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召喚奴隷の異世界録  作者: 荒渠千峰
2章 異世界受刑者
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17 悲しみの礼状

 狭いとはいえないが決して広いともいえない通路を駆ける人影が二つあった。

 一人は女性、長い金髪をたなびかせつつも余すことをしない。甲冑というほどではない軽装で素早い身のこなしをしている。右腕にはめられているガントレットが相手の攻撃をうまく受けてくれている。その腕に握られている細剣が若干ではあるが変形しつつある。

 そしてもう一人はこれまた黒髪を腰まで伸ばしている。後ろ姿だけなら女性ともいえるが男である。黄金の鎧を身に纏いつつも決して相手に遅れを取らない。大剣を振りかざし、相手を凌駕しかねないが、素早い身のこなしに攻撃はあまり当たらない。それもそうだろう、意図的に金髪の彼女アシュリアは鍔迫り合いを避けている。


「貴女の実力はこんなものですか? 何故私なんかに手を抜いておられるのですか?」


 嘲笑する黒い長髪の男、ヴァラウィルは眼前のアシュリアに問う。


「さあ、どうだろうかな。単に貴様の方が強くなっただけではないのか?」


 アシュリアは冷笑するように答える。だが実際のところアシュリアは回避を余儀なくされている。ほんの短い時間とはいえ細剣は大剣と触れ合う事でヴァラウィルの炎系魔法によって溶かされつつあるのだ。よって少しずつ歪み始めている。

 ヴァラウィル相手に武器を失くしてしまえば、この一戦に勝てる見込みはほぼなくなる。

 ……困ったな。


「ご冗談を、私がどれほど戦場にて貴女を見て来たのか。こんなものでは無い筈だ」


 アシュリアの状況を分かったうえでそのような事を口にしているのか。それを窺うにはこの男の頭の中が読めないせいか、アシュリアは昏倒しそうになる。それはヴァラウィルが先ほどか微々に発している熱のせいでもある。恐らくは思考もとい判断を鈍らせるためであろう。


「それは少し買いかぶり過ぎじゃないか? これでも私にとっては精一杯のつもりなんだがな」


 そう、普通の人間なら目眩が伴い誰もがその熱量に耐え切れず昏睡状態に陥る、または脱水症状に陥っても可笑しくはないこの通路を、平然とまでは言わないが駆けていれることだけでその忍耐は常人を超えていた。


「その割になかなかどうしてしぶとい」


 更にヴァラウィルの剣撃を避けるのだから、決して敵には回したくはない相手だとヴァラウィルは思った。だが幸いにもここは室内だ。こちらが勝てる見込みは充分にある。


「貴様ほどではないが私の性根も腐っているもんでな」


 お互いに勝てるとまでは思ってはいない。それほどまでに相手の本気が未知数であり、また実力が分からないでいる。

 アシュリアは武器を失うわけにはいかない、ヴァラウィルはこの状況で気を抜いてはいけない。


「…………」


 走り去っていった二人を見送るように立ち往生していたディアは、心の中でひっそりとある決心をしていた。


「リキヤさんを捜さなきゃ」


 ディアはあてもなく走り出した。例え殺されていようと、見つけなければ。異世界から来た人間は他もそうだが、知らない土地で知らない人間たちによって道具と扱われ、殺されたという事自体がこの世界の品格を下げている。

 ディアはこの世界がどうしても赦せなかった。その反乱意思というわけではないが異世界から来た人間を見つけては弔っている。

 私なんかじゃ、到底あなた達の命の重みを背負いきれないけど、せめてココに居たという証だけでも。彼らが居た事の存在証明を、してあげなくては。


「いったいココは」


 開かれた鉄格子から下へと延びている階段を下りた先、そこには更に鉄格子が……恐らくは捉えた人をここへ収容していたであろう牢屋があった。

 そしてそれぞれの錠前は外されており、そこには一つの共通点が存在した。


「これは」


 壁につづってある文字はこの世界の文字だ。


『ありがとう』『君のおかげだ』『感謝してもしきれない』『無事に逃げ出せたら名前を推してくれよ青年』『あなたは命の恩人だ、若者よ』『どうか生きてくれ』


 ディアは言葉が出なかった。

 どんな状況下でも力哉の成すことは誰かを救いながらの行動にある。どんな形であれ力哉は人々の心に根付きつつある。


「リキヤさん」


 一つだけ解放されていない牢屋に向かってディアはそう呟いた。

 すると先の階段の方からドォン!! と凄まじい音が響いた。


「な、なに!?」


 ディアはまさかと思い走り出す。

 もしかしたら力哉が生きているかもしれないという僅かな期待をその胸に秘めて、息を切らしながらも階段を上がる。


「はぁ……はぁ……」


 しかしその期待も淡く、あるのは闘技場と空っぽのアリーナだけだった。地面には黒く固まった水溜りの様なものが出来ている。僅かに近寄ると、それは血の臭いがした。空を見上げるといつの間にか曇り始めていた。

 そして凄まじい音の正体が分かった。

 アシュリアとヴァラウィルの戦闘が白熱してアリーナまで出て来ていたのだ。


「え」


 そして何故かは分からない。突然ヴァラウィルがこちらへ向かって飛んできたのだ。灼熱の炎を纏い。









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