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召喚奴隷の異世界録  作者: 荒渠千峰
2章 異世界受刑者
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21 思いがけない協力者


 何故この男の動きは途端に変貌を遂げたのだろうか。

 アシュリアは隣に居た青年を横目で見た。その青年は笑っていた。ボロボロな身体なのに、それでもどこかに余力を残している。表情が物語っていた。


「はああっ!!」


 一陣の風がアシュリアの隣で駆け抜ける。闘いの最中、味方に攻撃が当たることを躊躇することすら余儀なくされる。だがリキヤには迷いが無かった。

 腕に繋がった鎖が青い稲妻を発し、リキヤの攻撃範囲が拡大された。例えリキヤ自身の攻撃を防いでも周りの鎖とアシュリアに対する警戒を怠るわけにはいかず、ヴァラウィルには正直余裕など無かった。


「はっ」


 だが、彼は今まで我慢していたように笑い声を漏らした。


「まるで連携というものが為っていない。これならば一対一で勝負するのと差異はないな」


 リキヤの拡大された範囲に警戒しなければならないのは何もヴァラウィルだけではない。属性こそは雷を帯びてはいるものの、鎖自体が武器ならばそれはアシュリアが警戒すべきものであり、故に隙を窺おうにも最初の一打からタイミングを掴み損ねたアシュリアは手をこまねいていた。


「…………」


 動きは悪くはない……、だが。

 アシュリアは気付いていた。リキヤが糧としている魔力がもともと誰のものなのか。それならばいやでも自分の動きというのが分かってしまう事に。だが自分と鏡写しのように動くリキヤに対し皮肉にも指摘するべき点があるということは、それは己の未熟故のことだという事も承知していた。なんとも複雑な気分だ。


「小賢しい」


 ヴァラウィルは腕に込めた熱を己の剣に充てた。ドロドロとした玉鋼がヴァラウィルの小手先に絡みつく。リキヤの手錠にあてがっていた鎖をその状態で掴み、無理矢理地面とくっ付けた。咄嗟の事でバランスを崩したリキヤは勢い余って前転してしまうが地面と接続された玉鋼のせいで格好の的となってしまう。


「ぐっ」


「終わりだ、リキヤくん」


 目の前のヴァラウィルは構えた。見下ろされるリキヤは唯一自由に動ける脚を上げて振り下ろされるヴァラウィルの変形した剣の一撃を足枷の鎖で受けきる。

 だが鎖はいとも簡単に熱量で溶け落ち、更に力を込めた一閃がリキヤの眼前に迫る。


「させると思うか」


 その一閃を一筋の細い剣が遮った。


「まだ私は選手交代をした覚えはないのだがな」


 見下ろしながら笑顔というのもリキヤにとっては戦慄を覚えそうになるが、ピンチを救われた事には変わりがない。


「じゃ、じゃあよろしくお願いします」


 アシュリアは無言で意を汲んだのかそのまま鍔迫り合いでヴァラウィルに押し向かいリキヤから危険を遠ざけた。


「貴女があの男に何を期待しているか知りませんが、無駄だと思いますよ」


 アシュリアは顔を訝しめた。


「誰も期待などしていない、リキヤという男は……ただ面白いだけだ」


 アシュリアの笑みをヴァラウィルは快く思わなかった。

 気に食わない。あの男にいったい何が出来るというのか。その希望に満ちているような顔をどうにか絶望の淵へと陥れたい。

 ヴァラウィルは視界から無理に外されたリキヤへと意識を向かわせた。

 足枷の鎖は切れたはいいが手枷の方は地面と密接関係にあるため未だ身動きが取れないリキヤは絶好のねらい目だった。

 殺すなら今だ、悠々たるアシュリアの顔がどのように歪んでいくのか――――、ヴァラウィルは不思議と心が躍った。


「陽炎」


 その技をアシュリアが味わったのは、これで二度目だ。またも眼の前からヴァラウィルが揺らめいて消える。熱量を使った視覚トリックなのだろうが対処のしようが無い為、いくら推理したところでヴァラウィルの狙いさえ読めなければそれは徒労に終わるだろう。


「まさかっ」


 狙いは簡単だ。格好の的であるリキヤを先に叩くつもりではないか。


「くそっ、暑いとこうも思考が狂うのか!」


 アシュリアは我が身も顧みずリキヤが居るであろう方向へと向き直り走り出そうとしたその時だった。


「ええ、狂いますよ」


 後方から聞こえた声にアシュリアは身を凍りつかせた。

 しまっ――――。


「うっ」


 後ろから回し蹴りを喰らったアシュリアは真横へと滑り込まされる。アシュリアは不覚にも思考を逆手に取られたのだった。リキヤがねらい目だと気付かせるために陽炎を使い、あえてその場に留まった。


「さて、メインディッシュはやはり最後に食べたい派だからね。先ずは君から片付けることにしようか、リキヤくん」


 とり急いで殺す必要はない、ゆっくりと恐怖に支配されたリキヤのその表情を堪能しながら逝かせてやろう、そう思っているせいかヴァラウィルの足取りは静かなものだった。


「やっぱり勝てないのかよ」


 力なくそう呟いたリキヤはただ次の結果が出るまで目を閉じた。それは恐らく激しい痛みとともに失われていく自分の姿。

だがその時は一向に訪れなかった。それどころか目を開けて見るとヴァラウィルが見据えている方向がリキヤの居るそれとは別方向だった。


「なんだ、受刑者ごときが高みの見物でもしてみたくなったのか?」


 ヴァラウィルが意識を向ける先、観客席にもあたるアリーナに数名いることが分かった。肉眼では捉えづらい距離にあるが、格好からして受刑者ということは明白だった。だがリキヤが考えた作戦がもし成功しているならその身は自由となっていて逃げだせる筈なのに、何故このようなところに居るのだろうか。まさかヴァラウィルが言うように高みの見物とは考えづらかった。


「若い騎士さんが倒してくれるって信じて俺達はここに残ることにしたんだ!!」


 アリーナから男が大声を張り上げた。その男は外で逃げ出そうと兵士と闘っていた男でありアシュリアが一度接触した男だった。


「だが、見ているだけというのも男として恥ずかしいからな、俺達には俺達なりの戦い方をさせてもらう」


 言うと男たちはアリーナの手すりに足を引っ掛け、勢いよく飛んだ。


「バカな下民どもだな」


 なんの対応も無く飛び降りれば着地点を狙われる、それはただの無謀な行動をしているようにも見えた。

 ヴァラウィルは無造作に火球を投げ飛ばした。当たってしまえば生身の人間は恐らく火傷だけでは済まされないほどの。


「やめろォオ!!」


 リキヤは叫んだ、それはヴァラウィルに対してでもあったし、また逃がした筈の受刑者たちに発したものでもあった。どうして生きる希望があった彼らがこのようなところへ、戻って来たくもない場所へと再び足を運んだのか。

 火球と受刑者だった彼らの距離が差し迫ったその時、リキヤの視界から彼らの姿が捕らえきれなくなってしまった。突如、大きな水弾が火球を飲み込み彼らの着地点で爆発するような水蒸気へと膨れ上がった。

 ヴァラウィルはうっすらと目を細めた。何が起きたのか、ヴァラウィルにすら分かり兼ねる出来事が起きたのだ。アシュリアは鋭く重い、痛みに耐えながら立ち上がりそちらへ視線をやる。ディアは手で口を覆い、目は涙ぐんでいた。


「ヴァラウィルてめぇええええ!!!!」


 リキヤは叫ぶ、それは今の自分が何もできないから、ただただ注意をこちらに引きつけるようにした。水蒸気の向こう側がどうなっているのか分からない。無事ではないにしろ生きていてくれると信じてリキヤはこれ以上他の人を巻き込まない様にしていた。


「大人しく逃げていればよかったものを、君が考えた彼らを逃がす作戦も水の泡となったようだな」


 ヴァラウィルは更に火球を創り上げリキヤに向かって放った。距離が近いため、先ほどより小ぶりの火球だが恐らく威力は中に凝縮している筈だ。リキヤ一人なら容易く殺せるのだろう。


「ぐっ」


 アシュリアは走ろうとして未だ回復しない脇腹を抑え込み倒れる。


「溶けろ、この世界で」


 ヴァラウィルの放った火球がリキヤの鼻先に照り付けだすほどの距離になったとき、水弾が横から火球を乗っ取り水蒸気へと変化して散った。

 誰もが同じ方向を見た。大きな水蒸気を発していたあの場所からはほとんど飛散して肉眼で捉えきれるくらいになっていた。その場所から数名の影が立ち上がりその場の煙を払うように丸腰でこちらへと駆けてきた。

 ほぼ無傷の元受刑者たちが。






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