19 反撃の狼煙
「ここから俺を出せ」
力哉の表情には微塵も余裕などは無い。しかし相手に懇願することもなくただ相手を威圧するように面と向かっていた。
「それを私がやらせると思うね? 情報提供はただの気まぐれ、私に得が無いのは一目瞭然ね」
風魔の巫女はばっさりと切り捨てた。先ほどより殺意が増した彼女は更に植物の包囲網を作り逃げ場をなくす。
「もとから逃げたりなんかしない。取引をしないか?」
風魔の巫女は腑抜けたことを口にした力哉に心底呆れた。
「バカなことを言うね。そもそもお前には取引材料がないね」
「だから今から取ってくる」
彼女の話を無理矢理に切り上げ自信たっぷりに上を指差す。
「君の目的はだいたいわかった。だから今からそれを果たしに行くんだ」
力哉の笑顔は悲哀に満ちていた。風魔の巫女なる彼女はこの男、力哉の言っていることがハッタリでない事を知ってしまった。いったいどこで気が付いたのか、問いただしたい気持ちはあったが、それ以前に――――。
「それが何を意味するか、分かっているなね?」
「俺は里山力哉」
生まれはここじゃない世界。
幼馴染みの雹華と知り合って、よく一緒に遊んだっけか。彼女の事を好きだと気付いたのは俺が複雑な家庭環境に気付いてしまったからだ。両親とも俺を思ってくれてはいる、だから家庭での問題を俺に持ち込むような真似はさせない。心配を掛けたくなかったから。だけど俺はこう叫びたかった。
「これは俺の問題でもあるんじゃないのか――――」
幼かった俺はまるで家族という扱いを受けていないような気分になり家には極力帰らないようにした。
そんな俺を受け入れてくれた竜崎家の人々、そして雹華。他にも何人か居たな、俺に分け隔てなく接してくれたやつら。どんなやつらでもいい、感謝してる。今はまだ会えないかもしれない。もしかしたらそれは一生なのかもしれない。誰にもわからない。じゃ、俺が決めるしかないじゃないか。
何が面白くて俺なんかを召喚した? 元の世界を嫌ったからか? 子供の頃なら誰もが思った憧れを最悪な形で実現してくれたクソッたれの様なこの異世界で、俺に出来ることはなんだ? 元の世界ですら何も出来なかった俺が何を以て生きていけばいい? どうやって答えを導けばいい?
他の奴等はどうやって過ごしたんだろう。宿舎のアイツらは何と闘うために、何を護るために戦ったんだ。
俺はあの時、誰を護りたかったんだ。
答えは決まっている、ディアさんを護りたかった。だから戦った、護りたいものだけを必死こいて護ろうとして、暴走して、今もボロボロだ。
また失敗するかもしれない、今度こそ護れないかもしれない。
「だけど、動かないで見ているだけが一番いやだ。周りに置いていかれるのが嫌だ、周りを置いていくのも嫌だ。それが里山力哉だった俺だ」
だけど、俺はこの世界では、まだ根付いていない。
この世界の俺は未確定なんだ。
「俺はリキヤだ。持てる力を振り絞って護りたいもんだけ護る横暴な輩だ」
ごめんな、雹華。今はまだ帰れない、帰っちゃいけない気がするんだ。
「どっちの人生も中途半端に終わらせてたまるか。ただでお前の餌になると思うなよ?」
「ちっ、一人でブツブツ葛藤して気持ち悪い男ね。私の今の属性では確かにヴァラウィルを取り込むのは不可能に近いね」
風魔の巫女は指を上にクイ、と上げるとリキヤの足元から四角い足場の根が天井にめり込む勢いで跳ね上がった。
「うぉお!」
植物に覆われた力哉はまるでエレベータに乗っているような感覚を味わいながら真っ暗闇を抜けていく。
「お前の間の抜けた根性に免じて最後のチャンスをやるね、ただし少しでも倒せない素振りを見せるとお前の魔力をすぐさま奪ってやるね」
姿は見えないが先ほどの少女の声がどこからともなく響いた。
「上等」
リキヤは腕に着いている鎖をジャラジャラとさせて深呼吸をする。




