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召喚奴隷の異世界録  作者: 荒渠千峰
3章 異世界指名手配
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9 世間知らずと世界知らず

「んで、その『竜交祭』ってなんなの?」


 リキヤの前を偉そうに闊歩する割に体格は小柄な少女、セネカが呆れた風な溜息を吐いた。


「呆れた、アンタほんと何も知らないのね」


「そりゃ、この世界の事なんてこれっぽっちも興味ないからな」


 リキヤはあまりセネカのことが気に食わないせいか、若干皮肉めいたことを口にした。実際のところ興味はだんだんと増えつつある。だからといってセネカに得意気に語られることは何だか癪に障る。だから否定的に喋って向こうから嫌だと言わせる。そして解放されることが一番の願いだった。


「ふーん、あたしは逆にアンタが居た世界に興味があるのよね」


 こっちが終わらせようとした会話を広げてきた。


「俺の世界とか何もないって。米焼酎と麦焼酎くらいしかない」


「じょーちゅー?」


 顔を顰めるセネカ。適当に終わらせようとしたら何故か焼酎しか出てこなかったリキヤだが、もしそうなら急性アルコール中毒が免れない世界だな、と意外とそんな世界があるのではないかというワクワク感さえ出てきそうだった。


「お酒の種類だ」


 この歳の少女には酒の種類が分からないのだろうか。それともこの世界には焼酎そのものが無いのだろうか。リキヤも酒の種類だけで作り方の違いなど全く見当つかないが、時折自分が居た世界が霞んでしまう。文化の違いというだけなのに、まるで本当の世界を否定された気分になる。リキヤがセネカを否定するように。


「もしそうならクズみたいな人生ね」


 どうやら少女だろうと流石にこれは嘘だと見抜けたようで単にリキヤがボケをかましただけみたいな空気でサラッと流された。


「他にもあることはあるけど……名前が伝わらないもんとか多いから面倒なんだよ」


「なにあたし相手に面倒とか言ってんのよ」


 そういう返しが面倒だって言ってるんだけどな。


 ここでそれを言えば言い合いが終わりそうにないのでこのまま胸の内に留め歩き出す。どうも人混みが増してきたせいか注意をしていないとセネカくらいの身長は人混みにまぎれると見失いやすい。


「んで、竜交祭って?」


 油断をしているとすぐにでも見失いそうなセネカの後をついて行きながらリキヤは訊ねる。


「えー、当たり前すぎて説明すんのが面倒なんだけど」


 心底面倒そうな顔をリキヤにアピってきた。


「マジでムカついてきたな、コイツ」


「心の声が駄々漏れよ」


 思った事を口に出してしまったリキヤ。権限は我にあるとばかり薄けた笑みを浮かべたままのセネカを見ると口に出したくなっても仕方がないものだ。


「じゃ、お前『ねぶた祭り』って知ってるか?」


「は? ブタの祭り? なにそれ」


 この世界の人間が知るはずがない。俺だって青森県にあることくらいしか知らないんだから。

 そんな下衆な事を思っているリキヤは立場が逆転したとばかりに満面の笑みを浮かべている。


「本当は知らないんじゃないか? 竜交祭ってやつのこと」


 さすがにこの世界のこと、ましてや自分の街中でやっていることを知らないわけでもないだろう。煽って情報を聞き出そうと試みたリキヤだが、どうにもやり方を失敗していることは本人もうすうす勘付き始めた。


「…………あたしを誰だと思ってるの?」


 さすがのセネカもムッと表情を変えた。


「奴隷とか愚民だったくせに、失礼にもほどがあるんじゃない。口を慎みなさいよ」


 ピキピキと血管の筋を出しそうな勢いで(だけど出ない)リキヤの怒りはうなぎのぼりに上昇した。


「お前も身分差別するのか。 裕福な暮らしをしている奴らは結局そういうことを口にするだけしか出来ないのか!」


 だから嫌いだ。冗談ならまだしもセネカは本気でソレを口にした。口にしてしまった。


「な、なにいきなり怒ってるのよ」


 ついこの前までのリキヤだったらこのような反応はしなかっただろうし、冗談か本気かなんて気付くはずもなかっただろう。その事象に関しては蚊帳の外同然だったリキヤが、たまにニュースで見るくらいの外国での紛争のような、避難民のような気持ちをこの世界に来た途端味わう羽目になった。彼らの気持ちを理解してしまった、だからイヤというほどに分かる。

 いつかの売り飛ばされそうになっていた子ども達の事を思うと、見ず知らずの人でも助けてよかったと心から思える様になっていた。

 だから嫌いだ。何も知らないで非難する奴が、自分本位でしか生きようとしないやつが。


「貴族街って呼ばれてるか何か知らないけどな……、少なくともお前は貴族じゃねーよ。お前になんでもしてくれる奴ばかり居ると思うな。お前はただその家に存在していただけだろうが」


「……っ!?」


 我に返ったとき、すでに手遅れだった。今まで他人をバカにしかしてこなかったセネカの表情は曇り、目に涙を浮かべ奥歯を噛み締めながら走り去っていく。


「あー……やっちまった、何やってんだよ子ども相手に。みっともない」


リキヤはセネカが去った方へ人混みをかき分けて走り出す。

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