12 不自然な兵士
地面が震撼したのをその場にいた誰もが感じた。
「不味いな」
森の中を細身の剣士が駆けていた。その剣士は力哉が寄宿舎にてディアを救った様子をこっそりと窺っていた。どうしてそのような事をしていたのか、その剣士は力哉が戦場で死の淵を彷徨った力哉を見ていた。その行動には目を見張るものがあったのも事実だが、結果は敵の魔法を直に受けて死亡した。そこで期待の新星と呼ばれた男の観察は終了した筈なのだ。
そう、ありえない速さで寄宿舎に彼が現われるまでは。
現場を指揮していた剣士は力哉が人間では不可能な動きをしていることに気付いた。どうしてそのような力を使えるのか、そこだけが不可思議だった。
この世界の人間であるならばいざ知らず、異世界から召喚しただけの雑兵にあれほどの高位魔力を扱えるはずがない。
「あんな膨大な魔力、制御できるようには見受けられなかった」
私が預かった戦場だ、もし、味方兵を傷付けたり自分を制御できなかったその時は、
「殺す」
低い声音で呟いたのち、剣士は立ち止まった。
「何者だっ!」
森の中腹で待ち構えている輩などロクな人間ではない、よって乱暴な声色になってしまうのは必然だった。
「そこまで怒鳴らないでいただきたい、仮にも囮として役目を果たした人間ですよ?」
木の陰から両手を挙げて一人の兵士が姿を見せる。格好からすると寄宿舎に住まっていた異世界から呼び寄せた兵士、もとい『囮』と呼ばれていた奴隷の一人だ。その姿に兜の中身から覗く目元が僅かに細くなる。
「解せんな。下っ端ごときが何故、その作戦の事を知っている――――まさかディアの仕業か?」
「彼女は何も言いませんでしたよ、それならいつまでもあんな閑散とした場所に居ないだろう」
それに、と兵士は続ける。
「彼女の覚悟を甘んじてんじゃねーよ、アンタなら分からないわけじゃないだろう?」
ここで感情を表に出せば完全に向こうの思うつぼだと即座に判断した剣士はゆっくりと鞘から剣を抜いた。
「やっぱり今のアンタはそう来るよな」
仕方ないと言わんばかりに構える兵士、その態度が気に入らなかった。まるで自分の事を知っている風な口の利き方。分をわきまえないその喋り方、そして魔法を使って声を変えている部分も気に食わない。
「このぉっ!!」
細剣を一閃、目にも留まらぬ速さで兵士を横薙ぎに斬り裂く。だが、手応えがないことを感じた剣士はすぐに剣を逆手に持ち替えて後手で振り下ろされた剣を交わらせる。
いつの間に後ろにまわり込んだのだ……?
しかし、それはどうあれ反撃を防げたのは剣士にとって手応えはあった。なんせ自分には生まれ持った魔法の才能があったからだ。『地水火風雷氷光闇』このなかで一番己の得意とする属性は雷だ。
麻痺らせてから口を割らせる。
そう思った剣士は右手の籠手から蓄電していたエネルギーを一気に放出させる。
「ッ!?」
鍔迫り合いが続くと、その技は成功していただろう。だが、兵士はまるで最初からその技が来ることを見越していたかのように剣から手を放し、距離をとる。
短く舌打ちをした剣士が持ち手を戻し、再び斬りかかろうと態勢を立て直した瞬間、兵士が剣士の間合いに踏み込み兜を弾いた。
「こんな可愛らしい女の子が戦場で戦っているなんて、思いもよらなかったよ」
言葉とは裏腹に剣士の正体が女性であることすら見抜いていた兵士は、嘆息混じりに漏らす。
一方、正体を隠していた剣士は憎々しげに兵士を睨み付けると、またも斬りかかってきそうだったので兵士が咄嗟に呪文のようなものを唱えた。すると地面からツルが飛び出し剣士を木に縛りつける。
「別に続けるならいいケド、それじゃお互い目的が果たせなくなってしまう。俺もアンタも今はアイツを止めなきゃいけないわけだからな」
そう言われ、冷静に立ち返った剣士は抵抗することを止める。それを見て、縛っていたツルを引っ込ませた兵士は兜を拾い上げ、剣士に渡す。
「貴様はいったい何者だ?」
兜を受け取った際に訊ねる剣士。
「俺と会った事を誰にも喋らなければいくらでも名乗ってやるよ。俺はアンタの名前を知っているから、あまりフェアじゃないもんな」
その要件に「わかった」と剣士は兜をかぶりながら返答した。
「とりあえずアキラって呼んでくれ」
その兵士、アキラは屈託のない笑みで語り出す。




