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第7話 一日目・お芋とランチタイム

昼休み。ご飯を食べる時間だ。


「ハル、食堂に行こうぜ」


親友かの如く芋助がやって来た。やけに俺に絡んできやがる。俺のこと好きなんじゃね?


「食堂はいいから売店の場所教えろよ。一人で食べて寝る」


「寂しいこと言うなってばよ~」


おい引っ張るな。あと何だその口調。主人公気取ってんじゃねーよ。


「それに昼休みの売店は超混んでるぜ。大人しく食堂で食った方が利口だってばよ」


「食堂も大して変わらないだろ芋助ェ」


「俺はお前とも、食べたい」


戦いたいみたいに言うな。

はいはい分かったよ。どうせこいつは諦めないだろう。抵抗する方が労力を使う。

黙って席を立ち、芋助に早く行けと促す。

そうこなくっちゃ!とスキップして芋助が教室を出て行く。テンション上げんな鬱陶しいから。


「火村」


「おっしゃ食堂行こうぜ芋助!」


「どうした? 急にテンション上げんなよ鬱陶しい」


ああ? それは俺の台詞だ、ってそんなこと言ってる場合じゃない。

後ろから声をかけられた。雨音お嬢様だ。

休み時間は話しかけてこなかったくせに、なぜ今になって話しかけてくる。ぜってー面倒くさい。早く逃げなくては。


芋助の背中を押して加速していく。早く進め芋助ェ!


「ち、ちょ火村、待ちなさ」


「さあ芋助、食堂にレッツ&ゴーだ」


「よっしゃ任せろ俺達爆走兄弟だってばよ!」


あぁ、こいつ馬鹿で良かった。






雨音お嬢様から逃れて食堂へと到着。予想していたが人が多い、多過ぎる。

どいつもこいつも食堂を利用しやがって。そんなにババアの作る質素な飯が食いたいか。


「芋助、オススメは?」


「今日の気分だと麺定食だな」


それお前の気分じゃねーか。俺は人気のメニューを聞いたんだよ。お前が今食べたいやつではない。

参考にならないので俺も気分で親子丼の食券をプッシュする。

クソする時みたいなブボボボと汚い音を立てて食券が出てきた。きたねーな、食欲半減だよ死ねボケェ。


「お、ラッキー。席が空いてるぜ! あそこに座ろうぜ爆走兄弟!」


「誰が爆走兄弟だ、勝手に一人でアホの道を爆走してろ」


「ハルから言ったくせに!?」


あぁクソが。人多いな。

混雑する中を抜けて芋助が既に座っているテーブルへ向かう。

席に着いて箸を持ち、いただきます。


「どうだ麺定食美味いだろ?」


「お前ヤベーな。盲目なの?」


俺が食ってるのは親子丼だ。そしてさらに言えばお前の食べているのはカレーライスだ。勧めたお前が麺定食じゃないのはどういうことだ。とりあえず麺に詫び入れろ。


「うちの食堂はかなりレベル高いと思うぜ。俺ん家の飯より美味い!」


「お前の母ちゃん料理下手なんだな」


「テメェ! 俺の母親を侮辱するか!」


米を飛ばすな汚い。

別に普通だよ。食堂なんてこんなものだろ。漫画みたいにプロ料理人が作るなんてわけないし。味は普通だ。


「まぁいいさ、入学初日の新人ハル君を許してあげよう。俺優しいよねっ」


「なんで芋助は俺に絡んでくるんだ。お前友達いないの?」


「話スルーだし痛いところ突いてくるね……」


そう言って寂しげにカレーライスを口に運ぶ芋助。

おいおいマジかよ。俺はまだしもお前は入学して一ヶ月経つよな。まさか本当にボッチ……


「なーんてねっ、違うぞ友達ぐらいいるさー」


うっわウゼー。

じゃあ俺のことはいいからそいつらと飯食えよ。頼むから。


「いやさ、実はハルに相談があるんだ」


今度はガツガツと元気よくカレーを食べる芋助。

半分ほど平らげたところで水を飲み、一息ついて口を開く。


「何?」


「天水さんの……メアド教えて」


「知らない」


「ふざけんなよお前最悪だわ」


一気にテンション下がったみたい。冷めた目で俺を見てくる。

そして舌打ちしながら福神漬けを噛み砕いている芋助。態度変わり過ぎ。

いや俺はあいつと出会ったばかりだぞ。スマホに入っているのはおっぱいだけだ。連絡先は入っていない。


「つーかお前、お嬢様のこと狙ってるのか?」


「ま、まぁな。話したことはないけど、是非ともお知り合いになりたい。あわよくばお付き合いしたい」


あいつと付き合いたい? センス×だなこいつ。野球ゲームのサクセスなら即リセットだ。


「お尻合いのお突き合いをしたい、ぐへへ」


「何言ってるかさっぱりだよダイジョーブか?」


「なぁ後で話す機会設けてくれよ」


「はぁー?」


頼むから!と両手合わせて頭下げてきた。

ふざけんなノーだよ。出来る限りあいつと話したくないんだって。


「嫌だよ。お前の明るさなら俺いなくても余裕だろ」


「いや無理だって。天水さんって話しかけてくるなオーラがヤバイんだよ。単騎突撃するなんて怖い!」


まぁ確かにな。あいつの不機嫌オーラはかなりのものだ。

教室でもボッチ。威嚇するように目つきが悪く、休み時間は寝てばかり。

ふーん……あんな奴だったのか……。


「そ、こ、で! 天水さんと面識あるハルにお願いしたいんだ。なぁ頼むって、お代わりの水持ってくるからさ」


随分と安い報酬だ。

ちっ……。土方芋助、知り合って数時間の奴だがこいつが簡単に折れそうにないのは理解した。

他人の恋路をサポートするなんてゲロ出そうなくらい面倒くさい。が、仕方ない。テキトーに仲介してやれば満足するだろう。やってやるか。


「分かったよ、教室戻ったらな」


「お、おぉ~あんがとぉ! やっぱお前は親友だよ!」


「水のお代わりはいらないから親友って呼ぶのやめろ虫酸が走る」


「虫酸がレッツ&ゴーだな!」


あああぁぁぁウゼェ!






「火村! どこ行ってたの!」


教室に戻るといきなり雨音お嬢様の怒号が飛んできた。

さっき逃げたせいか、またしても怒っている。今日で何回怒らせているのだろうね? 目指せニューレコード。


「さっき呼んだのに無視したでしょ!」


「え、マジすか。全然気づかなかったですぅ」


「……嘘ね。ワザと逃げた」


「ご主人様にそんな無礼な真似するわけないだろ」


「初日で無礼なことばかりじゃないっ」


それもそうですね、あっはっはー。

ヘラヘラと笑ってみせたらお嬢様の顔がより険しくなった。怖い怖い。

中学生の時、授業サボって空き教室で寝ていたらそこで着替えようとクラスの女子達が来たことがあった。あの時もこんな顔で睨まれたなぁ、しみじみ。


「何よその態度っ、使用人としての自覚はないの!?」


放置してたらお嬢様がヒートアップしてきた。ここは早めに投入するか。

おい芋助、約束通り仲介してやるよ。

後ろにいた芋助を引っ張り、お嬢様の前へと出す。行けぇ芋助!


「こいつ芋助って言うんだ。雨音お嬢様とお話したいってさ」


「ぁ、えっと……ぼ、僕」


ボソボソと喋り出した芋助。

おいどうした? 頑張れよ。

顔は真っ赤、俯きながら細い声で喋るから何言ってるか後ろにいる俺にすら聞こえにくい。

こ、こいつ……緊張してやがる。


「よ、よよよよ良か、よか、よよ、良かっ……よよよ」


「いや全然駄目だなお前!? 昭和のラジオか!」


「良かったらぼきゅとおちゅきあいしてくだちゃいっ」


噛み過ぎのあまり赤ちゃん言葉みたいになって気持ち悪さが倍増した。

でも本人は言い終えたと思っているのか、頭をズバッと下げて手を差し出している。


対してお嬢様は……あ、


「知らない。キモイ。話しかけないで」


顔が険しいとかそんなレベルではない。

不快、ただ一つの感情が色濃く表れていた。

ゴミを見る目で芋助を見て、差し出された手を極端に避け、手で自分の顔を覆っている。まるで腐臭ガスから逃れるような仕草。


本気で嫌がっている。

俺の時とは違う。そんな気がした。


「火村の馬鹿!」


雨音お嬢様が俺の横を通り過ぎて行った。

ふわりと長髪が宙で揺れ、良い香りが鼻先をくすぐる。


それ以上に、全身で感じたお嬢様の怒りと嫌悪が肌に纏わりついて、離れない。


「……」


「は、ハル……俺は今どうなった……?」


「んあ? 知らないキモイ話しかけないで、と言われた」


「リピートありがとう。聞き間違いではなかったのか……がふっ」


何かを吐いて芋助はその場に倒れた。

俺は黙って合掌して祈りを捧げる。迷える芋の魂よ、畑に還れ。


「……って待てーい! なんで俺フラれた感じになってんのよ!?」


復活しやがった。二期作か。いや農学とか知らんけど。


「待て待て待ーて、違うんだよ俺は天水さんとお話をして最初は友達からと思っていたのにぃ」


「その割にはいきなり直球放り投げたな」


「うるせい緊張のせいだい! 大体ハルの振り方が悪いんだよ、もっと上手く自然に誘導しろよ馬鹿!」


「なんだと芋野郎。サポートに頼っている時点で駄目なんだよ。自力で突っ込めない奴に恋愛する資格はねぇ」


「今時のゲームは協力プレイがセオリーなんだよ知らないのか~? サポートなしのボッチじゃ女もレアアイテムも手に入れられないんだぞ!」


「課金しろ!」


「金なんてねぇ芋しかねぇ!」


そのまま芋助とギャーギャー騒いでいるうちに貴重な昼休みが終わってしまった。

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