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召喚奴隷の異世界録  作者: 荒渠千峰
2章 異世界受刑者
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14 雷焔の衝突



「どうやらあそこが入口らしいな」


 襲い掛かってくる兵士を相手にしながらだと目の前にある入り口に辿り着こうにも時間が掛かってしまう。


「未だにあそこからいろんな人が出て来てる……」


 外へ出ていた兵から中から出てくる兵まで、半ば囲まれた状況下にあったアシュリアたちは八方塞がりだった。

 アシュリア一人ならまだ強行突破も出来た、しかしディアを護りながらともなると先走るわけにもいかず、徒労に見舞われそうだった。


「そうとうな規模だったのだろう。その無作為に犯した罪がこうも露見すると、人間の愚かな部分を見せつけられているようだ」


 今度は敵に直接触れることで神経を麻痺させ、その場から頽れていく。鎧というものは実に浸透しやすいようだ。


「早く行こう」


 入り口から中へと駆けていく、湾曲した道をひたすら走っていく。外では争いの声が絶えず響き、アシュリアは戦場を嫌でも思い出す。

 国同士の争いばかりではない、街の中だけでもあたかも当然のように殺し合いは、感情のいがみ合いが起こるのだ。

 ……やはりディアには酷か。

 悟られない様に無表情を装っているが同じ血の通ったアシュリアにはどうしてもわかってしまう。そうとうに辛い筈だ。

 応援を呼ぶべきだったかもしれない。そう思い至ったところに魔力が感知された。


「いや、どうも向こうからお目通りが来たようだぞ」


 アシュリアにとって聞くに堪え難い声がこだまするように響き渡る。


「あー、まさかとお思い魔力感知して来てみてよかった」


 腰元まである黒くて長い髪、誰よりも悪目立ちしそうなほど目映い黄金の甲冑。そう、それはまるで誰かを模して造ったかのように。

 それを考えただけでアシュリアは虫唾が走りそうになる。


「アシュリア様、こちらへおいで下さるなら事前に言っていただかないと……前回もそうですがこちらにもお迎えする準備がございまして……」


 目の前にいてキザに振る舞っている男、ヴァラウィルには一切の発言の余地すら与えない。演戯のような話し方がより一層、不快感を与えるには充分すぎるほどだった。


「この事態はなんだ、ヴァラウィル」


 うっすらと目を細めた、しかし取り立てて気にするようでもなくさも当然のように一つ咳払いをした。


「…………いえね」


 流し目でディアを一瞬見たヴァラウィルはすぐに視線をアシュリアへと戻す。


「私に一杯喰わせようとした受刑者がいましてね、あろうことか他の受刑者たちを逃がすという重罪を犯しまして」


「ほう」


 アシュリアは興味深そうに頷き、


「……」


 ディアはひたすらヴァラウィルの次の言葉を待った。


「その反乱分子を始末しましたので、今は事態の鎮圧に向かっている状態でございます。アシュリア様が直々に連れて来たそうですね? あのリキヤという青年は、いやなかなかに楽しませてもらいましたよ」


 とても愉快そうにヴァラウィルは盛大に笑った。その声は壁に振動して外の威勢もかき消さんほどに広がった。


「…………っ」


 僅かにディアは息を呑んだ。詳しい事は聞いてなかったが、やはり姉のアシュリアが彼をここへ連れてきた張本人であると。

 そしてその彼が始末された、そう耳にしても何かを感じることは無かった。もしくはまだ受け入れていないだけかもしれないと、心のうちにそう言い聞かせたディアはズキズキと痛みを覚えてくる胸を抑える。


「そうか、なら安心だな」


 反対にディアはなんら動じることもなく、切っ先をヴァラウィルの眉間へと突き立てる。


「……なんのご冗談で?」


 あくまでも真摯に尋ねるヴァラウィルに敵意は無かった。だが、ディアは別だ。


「貴様に手を掛けていいか悩んでいたが、もう吹っ切れたということだ」


「そうですか」


 アシュリアの剣の先端から雷撃が飛び散った。その眼前に居たヴァラウィルの身体は陽炎のようにユラユラと揺れて炎を纏った。


「ディア、ある程度私から距離をとれ。荒れるぞ」


 言うが早いかディアは僅かに足取りを後方へとずらした。


「何故このような無粋な真似をなさるのか、訊ねたいところですが。そんな事をいちいち返してくださる貴女でもないか」


 燃え盛る炎を身体中から吹き出し、その場の外気は急激に上昇を見せ始める。


「私に勝てたら答えてやらないでもないが、どうする?」


 雷を帯び始めたアシュリアは金色の髪の毛がパリパリと音を立てる。

 何の前触れもなくアシュリアはヴァラウィルの斜め後ろまで消える様に駆けて手にしていた剣を横薙ぎにはらう。


「ふむ、割に合わない気もしますがいいでしょう。お手柔らかに……ね」


 いつの間にか抜いていた剣でヴァラウィルはものともせず受けきった。


「冗談だろう? 貴様に手を抜けばこちらがやられてしまい兼ねんからな、初めから全力でいくぞ!」


 アシュリアは笑った。いつ以来だろうか、ここまで一人の相手に本気を出そうと思ったのは。


「その表情も、また美しい! 手を先に出したのはアシュリア様ですからね? やられても文句は言えませんよね」


 ヴァラウィルもまた違った笑顔を顔に出した。競り合っていた剣先を弾き、すぐにでもお互いがお互いを斬らんと鍔迫り合いを始める。

 一瞬で片手に切り替えてヴァラウィルは空いた腕でアシュリアの剣を掴もうと手を伸ばしたと同時にアシュリアは剣を逆手に変えると空いた右手でヴァラウィルの腕を払い退けた。そのまま左手を振り被り逆手にとった剣が黒く長い髪を僅かに貫いた。


「貴様に剣を握られたら溶かされてしまいそうで怖いものだ」


「そちらこそ、油断すればすぐにでも斬られてしまいそうだ」


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