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召喚奴隷の異世界録  作者: 荒渠千峰
3章 異世界指名手配
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12 異世界の監視者


 時は少し遡り、キャルベラン城。


「どうしてリキヤさんが捕まらなきゃならないの!?」


 いつもはここまで大声を上げることは本来なら少ない筈のディアが兵士に向かっていきり立っていた。その様子に困惑する兵士は「詳しい事は調査をしてみないと分からない」の一点張りで、リキヤを捕らえたというルティは我先にとセネカを捜索しに行って取りつく島もない。ディアは追いかけていくだけの実力と魔力が伴っていない。ディアは人一倍に魔力供給が少ない身体つきであったからだ。


「肝心な時に役に立たない体……」


 苦渋に満ちた顔でボソリと呟いたディアは早歩きで廊下を抜けていく。一市民であるディアの限界は恐らくココまでだろう。あとはこのキャルベラン城に融通の利く姉のアシュリアに任せるしか他に頼りようがない。


「あ、あの~」


 ディアが振り返った先に、自分と同年代くらいの女の子が気まずそうにこちらを見ていた。黄緑の髪の毛を肩口まで伸ばしてメイド服に身を包んでいるその女の子は、いつから自分のあとを付いてきていたのか、ディアは不思議に思った。ディアが歩いてきた道は一方通行の廊下だ。不審そうにしているディアの様子を悟ったのか女の子はあたふたとしている。


「いやいや、自分決して怪しいもんとかじゃ、ないんですよ。いや待てよ、こういう台詞がそもそも怪しいってことなんじゃないか? いやいや多分いける、いける」


 だんだんと会話、というより独り言に変換しだしたメイド服の女の子はハッと我に返りさらに不審そうなディアを見て軽くショックを受けた。


「いや、なんかすいませんね。自分……ってかあたしって、こういうの得意じゃないから一旦素でやらせてもらうわ。あんた力哉を助けたい側? あたしの勘違いならすぐこの場からターンすっけど」


 先ほどの会話と態度から紅一点、全くの別人が現われて更にキョトンと目を丸くしたディアは、しばらく言葉の意味を考えたかと思うと何かに気付いたかのようにメイド服の女の子の肩を掴み揺らし出した。


「リキヤさんの場所を知っているんですか!? あの人は無事ですかっ、すぐにでも助け出したいのですけど!!」


「シー……、ここじゃあたしの管轄外だからアイツの手がどこまで及んでるか分かったもんじゃない。あまり大きな声を出さないでくれる?」


「あ……ごめんなさい」


 急に昂っていた士気を落胆させながらメイドの女の子から手を引いていくディアを慰める様に頭の上に手をポンと乗せたメイドの女の子はニカッと笑ってみせた。


「あんたの気持ちはだいたいわかったよ、安心しな。力哉の捕まってる場所は簡単にイケるし、助けることだって容易い。だけどあたしは本来この城に居てはいけない身なんだ」


 そう言うとメイドの女の子は何の変哲もない床に手を掛け、横にスライドさせた。すると不自然にズレた床には人ひとりが入りそうな穴が現われた。


「あ、言い忘れてた。あたしは七海って名前なんだ、よろしくディア。ささっ、早くしないと巡回が来るよ」


「あ、え、なんで私の名前……」


 ナナミに急かされたディアは鉄のはしごに脚を掛け、いそいそと降りていく。その後に続き降りながら、下降口の壁に備え付けてあるボタンを押すと、自動的に床の蓋が絞められた。


「下に降りたらその隣に二つのスイッチがあるから下の方を付けてくんない?」


「あ、はい……これですね」


 梯子を下りてくるナナミからの指示を受けディアは近くにあったスイッチを押してみる。すると薄暗かった長い廊下に蛍光灯の灯りがその道をハッキリと照らしてくれた。


「変わった形のランプですね」


 ディアは不思議そうに蛍光灯を眺めて言う。梯子を降り切ったナナミはディアの先を歩き出す。


「これはランプじゃなくて蛍光灯……っつっても分からないか。この世界の技術ではないって事だけ言っとくよ」


 一から説明する方もややこしい上に、状況が状況なので先を急ぐことを優先したナナミは慣れた足つきで進んでいく。ディアは華やかだったキャルベラン城の廊下とは打って変わった寂しい道のりに怖気づきながらもナナミについて行く。


「あの、本来この城に居てはいけないってのは……?」


「ああ、それね。あたしってこの世界の人間じゃないんだよねぇ」


 今ここで質問するのは不適切とは思いつつも、不躾かもしれないがしてみる。だが、相も変らぬトーンでナナミは受け答えする。


「そんで、あたしがこの世界に飛ばされた理由を捜すために今はこの城でシステム作って密かに一部を牛耳ってるわけよね。元の世界に帰れるヒントとかあるかもしれないし」


 途中聞きなれない言葉に当惑しながらもディアは単純に目的に対して真っ直ぐな人なのだと悟った。なんとなくアネゴ肌な感じもしていそうだ。


「言っとくけどあたしはアンタが信用できそうだからこんな話してるけどさ、これ本来バレたら首とかぶっ飛ぶからその辺よろしくぅー」


「え!?」


 ギョッとするディアの反応を見てケラケラと笑いながら歩を進めるナナミ。


「半分くらい冗談だから気にすんなって!」


 どの部分が半分か、訊ねることが怖くなったディアはこれ以上問い詰めることは本能的にやらなかった。そういえば、一番気になっていることを尋ね忘れていた、話題をそちらに変えることにしたディアはさっきの話は出来れば忘れようと思った。


「ナナミさんも異世界から来たということは、リキヤさんとお知り合い……だったんですか?」


 その問いに僅かな私事が混ざっていることをナナミは触れたりはしなかった。やや間があってナナミは口を開いた。


「ちょっと助けられたことがあってね、でもこの世界でも恐らく助けてもらわなきゃならないと思うんだ、あたしは。性分じゃないけどさ。でもアイツは何かを知っている、そうじゃなきゃあんな事を言える筈がない」


「?」


 何やらリキヤに対してただならぬ感情を持ち合わせているかもしれない、と思ったディアは気になりつつも、今は踏み込むべきではない領域だと察知し、これ以上踏み込むことは無かった。


「あの、だいぶ歩いたんですけど……ここまで一方通行ってことはおかしくないですか?」


「あー、あたしにしか分かんない様に隠し扉がそこらじゅうにあるからね。迂闊に触って迷い込んだらあんた多分ミイラになっちゃうかもね」


 高らかに笑いながらも歩をさらに進めるナナミに必死について行くディア。こんな話を聞いては尚の事離れるわけにはいかなくなった。


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