第79話 遊園地デート
のんびり寝たりゲームをして過ごそうと思っていたのに雨音お嬢様によって無理矢理連れ出された。
なーんで俺も外出しなくちゃいけないのか、レポート用紙三枚に書いて提出してもらいたい。そしてそのレポート用紙を読まずに引き裂きたい。引き裂くのかよ。
「つーか集合場所が遊園地とはね」
俺とお嬢様は遊園地のゲート前に立っている。
お嬢様の買い物に付き合うならまだしも、滝上って言う御曹司とお嬢様のデートに俺が同伴する意味が分からん。それはデートと呼べるのか?
「ちっ……遅いんだけどあいつ」
「そうっすね」
ちなみに隣のお嬢様はとてつもなく機嫌が悪い。
デフォルトで不機嫌なのだが今は普段以上に極まってイライラされている。舌打ちをしまくりだ。車に乗っている時からカウントしたら軽く百は超える。
「やあ雨音さん、今日もお美しいですね」
振り向けば執事を連れた滝上君がいた。あぁ今日も鼻がブタみたいですね。ブヒブヒ。
御曹司野郎はお嬢様の前に回り込むとお嬢様の手を取ってニコリと微笑む。お嬢様、顔をしかめてその手を弾き飛ばす。
「どうやら僕は遅れたみたいだ。でも雨音さんが今日を楽しみにして早く着いているとは嬉しい限りだよ」
遅刻したことにお嬢様が怒っていると思ったのか何やら上から目線でペラペラ喋っている。いやお嬢様はお前と会うこと自体に憤慨しているからね。
と、セレブブタ君が俺の方を見た。軽く会釈してみたが彼は不服そうに片目を細める。
「なぜ君がいるのかな。場を弁えたまえ」
「庶民でも遊園地くらい来るだろ。お前は常識を弁えろ」
個人的には軽いジャブ程度の反論のつもりが相手側したらアウトだったらしい。
即座に執事が後ろに回り込んで俺の腕に関節技を決めてきた。
「痛い痛い、腕取れちゃうから」
「僕に無礼な態度を取るからだ。反省したまえ」
ぐあぁマジで痛いんですけど。ヤバ、折れる。
「ちょっと私の使用人に何するのよっ。今すぐ離しなさい」
お嬢様が制してくれた。後ろから「申し訳ありません」と聞こえて痛みが消えて腕が解放された。おー、いてて。
「陽登、下手な真似はしないで」
お嬢様に耳打ちされた。えー、今の皮肉くらいでキレる方が悪いだろ。張り合いがない御曹司だな。
「こいつは私の使用人だから連れて来たのよ。そっちだって執事がいるじゃない」
俺には下手な真似をするなと言ったくせにお嬢様だって不機嫌なオーラ出しまくりじゃないですかーやだー。
御曹司は納得したのか、爽やかに微笑んでお嬢様の手を引く。速攻で弾かれているが。
「それでは行こうか。さあこっちだよ」
遅れたことについて謝れや、と心の中で呟く。口に出したらまたサブミッション決められそうなんでね。
ブタの鼻が先導の下、お嬢様と俺と執事はチケット売り場へと向かう。
んー、これってデートなんだよね、セレブ同士の。金持ちだから高級レストランでランチやオーケストラを観に行くと思っていたが普通に遊園地かよ。まぁ高校生らしくて特に不満はない。俺関係ないし。
「はい雨音さん一日フリーパスだよっ。それと君にも渡してあげよう。感謝するんだな」
「あざまー」
「あ、あざまー? なんだそれは」
「北の民族の言葉で感謝と尊敬を意味します」
「ほう、そうなのか」
また一つ賢くなったみたいな顔してますね。
拝啓母上様、金持ちのお坊っちゃまにチャラ語を教えました。僕は満足です。
「ふふっ、庶民で混雑して鬱陶しいが遊園地も悪くないな」
そら休日だし来園者は多いに決まってますやん。あと庶民が多いなら金持ちのお前の方が場違いだから場を弁えろよ。すげー言いたい。でもサブミッション執事が怖いからなぁ。
俺は口をモゴモゴさせながら御曹司の後をついていく。
「雨音さんどこから行こうか?」
「帰る」
「ははっ、面白いジョークだねっ」
へい御曹司さん、今のマジですよ。つーか気づけ、こいつずっと仏頂面だから。
お嬢様も両親の為に我慢しているんだよな。……ま、頑張ってください。
「おっ、あれなんかどうだい」
滝上御曹司が指差す先には……嘘だろ、あれって……メリーゴーランドじゃねーか。
「僕には白馬が似合うからね」
お前は似合わねーよ。ナポレオン連れて来い。
いやいや高校生でメリーゴーランドは、ねぇ? しかも一発目にメリーゴーランドとか。回転寿司で一皿目からモンブラン食べるようなものだよ。例え微妙だな。
ブタ君ごめん、俺らは高校生だ。こんな子供向けのアトラクションは乗らない。なぁお嬢さ……え、
「ふ、ふーん。まぁ悪くないわね」
何ちょっと期待しているんだよっ。どうしたセレブ共、お前らの感性はどうなっているんだ。
俺がツッコミ入れる間もなく一同はメリーゴーランドへと向かう。ほらぁ、子供ばっかりじゃんかー。
「行くわよ陽登」
「え、俺も乗るの?」
「雨音さんは僕と一緒に乗ろう。ほら馬車もあるよ」
お嬢様は俺の手を引っ張るがセレブブタ君が間に入ってきた。
加えて俺の方を見て「邪魔しないでくれたまえ」と注意してくる始末。だから俺は乗らねーから、話を聞け。
「ちょ、やめてよ私は陽登と……」
「さぁ行こうじゃないか!」
「いいから早く乗ってください。子供達が待っていますから」
後ろでガキ共が列を作っているんだよ。お前ら入口で揉めるな。あと俺もこの位置だと戻れないよね乗ること決定だよクソが。
結局お嬢様は早々に一人用のお馬さんに乗り、御曹司も隣の白馬に跨る。それはいい。問題はこっちだ。
「なんで俺とこの人と一緒に乗ってんだよ……」
子供達に譲っていたら二人用の馬車しか空いてなかった。俺の隣にはサブミッション執事さん。
最悪だ、何が悲しくて大の男と肩を並べてメリーゴーランドに乗らないかんのだ。軽く死にたい。
「はははっ、どうだい僕の華麗な馬術は!」
「陽登、これ楽しいかも」
前方ではそれぞれ馬に乗る御曹司とお嬢様。その姿を眺める俺と執事。
辛い、キツ過ぎる。隣をチラッと見れば精悍な顔つきのサングラスかけた男。この人SPみたいだな。
「メリーゴーランドも悪くないですねサブミッション執事さん」
「お坊っちゃまが楽しいのなら何よりです」
わーお会話になってねー。
そこから会話はなく、俺と執事は沈黙のまま前方の主人達を眺めていた。




