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第95話 なんやかんや楽しんでいる

迷路を攻略した俺と攻略出来なかったお嬢様は並んで学校内を歩く。周りは生徒や他校の生徒、一般人がいてとても賑やかだ。

お祭りって感じで良いですねぇ。今のは客観的な感想。俺の感想を述べるとしたらお前らうるさいから死ね、である。


「陽登、ドーナツ」


「俺はドーナツじゃないですよ」


「食べる」


「りょー」


喫茶店をやっている教室に入ってドーナツを注文。キュートなピンクの服を着た女子生徒がドーナツを持ってきてくれた。お手製の衣装とはやりますね。まぁドーナツは市販のやつを出すだけで調理していないから頑張るポイントが装飾だけなんだろうね。わーぉ俺冷めてる~。


感受性が欠如した俺とは対照的にお嬢様は肩を揺らして教室内を見渡す。そうこうしているうちに注文したドーナツがやってきた。


「うん美味しい」


「たぶんミスドのやつですね。普通に美味いです」


「ミスドって何?」


「エンゼルフレンチは最強とだけ覚えておけばいいですよ」


迷路では不機嫌だったお嬢様も落ち着いてきたみたい。両手でドーナツを持ってモグモグと食べる姿は小動物みたいで可愛い。

おいおい小動物系最強は木下さんなんだぞー。お前そっち系じゃないだろ、お嬢様はウホウホ系最強だ。凶暴で生意気な態度がゴリラそっくり。いやゴリラって本当は大人しい生き物らしいけどね。


「陽登のも美味しい?」


「これがエンゼルフレンチな。一口やるよ」


「ふぇ?」


ドーナツを渡したらお嬢様は少し震えて固まった後、恐る恐るといった感じに小さく頬張った。顔が赤いのは俺の気のせいか?


「随分と小さい一口ですね。今さらぶりっ子しても遅いですよ」


「ち、違うわよ馬鹿。……うん、美味しい」


はあ、そうすか。よく分かりませんが、お嬢様にエンゼルフレンチの素晴らしさを知ってもらえたのなら幸いです。

ドーナツを食べ終えて教室を出る。間髪入れずお嬢様が指を差す。


「ねぇ次はあそこに」


「お嬢様、ずっと気になっていたんですが」


「何よ」


迷路で遊んで、ドーナツを食べて、他の模擬店にも行こうとしてさ。もしかしてこいつ、


「普通に文化祭楽しんでいるよな?」


「なっ……べ、別に陽登と一緒に回りたいとかそんなんじゃないんだからねっ」


うんそれは知ってるよ。クソの俺と一緒にいて楽しい奴なんていないと思う。

そこじゃなくて、あなたが普通に文化祭を楽しんでいることが驚きなんですよ。


「俺と同じで文化祭なんてクソだと妬んでいる人種だと思ってました。人並みに学校行事を満喫出来るんですね」


「あ、あぁそっちね。……ふん、庶民がどの程度の催し物をするかほんの少し興味があっただけよ」


とか言いつつ雨音お嬢様は次の模擬店へと入っていく。おもっくそエンジョイしているようにしか見えないですよ。顔もどこか楽しそうな表情だし。

まー、文化祭を楽しめるってのは良いことですよ。メイドさんも、お嬢様にはもっと青春してほしいと言っていた。帰ったら報告しておこう。


「ねぇ陽登っ、なんかすごいのある!」


「バルーンアートですね」


お嬢様は従姉妹の泉みたいに子供のような目でバルーンアートを眺める。天井にまで届く大量の風船は確かに見事だ。


「へぇー。庶民ってこんなのが作れるのね」


「ナチュラルに見下すのやめなさい」


「え、一応褒めているわよ」


それで褒めていたんかい。庶民と言った時点でアウトなことを知ろうか。

雨音お嬢様は普段から高飛車で偉そうな態度をとるが、今みたいに無意識のうちにディスることもある。お金持ち特有の感性なのか、天水家の教育が失敗だったのか定かではないがとりあえずやめてくれ。


「文化祭ってすごいのね」


「まっ、何ヶ月も前から準備しているのだからこれくらい当然だろ」


ちなみに俺もナチュラルにディスる癖があります。俺は意識してやっているから大丈夫だよ。何が大丈夫かって? お嬢様よりタチが悪いってことさ。


バルーンアートに夢中だったお嬢様はもう飽きたのか、次に行こうと俺の方を叩いて急かしてきた。はいはいついて行きますよ。と、お嬢様が止まった。


「……体育館って何やってるの?」


「知らん。演奏や演劇とかステージを使用したイベントがあるんじゃね?」


「ふーん……その、イベントって、何があるの?」


だから詳しくは知らねーから。俺に聞くのはお門違いだ。なぜそんなことを聞く……ん、なんかお嬢様がソワソワしてる。

髪に指を絡ませて目線は左右に泳ぐ。何か、期待しているような表情だ。


「私も詳しくは知らないけど、本当に全く知らないけどね?」


「あ? 何が?」


「……その、体育館で、あの」


お嬢様がしおらしい態度をとっている。それが何を意味するのか全く分からん。どうしたんすか、まるで体育館で何のイベントが行われるか知っているような口ぶりですよ。

賑わう廊下の真ん中で、お嬢様はあっちを見たりこっちを見たり、俺の方を見たり。潤んだ瞳がキッと俺を鋭く見つめてきて、


「い、今から体育館のイベントに……い」


「あっ、天水さんいた~!」


お嬢様に飛びつく女の子。どこかで見たことあると思えば同じクラスの女子だ。女子はプリプリ怒った様子だがお嬢様の腕に抱きついて離れない。


「な、何よ」


「天水さんサボっちゃ駄目だよ」


「わ、私はしないって言ったじゃない!」


「だーめ。せっかく制服の採寸したんだから着なくちゃもったいないでしょ」


女子はお嬢様の腕をグイグイ引っ張り、お嬢様はそれを嫌がる。拒否しているけど戸惑っており、嫌がり方が弱々しい。こりゃまたお嬢様らしくない。あなたホント変わったね。


「ほらみんな待ってるよっ」


「私は今から陽登と……」


「火村君、天水さんもらっていくね」


クラスメイトの女子が俺を見る。

あ……なるほどね。なんとなく状況が分かってきた俺は、意識してクズなことが出来る俺は、ニタァと笑う。


「全然構わないぜ。ねぇお嬢様、クラスの出し物には協力しないとね?」


確か俺のクラスは模擬店をやっていたはず。となりゃ定番の、制服を着て接客をするのだろう。制服の採寸とか言っていたから間違いない。


「今まで準備を手伝わなかったのだから当日は頑張ってくださいよ~」


「は、陽登ぉ……!」


雨音お嬢様は俺を恨めしげに睨む。あらあら、お嬢様が歯ぎしりしちゃ駄目ですよ?


「ほら行こう!」


「あ、ちょ、い、嫌だ~!」


強引に引っ張られてお嬢様は連れて行かれた。今からあいつは衣装に着替えて接客するんだろ?

ヤベェ、それ絶対面白いやん。協力しない他ないっしょー。俺もクラスの手伝いがしたかったんだキリッ。


「雨音お嬢様が接客……ぷぷっ」


想像しただけで笑いが止まらない。あとで絶対見に行こう。あっはっは、楽しみだぜ。


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