8 ある種の可能性
遡る事、それは数時間前の事だった。
「今日もナイスファイトを期待しているよ、リキヤ君」
鉄格子の向こう、朝から爽やかな笑顔をこちらへ見せつけるヴァラウィルの様子に力哉は間の抜けた顔をしている。
「ナイスファイトって、観客を盛り上げて死ねって意味か?」
皮肉交じりな一言にヴァラウィルは思わず吹き出しそうになる。
「盛り上げろって意味では半分正解、だけど死ねなんて思っちゃいない。生物の生命力なんて土壇場でどう転ぶか分かったものではないからね。だけど今回のは昨日の様にはいかないと思うよ。殺すつもりで、もとい死ぬ気で掛かって来なければね」
ヴァラウィルは愉悦そうにこの場を後にする。
なんとなくだが力哉は今回の相手がどのような人物か、想像がついた。
「確かに、一筋縄じゃいかなそうだな」
相変わらず繋がれた鎖がジャラジャラと音を立てて思考を遮ってくる。力哉の周りの牢屋は空のままが多い。そうそう受刑者なんて増えないという事なのだろうか。だが昨日に戦った男の言う一言がどうにも力哉の頭に突っかかっていた。
『俺は悪事を働いちゃいねえのに、連れて来られた!』
つまりはもともと受刑者を集める処刑場だったことには変わりないということだ。だが男の話を信じると彼は一般市民ということになるだろう、突然として連れて来られた……何か目的があって連れて来られた様子でもない。つまり、ただの人員補充だったと考えられるのが自然だ。
処刑場以前に闘技場として誂えているこの場所は何もかもが不自然だ。
「ヴァラウィルに訊いたところで答えてくれそうにはないな」
いや、今回は別かもしれない。力哉の読みが正しければ今回は話が出来る機会があるはずだ。力哉は静かに薄暗い牢の中で目を閉じて待った。
「柄じゃないよなぁ」
今日も上からの歓声が絶えなく力哉の耳に震撼してくる。新しく連れて来られた者たちは一様に介して不安そうな顔を隠し切れていない。恐らく何をされるのか、何が起こるのか、嫌な想像をしていることだろう。
「おい、頼むよ! 出してくれ!!」
「せめて何が起こるかだけでも教えてくれ!」
ある種、ココへ連れて来られた人の反応はそれが正しかったのかもしれない。その正しさを見せつけられているような気持ちになった力哉は彼らから視線を逸らし、覆いすがるように耳をも塞ぐ。
「俺は、おかしいんだろうか」
いったい、この場所はなんなのか。
逃げ出そうと考えていただけなのに、次から次へと謎が溢れてそれどころじゃなくなってきていた。
「どうにもできねえよな」
……アイツのまねごとでもやってみる価値はあるか?
息をひそめていた力哉はジャラジャラとわざと音を立てて、牢に入った他の人たちの注目を集める。鉄格子の前まで歩き、屈託のない笑みで訊ねる。
「なぁ、あんたらってどこから来たんだ?」
そして彼らの興味を引く最大の一言を発する。
「もしかしたら逃げ出せるかもしれないぜ」
力哉は満面の笑みを彼らに浮かべた、決して不安にさせないように、安心させて信頼を持てるように。




