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召喚奴隷の異世界録  作者: 荒渠千峰
1章 異世界召喚兵
3/103

3 見た目主人公

 目が覚めると見慣れた天井、窓の外は様々な家の屋根と電線、青い空が広がっているわけではなく、男臭さがにじみ出るような臭いと染みついた天井、枕も掛布団もない、白いシーツだけが敷かれているベッドで力哉は目覚めた。


「体、いってぇ」


 腕の色が少し変わっていることに気付いた力哉は先ほどの戦いを思い返した。槍で魔法石を衝いたときに飛散した火傷のあとだった。

 起き上がり四畳半くらいの一人部屋を見渡す。窓枠が一つ、ベッドが付いていてシーツのみ。


「まるで奴隷だな」


 ドアを開けると目の前に手すりがあり、そこから下を見下ろすと数人が配膳についていた。


「あ、期待の新星が起きた」


 アキラがスプーンで指差しながら笑っていた。手招きをされた力哉は階段を捜して降りてくる。一階に降りてから改めて周囲を見渡す力哉。

 力哉が出てきたようなドアがいくつもあり、椅子やテーブルが並んでいるこの場所は宛ら食堂のようだ。灯りが少なく薄暗い雰囲気を醸し出しているが、それとは裏腹に兵士たちは陽気に食事をとっていた。


「しっかし、お前すげーよな。誰も知らなかった今回の作戦を成功させちまうんだもんな!」


「おかげで俺ら、死なずにすんだぜ」


 テーブルに着くや馬車に揺られていたときとは打って変わった兵士たちが力哉の前にドンドン集まってくる。


「なあ、ココって一体なんなんだ? 日本じゃこんなのありえねーけど、まさかドッキリとかじゃねえよな?」


「あー、こういうの俺達ダメなんだよな……。アキラ、お前の方が得意だろこういうの」


 最近の若者の話についていけない、と言ってアキラに任せる兵士たち。


「あい任せられましたっ」


 椅子の上に乗って両手を広げるアキラが喉を鳴らして話を始める。


「じゃあ、先ずは……俺達は地球人です」


「はぁ?」


 わけのわからなさに力哉は素っ頓狂な声を上げた。それに構わずアキラは厨房へ行き、給仕の係をしていた女性を連れてきた。


「えー、こほん。失礼ですが『地球』という言葉に心当たりは?」


「たぶん……ない、です」


 自信なく答えるとそそくさと給仕の仕事に戻っていく女性。


「つまりココは異世界なんだよ、そして俺達は召喚された奴隷ってわけ。どぅーゆーあんだすたん?」


「なんでそういう結論に至るんだよ、過程を飛ばし過ぎじゃねぇか!」


思わず大声を出してしまった。


「日本語が通じるのに地球が分からないってのは変な話じゃないか? 日本という国も知らないらしいし」


「あー、ゼ●の使い魔みたいな?」


 自分なりに分かりやすい例えをする力哉。それを聴いたアキラの眼の色が変わった。


「分かるかマイフレンド! ノーゲーム的なやつとか問題児的なやつとかぁ」


「そこまでは詳しくねえよ。話が進まなくなるから戻れ戻れ」


 デッドヒートしそうになったアキラを諌めると再び椅子に座り話を聞く態勢に入る。因みにアニメの知識も雹華に影響された部分が多い。


「つまりはお国の為に戦う兵士をやらされてるっつーわけ。美少女ハーレムとか特別な能力が覚醒とか期待していたのに何も起きねーでやんの。俺はショックでショックで寝込みそうだよ」


 そう言うとアキラは項垂れていじけだす。他の人が話についていけない、あるいはこの世界そのものを説明できないと言われた理由がなんとなくわかった。


「俺の心の支えは給仕係のディアちゃんだけだよぉ」


 そう言って項垂れていたアキラはスッと立ち上がり地球を知らないと言っていた女性に詰め寄る。


「……あはは」


 アキラの積極的なアプローチに苦笑いで答えるディア。手応えも脈もまるっきりなさそうだ。


「そういや隊長に名前を尋ねられたりとかはしなかったか?」


「あ、そういえば聞かれたな」


 兵士たちはハッと顔を見合わせた。ディアを口説き落とそうとしていたアキラも慌ててこちらへ戻ってくる。


「そのこと話すのをすっかり忘れてたぜっ! 隊長に名前を聞かれるということは奴隷の中で抜きんでた働きをしたってことなんだ、エッヘン」


「お前が威張る事じゃねえだろ……っつか別にいいことじゃないのか? 何をそんなに焦ってるんだよ……」


 力哉以外の兵士たちはみな一様に怯えたような表情をしていた。給仕係のディアに至っては力哉と顔を合わせないようにしている。

初対面で嫌われるようなことをした覚えはないのだが。


「そこが問題なんだよ。いいか? 下っ端の下っ端である俺らの働きは物凄く細かな作業しかさせられないんだ。今日の死にもの狂いな戦いだって、上にとってはその細かな作業の一つって訳だ。その中で初めてココに来たやつが突発して名を上げて見ろ、上層のお偉いが携わっている本物の戦場にお前は晴れて昇格、死亡フラグの真っただ中だ!」


 力哉はますます話の流れが読めない。肩をすくめてもう一度訪ねてみる。


「つまりどういうこと?」


「今日よりずっとキツい戦場の前陣部隊に組み込まれるだろうな」


 暫し黙り込む力哉が何かを理解したのか指ぱっちんを鳴らした。


「家畜に例えると分かり易いな。お前らはぶくぶくと太らされる豚と仮定したら俺は今まさに食べ頃の豚ってわけか!! ってええええええええええええええええええええ!?」


 周りの兵士たちもようやくかと言わんばかりにあきれ果てる。


「嫌だよ! なんで来たばかりの俺がいきなり戦場に連れていかれなきゃなんねーんだよ! というか今日のアレも充分戦場だろ!?」


「仕方ねえだろ? こんな弱小部隊で名を馳せちまったお前が悪い。諦めて生き残る方法でも模索したほうがいいぞ」


「っ」


 突如としてこみ上げてくる恐怖に息を詰まらせる。

 出された食事を食べ終えて、隠し切れない怒りを露わにしながら部屋へと戻っていく力哉。


「冗談じゃねえぞ……わけも分からねえまま連れて来られて、死んでたまるかよ」


 ドアを閉めてカギを掛ける。それを見送ったアキラがニヤリと笑っていた。


「なーんかアイツ、生き残りそうな気がするんだよなぁ」


 それを聞いた兵士たちが訪ねる。


「根拠は?」


 力哉の部屋を指差しながら、


「主人公っぽいから」


 そう言ったあと盛大に笑ったアキラだった。


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