7 とある城に潜む思惑
王亡き都市キャルベラン。比較的温厚なこの国は海面に面しており、漁業が盛んに行なわれている開業区でもある。坂の多い町で一番の高地に位置する居城キャルベラン城、その内の一角である第二応接室。とても静かな空気の中、一人の男がそこで茶を啜っていた。何かを待つように。
「さて、そろそろ来ても良い頃合いなんだがな」
すると開け放たれていた窓に一通の封書がヒラリと滑り込んできた。それに気付いた老翁、クウェイは重たい腰を上げてそれを拾いとる。差出人の名が書いてなかったが構わず封を切って中を確認する。
それはクウェイが長らく待ち望んでいた内容であった。
「あの小娘が、やはり処刑場の事を勘ぐっておったか」
封書をくしゃり、と握り潰し優越に浸った笑顔を見せる。
証拠隠滅の為、封書には魔石を入り組ませ火属性魔法で消し炭に変える。新たにレターを引き出しから取り出し、羽ペンを持って机に着く。
「あそこにはヴァラウィルがおるからのう、万が一という事もある」
ヴァラウィルという男は強い、味方に付けておけばこれ以上の戦力はそうそう考えづらいだろう。では何故、誰もヴァラウィルを付けようとしないか。ヴァラウィル程扱いづらい人物がいないからだ。それこそ同じ志を持っていようとヴァラウィルならばそれさえも心変わりして合わせようとしなくなる。
「なんとしてもこのことをヴァラウィルに伝えなければ……」
クウェイは先ほど封書が落ちてきた窓の方へ向かい自分が書いた方を近くへ置く。
すると、ほんの一瞬でクウェイが置いていた封書が忽然とその場から無くなった。これは届け物が受理された合図だ。
「王亡き都市……そう呼ばれてからこの国は崩壊の一途をたどる一方だ、あんな青い小娘がこの国の希望だと? つくづく笑わせてくれる」
苦渋に満ちた顔でクウェイは来客用のソファに乱暴に座り、天井を仰ぐ。
「このままじゃ、この国は終わりだ…………アシュリア……あいつさえ居なければ……」
独り言をブツブツと呟くクウェイの様子を別室から覗き盗聴している人物が居た。真っ暗な部屋でいくつかに分かれたモニターがあり、その人物はその内一つに映りこんでいるクウェイを捉えていた。
「いかがなさいますか」
黄緑の髪の毛を肩口まで伸ばしており、メイドの格好をしている女性がインカムに語りかける。
『よい、放っておいてもあの優秀な勝利の女神がカタを付けてくれるだろう』
「では、この件には干渉しないということで」
メイドの女性が接続を切ろうとしたインカムの向こうの人物は高らかに笑い声をあげた。女性は僅かに眉根を寄せる。
『しかし、この技術は素晴らしい。これが異世界の者たちの力か』
メイドの女性は静かに息を吐いた。
「身に余るお言葉です」
その答えとは裏腹に女性は酷く不満そうな表情をしている。しかし彼女はもともと鋭い双眸をしていて別段表情を変えたところでさほど変わり映えはしない。
インカムの通信が向こう側から一方的に切られていることに気付いたメイドはイヤホンを耳から外し、備え付けのデスクにいたずらに放り投げる。
「はぁ、つまんない」
刃物の様に鋭い眼差しをさらに細め、モニターを確認する。白黒のモニターの一つ一つが別の街の施設などに繋がっており電波が合わないせいか、ところどころチラつきを見せている。
先ほどのクウェイという男が言っていた言葉が気になり、スイッチャ―をいくらか切り替えてみる。メイドの記憶が正しければ、処刑場と思しき場所にも隠しカメラを仕掛けていた覚えがある。
そしてその処刑場の映像が大きく映し出され、メイドは僅かに眼を見開かせた。
「え」
その映像は、黒い獣によって身体中を引き裂かれる見覚えのある顔をした青年の姿だった。青年は素手だ、服もボロボロで爪で裂かれた傷口から血が吹き出し苦痛に悶える姿がそこにはあった。
「力哉? ……まさか」
失意に暮れ、項垂れていく力哉をメイドはジッと目を凝らしてみた。
非常に似ている、本人であると疑いようがないくらいに。
「この世界に居るわけない、他人の空似のはず」
なのに何故だろう。
こんなに心がザワついているのは……。
そして映像の中の力哉は、虚ろに倒れ込む。
「嫌なモノ、みた」
メイドは映像を元に戻し、これ以上は気にしない様に椅子から立ち上がり、近くに置いているベッドへ倒れ込む。作りがあまりよくないせいかベッドは僅かに軋むような音を立てる。
枕に顔を埋めているメイドはそんなことはもろともせず、すすり泣く。




