14 第1戦の終結
『簡単な仕事だ。アイツの中に入り込んでいるこの森全体の加護を上書きしてしまえば暴走することは無くなるだろうってこと』
『それはどういう意味だ?』
聖騎士がアキラに食ってかかるように問いただす。
『アイツに力を与えているのは間違いなく『風魔の巫女』だ。大方、自分の領域で戦争をされたことに腹を立てたんだろう。そこで目をつけたのが期待の新星ってわけだ』
聖騎士は眉根を寄せてさらに疑問を抱く。
『何故、あの男がそれほどの力を体内に有しておけるのだ? 今まで異世界から召喚してきたどの人間からも魔力残糸を得られていなかったというのに』
アキラが口元に指を当てた。
これ以上は訊いても無駄、という事か。
『要は死にかけのアイツに力が宿ったんだから、その上書きにはどのような手順が必要か……それくらいは自分で考えてくれ』
聖騎士はアキラの態度が気に食わなかった。何故そのような面倒な事をせねばならないのか。
『私がそのような提案を素直に受け入れると思っているのか?』
その一言にアキラはニヤリと口角を上げた。
『殺せないよ、止めることは出来てもね……アンタはそういう人間なんだから』
『貴様はいったい、どこまで知っているのだ?』
その場から姿を消そうとするアキラに再度問いかける。
アキラも異世界から召喚した奴隷兵士に過ぎない。そんな男がこのような情報をどのように仕入れたのか、この世界においての知識をどうして振る舞えるのか不思議だった。必要以上に情報を与えない、使えなければ切り捨て、逆であれば死ぬまで戦場へ送り込まれる。故に奴隷、最低限のコストしか掛けない。
上層部でもアキラなどという男は見かけた記憶も名前すら聞いたことがない、そのような男が何故こんな辺鄙なところに居るのだ……。
『いずれ分かるさ』
それだけ言い残すとアキラは聖騎士にすら悟られないほどの高位魔法で気配を完全に消して、去って行った。
……ますます解せん男だ。
抜かれた剣を聖騎士はゆっくりと右腕を引き、構える。左手は力哉の胸を静かに抑え、それに応えるかのように力哉は微笑む。
これでこの痛みからも解放される……。
肉を裂く音を立てて力哉の背中から切っ先が飛び出た。明らかに心臓を貫かれたように見えたが、すんでのところで急所は外れていた。
そして息を吸いこみ、聖騎士は唱える。
「雷の断罪〈ボルト・ジャッジメント〉」
柄の先から青白い熱が剣を伝い力哉の身体を迸った。
光の速度に追いつけるはずもなく、黒焦げとなった力哉は気を失いその場に倒れ込んだ。
「不条理なものだ」
『!? 成る程、おもしろい発見をしたね』
植物根が地面に戻っていく姿から力の上書きには成功したようだ。だが、引っ込んだ先には根に貫かれた兵士たちの姿が聖騎士の瞼に焼き付いた。
戦争は終結した。
今回の戦争で生き残ったのはこちらの軍の半数ほどの兵士、敵方はほぼ勢力が尽きているので、しばらくは残党狩りに明け暮れる日が続きそうだった。
……操られたとはいえ敵兵の半数を倒すとは、生かしたはいいが風当りが悪くなることは確実だろうな。
「どうせ自ら捨てた生命、私が有効に使ってやろう」
聖騎士に担がれた里山力哉は連れて行かれる、新たな争いの場に。




