表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/150

第70話 自分の気持ちをはっきりと、

「痛い痛いぃ、ぐぎゅぐぎゅににぃんぎゃあぁぁちんぽげぽおぉぉ」


「陽登君、さりげなく卑猥な単語をねじ込むのやめてください」


お屋敷のとある部屋、メイドさんによる手当てを受けて俺の体は悲鳴を上げる。

消毒液が染みたら声は出てしまうし、ちんぽと口走ってしまうのも致し方ない。メイドさんや隣にいる木下さんに聞かせたくて言ったわけじゃないよ? 本当だよ? げへへ。

ブス三人娘を追い払い、意外と負傷しちゃった俺はこうしてメイドさんから消毒液を塗りたくられて絆創膏を貼られまくっている。両腕は包帯ぐるぐる巻きだ。痛い、染みる、ビクンビクン。


「はい、これで終わりです。大事に至る怪我はないですけどしばらくは安静にしましょうねー」


「つまり当分は働かなくてもいいんですね。やっっっっっったぜ」


「溜め具合が喜びの大きさを表していますね」


「溜める? 大きい? すいません下ネタはやめてください」


「頭の怪我は一生治りそうにありませんねー」


メイドさんはいつもの呆れた表情をして溜め息をつく。人はそう簡単には変わりませんよ。特に俺みてーな性根が腐った底辺の人間はね。

まっ、隣には変わることの出来た人がいるんだけどね。


「火村君、大丈夫……?」


ソファーに座る俺と木下さん。手当てを受けている時からずっと、執拗に、何度も大丈夫?と尋ねられた。はいはい大丈夫だって、別に骨折とかしてないから。そう説明しても木下さんはずっと、執拗に、何度も心配してくる。どんだけ心配してんの?

つーか距離が近い気が……。うるうるとした瞳で俺の顔を覗き込まれたらドキッとしてしまうのは本当に致し方ない。そんな顔されたら「おう大丈夫さ!」以外の返答が出来るかーっ。例え四肢がもげていようと大丈夫と答えてしまう自信がある。


「それじゃあ陽登君は安静にしていてね。木下さんはもうすぐしたら車で送りますー」


メイドさんはそう言うと立ち上がって扉の方へサイレント歩行。忍者かゾルティック家の人かな?

と、木下さんも立ち上がってメイドさんの元へ小走り。


「あ、あのっ、火村君を助けてくれてありがとうございました。それに私の手当てもしてくれて……ありがとうございます!」


メイドさんへ向けて勢いよく頭を下げた。俺の位置からも見える、メイドさんの少し驚いた表情。

木下さんの真面目な態度にビックリしたんですね。いつも俺みてーなクソカスの相手ばかりしてまともな若者と接していないからであろう。やだ何それ僕ちんのせい? 僕ちんぽのせい?


「陽登君は私の同僚ですから助けるのは当然ですよー。木下さん、これからも陽登君のことよろしくお願いします」


「ふぉう! 大人な対応ふぉう! カッコイイですなぁ~!」


「怪我人は黙って寝てろ、ですー」


驚いた表情は消え、見慣れた微笑みを浮かべてメイドさんは部屋から出て行った。

微かに鼻をかすめる消毒液の匂い、切れた口内をモゴモゴさせていると再び木下さんが隣に座ってきた。


「……」


「んあ?」


俯いて黙る。サラサラ前髪の下、目線はこっちを見たりあっちを見たり。何やら言いたげなのは分かったけど、おいおいはっきり言えやボケェ。


「あ、あのね……」


「そういやさっき髪の毛触ってごめんな」


さりげなく撫でちゃったんだよね。汚い手で触ってマジごめん。

でもね、すげーサラサラだった。触れているはずなのに触れた感覚がなくてそれでいて柔らかい髪の毛。シャンプーやトリートメントで出せるものじゃないよ。女の子の髪ってすげーのな。


「あっ、べ、別に、い、いいよ」


顔が赤くなるのは相変わらずか。口をパクパクさせながら慌てて言葉を紡ぐ姿はなんともキュート。監禁したい程の可愛さ。パコりたい。


「む、寧ろ……」


寧ろ?


「また、撫でてほしい、うぅ」


目をグルグルさせて口から湯気がぷしゃーな状態の木下さん。緊張しているのが伝わってくる。

いや、というより……いいの? また撫でていいのか。漫画みてーな展開ですなぁ。あの時はシリアスなムードでさ、流れに身を任せて俺カッコイイ的な行動で撫でたけど……それをまた、やってもいいと?


「じゃあ失礼しまー」


だが本人から了承、というよりお願いされたらやるしかないべ。ちゃんと消毒した手を木下さんの頭に乗せ……うはぁ。

何これすっごいサラサラ。指に絡まらない、指を入れたらスッと通っちゃう。それにふんわりしていて良い匂いするし、あ、あぁ~。


「んっ……」


「あ、ごめ、撫で過ぎた?」


「ううん……もっと、撫でて」


下唇を噛む、口をくの字、上目遣い、目がうるうる。即ち、最高に可愛い。ぐっ、ぐおおぉぉ可愛過ぎるだろうがああぁぁ! 何この生き物、何これ!? ハートがズキューン!ってなったぞズキューンって。

俗世なぞクソ食らえと思っていたが、こんなにも可愛い女子の頭をナデナデ出来ただけで脱ニートした甲斐があったと思えてしまう。うんうんもっと撫でちゃうぞ~。あぁ癒され…………はっ、下半身が……!


「ぁ、え、えと、木下さん」


「んんっ、ぅ……」


その嬌声やめて、今はやめてっ。ヤバイ、息子が立ち上がりそうだ。同じソファーで、頭ナデナデ、木下さんの喘ぐ声、こんなの起立するのには十分過ぎる。なんなら発射まである。ヤバイ。

落ち着けぇ我が息子。貴様の立つ姿がバレたらせっかくの良いムードが台無しだ。静まりたまえ! 静まりたまえ! 夜になったら存分に遊んでやるから。


「木下さん! 何か言いたいことあったんじゃなかったの?」


「ふぇ? ぁ、うん、えっと」


このままでは本当にヤバイ。話題を変えなくては。さぁ落ち着くんだ息子よ。

心頭滅却、心頭滅却。撫でるのをやめたら木下さんが物惜しげな顔したけど気にするな。うん。


「た、助けに来てくれてありがとうね」


「あぁ、そんなことか。別にどうってないから気にすんな」


「でも……すごく嬉しかった」


んー、そんな感謝されても逆に困るんですけどね。

俯いてしまった木下さん、俺は天井を見上げて口をくぱぁと開く。なんて言えばいいかな~。


「つーか俺は一回木下さんを見捨てようとしたんだぜ。最低だろ」


「ううん。き、きっと火村君は何か考えがあって行動したんだよね?」


なんで分かるの。え、今すげービックリした。何気なく買ったら銀のエンジェルが当たった時くらいのビックリ。

どうして俺の意図が分かったの? そう言おうとした時には木下さんの手が俺の手の上に置かれていて、視線を上から横へ移動させれば木下さんの潤んだ瞳と色っぽく染まった赤い頬。

思わずドキッと胸が高鳴るのは不自然なことじゃない。


「火村君が庇ってくれた時、私もしっかりしなきゃと思った。火村君のおかげで立ち向かえる勇気が持てたの。だから、ありがとう」


木下さんの視線はまっすぐ俺を見つめたまま、重ね合った手と手は熱を増していき、静かな部屋の中で互いの鼓動が高鳴る音が聞こえる。目が、顔が、体全身が熱い。意識が茹で上がって視界がクラクラする。

ヤバイ、キスしたい。二人は幸せなキスをして終了したい。これアレやん、キス出来る展開やで。グータラな俺にも青春がやってきたのか。


「火村君……」


「木下しゃん……!」


噛んだ。知るか。今はチューだ。これはチューする流れだ。これは出来る。

うわぁヤバイ、初キスだ。すごいよ俺、こんな可愛い子とキス出来るの? リップクリーム塗らないで大丈夫かな。ミント菓子食べなくて大丈夫かな!?

ぐおおおぉ目と目が合う。やるぞ、行くぞ、この可愛らしい唇を蹂躙してやるぞオラァ!


「木下さん、車の用意が出来ましたー。どうぞこちら……に」


ドアが開いてメイドさんが入ってきた。

現在、俺はタコの口をして木下さんに迫っているところで、どう見ても俺が襲っているようにしか見えない状況なわけで……あ、メイドさんから黒いオーラが溢れてきた。これは別の意味でヤバイ。


「陽登くーん、何をやらかそうとしているのですかー?」


「い、いや落ち着いてください。これは違うんですよ、ちゃんとムード整えてキスしても良い状態になったからキスしようとしているわけで」


「ち、違いますクソボケっ」


木下さん!? そこでクソボケ言う!? かなりヘビーな一撃!

あ、あかん。これは言い逃れ出来ない。メイドさんが黒い笑みのまま歩いてくる。

違うんですってマジで。どう考えてもキス可能な雰囲気だったんですよ。二人は幸せなキスをして終了だったんで、あ、






「それではお気をつけてー」


メイドさんが手を振って木下さんも車の中から手を振る。俺は再度ボコボコにされて顔は痣だらけ。あれれー、傷の手当てされた意味がないぞー?


「ひ、火村君じゃあね」


「おう、粗相して悪かったな」


もう分かった。俺にキスは出来ない。こんなクズ男にハッピーな思いはさせないと神が決めた宿命なのだろう。上等だよ童貞のまま輪廻転生して再びニートになってやる。

ノリと勢いでチュー出来るのは嘘だと胸に刻んだところで車は発進する。あばよ木下さん、良い夢見ろよ。はぶあないすどりーむ。


「あ、あの……」


車が進んでいく。木下さんの顔が見えるか見えないところで、


「こ、心の準備が出来ていないだけで、その……火村君なら大丈夫、かも……うぅ」


真っ赤な顔をして小さく手を振る姿を最後に車は屋敷内から出て行った。

門の傍、静寂に包まれた中で俺は口を開く。


「最後の……どゆこと?」


大丈夫って何が。ちょっと意味が分からないですねぇ。火村君にはクソボケって言えるから大丈夫ってことかな。だとしたらまたしてもヘビーな一撃。あの子は俺を言葉で痛めつける術を覚えたのかな? 言葉の暴力的な。


「陽登君モテモテですね~」


「はい? なんでモテモテ? 訳が分からないのですが」


「さ、陽登君は安静にしてくださいー。傷に触りますよ」


この新しい傷はテメーのせいなんですがね。

皮肉の一つでも言ってやろうかと思ったがメイドさんに背中を押されて屋敷の中へと押し込まれる。やめて背中も怪我しているから痛いから。


……木下さんは変われたんだよな。

まだ口ごもるし顔も赤くなるけど、それでも彼女は自分の意思をはっきりと言えるようになった。昔いじめられた奴らに対してクソボケって言えるようになった。

ニッコリと、最高に似合った笑顔を浮かべられるようになった。うん、十分だ。これからはきっとヘラヘラと笑えるはずだ。


「へへっ」


「キモイですー」


一人ニヤッと笑っていたらメイドさんに背中を蹴られた。だから背中はやめてってば!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ