では別に珍しいもんじゃなかったけどな、随分と懐かしく感じる。


「これってこの世界で言うところの魔法か? それとも科学のほうか?」


リキヤはそこが気になって尋ねてみた。


「私はこんな技術は初めて見ました。この城の隠された部分がまさかこんな風になっているなんて」


ディアはこの光景を知らない、だがリキヤには馴染みがありすぎる。高架下の通路のような懐かしさだ。蛍光灯までおあつらえ向きすぎて笑えてくる。そんな感情も今は押し殺してでも急ぎ出口へと向かわなければならない。


「ところで、どうして俺を助けてくれるんだ?」


それを聞いたナナミが誘導しながら不思議そうに振り返る。


「少し前にアンタが助けてくれたことがあったじゃん。そしたら、アンタは『困ったことがあれば俺を頼れ』って言ってたんだよ。頼るべき相手がこんな体たらくなんじゃ、胸を張って頼れないから今こうしてるってわけ」


「んん?」


そんなことが果たしてあっただろうか?

リキヤは記憶を掘り起こしてみるがこの世界に来てからナナミのような女子を助けた覚えも、ましてや見かけた記憶すらない。それ以外だとしたら、可能性は一つしかない。


「まさかここじゃない世界から来たってことなのか!?」


リキヤが驚きの声をあげたのでディアはビクッと全身を震わせた。ナナミは小走りしながら呆れた様子で息を吐く。


「はあ? まさかあたしのこと覚えてねぇのかよ! ……いや、ま、いいけどさ」


何故か途中から明らかにテンションが落ちていったのだが、すぐに調子を戻して先導する。さすがに広い、本当に城の中にある隠れ迷宮のような感覚だ。城中どこまでも行けてしまう気がしてワクワク感が止まらない。ただ、どこに出るかだけはこの通路と城の中を熟知していないとそれは不可能な気がした。


「ほら、そこから城の裏口に出られる。残念だけどあたしが案内出来るのはここまでだからさ。あとはアンタの持ち味でどーにかして戦局を変えてきな」


ナナミが指をさした方向には一つのはしごが備え付けてあった。


「もしも、もう一度捕まったら今度はフォローできないから。きっとどうやって脱獄したのかっていう拷問が待っているだろうからさ。きっとあたしの事を喋っても揉み消されてアンタも生きて帰れなくなる。だからこれが最初で最後のチャンスだ」


「ありがとうございます! このご恩は忘れません」


そう言ってディアは上へと登っていく。どうやら先に出て様子を見てくる一貫だということらしい。


「ありがとな」


はしごに捕まり上ろうとしたところでリキヤは脚を掴まれた。


「都合が付いたらもう一回この城に来て。アンタには聞きたいことがあるからさ」


何故か強い感情がこもっているように感じたリキヤは少し戸惑いながらも、


「あ、ああ。わかった」


そういって守れるかどうか分からない約束を取り付けられて、はしごを上っていく。上を見ると先にディアが出て行ったのか出口の光がまぶしく照らしていた。まるでマンホール出て行く気分になりながらも急いで駆け上がっていく。マジでマンホールだった。


「もう次の日になってたのか」


時計も外の様子もうかがえなかったリキヤの体感は狂っており、捕まってから一晩はすでに経過している状況だった。

先に出て行ったはずのディアを気に掛けながらマンホールのふたを閉める。マンホールの上は芝生で一度穴を塞いでしまうと穴はもう完全に見えなくなっていた。たとえこの隠し場所を知っていたとしてもちょっとやそっとじゃ分からないだろう。


「問題はもう一度この場所に戻ってこれるかってことだよな」


朝方だからなのか少し靄がかかっている。巡回にも目に留まりづらいし、逃げ出すにはまたとないチャンスなのだが、モタモタしているとすぐにでも晴れてしまいそうだ。しかも庭自体もよく知らないのでとりあえず城とは反対方面の道を探しながら少し歩いてみる。すると、やがて橋が架かっている石道に辿り着いた。人影が見えたので条件反射でしゃがんで様子を見ようとしたら、立っていたのはディアだった。


「ディアさん……っ!」


近づこうとしてリキヤは違和感を覚える。ディアが見ている方向、本来ならば真っ直ぐに進めば恐らく城から本当の意味で逃げられるというところでその先にはもう一人、誰か立っていた。その人物には見覚えがあった。


「お姉ちゃん」


腰元に携えている剣の柄に肘を置いたまま、甲冑姿のアシュリアが静かに佇んでいた。


「どこへ行こうとしているのだ?」


冷たく、アシュリアは言い放った。


「……最悪の場合、事を構えることを考慮した方がいいですよ」


リキヤがディアの隣に合わせて横目で見る。


「……はい。でも少し予想外でした、姉がリキヤさんが捕まったことを黙認していたのでまさかとは思ったんですけど」


無理矢理にでもギプスを外しておいてよかった。今のリキヤならこの状況でも切り抜けることはさほど難しいことではない。それがリキヤ一人ならばという話だが。ディアのことだけは絶対に見逃す人物ではないことは確かだが、この場から逃げ出したところで土地勘のないリキヤは一人でセネカを探しに行くことはとてつもない時間を要することになる。そうなって手遅れになってしまうことが一番避けたいところだというのに。その上、アシュリアに見られたということはすぐにでも追われることになり活動は阻まれる。ハッキリ言うと最悪な事態だ。


「何か勘違いしていないか?」


少し溜息を吐いたアシュリアがその場の緊張感を解いた。


「妹を危険な目に遭わせるわけにはいかないからな、というわけでディア。お前はここで身を引いてくれ」


「え、それって」


ディアは途端に怪訝そうな顔をする。つまりはディアだけを行かせない、そう言っているのだろうか?


「そ、それじゃあリキヤさんのことは……」


アシュリアは小さく笑った。


「何のことだ? そのリキヤとやらは牢に監禁している状態だろう。お前の隣にいる男のことなどは知らんおい貴様、邪魔だから早くどこへとなり行ってしまえ」


どうして、リキヤのことは咎めようとはしないのか。リキヤが聞いた話では、アシュリアという人はここキャルベランの上層に地位を確立している人間だと認識している。そんな彼女が、この場は見なかったことにする、そう言っているのだ。

俺に賭けてくれてるってことか。


「居場所の見当は?」


リキヤは問うた。この時点で分かっている情報があるならば、それは時間の短縮にも繋がるということだ。何もなければ正直この先はだいぶ厳しい。


「目新しい情報はこちらに入っていない。だが、セネカが魔力感知に引っかからないとあれば、意識を奪われている可能性もある。だがずっと眠っているわけでもあるまい。いつか感知に掛かるとは思うが、上は貴様が情報を握っていると確信して警戒を解きつつある」


情報は今のところなし、おまけに脱獄している身で街をしらみ潰しにってわけか。

魔力感知を行うことが出来ないリキヤには骨が折れる事態となっていた。魔力に長けた者が味方に付きでもしない限りは……。


「悪いが私はお前について行ってはやれない。だが協力者というのであれば一人使える奴がいる。お前にも面識があるはずだ。名はトウドウ。困った時はそいつの元を訪ねろ。見てくれはゴツいがいい奴だ。部下の信頼も厚い」


「わかった」


そう言ってリキヤは一歩ずつ歩を進める。


「末の妹を、セネカを頼む」


そしてリキヤは薄靄の中に消えていく。


「ロージャ家はつくづく、あいつと縁があるようだ」

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