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第66話 耳掃除といえばイチャイチャの定番

蓮の花が綺麗に咲く今の季節。まぁ俺は早起きして蓮を見に行くといった趣深いことはしない。そんな時間あったら寝るわ。寝まくるわ。一日中寝続けて、たまたま目が覚めた時間が早朝なら蓮を見に散歩へ……いや寝るわ。

大体さ、今の時期は雨ザーザーですよ。雨の中、外へ出るなんて絶対に嫌だ。自分の部屋でのんびり過ごします。


「猪狩って敵だとそこそこ強いのに味方になるとクソ弱いんだよなぁ」


外は雨、俺は物置部屋のベッドの上。芋助から強引に借りた携帯ゲーム機で野球ゲームをやっている。常にユニフォームを着た主人公がプロ野球選手を目指して奮起するサクセスモードをプレイ中。本気で強い選手を作るには初期能力の高い奴を厳選し、謎の博士の改造イベントを成功させないといけない運ゲーだ。

そこまでやり込むつもりはないのでテキトーに練習させて今は地方大会の決勝。敵チームの猪狩って奴はイケメンで天才投手でバッティングも上手いんだと。ムカつくなぁ。俺が操作する時はボロカスに打たれるくせに。


「なんでチャンスに弱いんだよ矢部ェ……ん?」


ランナーが得点圏にいるだけでミートが萎縮するクソ雑魚眼鏡に苛立っていた時だ。ふと、なんとなーく耳に違和感。十六年の人生で得た経験から察するにこれは……フッ、なるほどな。この時が来たか……。


「耳クソ溜まってるわこれ」


随分と耳掃除してなかったし、これ普通に耳クソ溜まっているね。耳の穴に指を突っ込んでみるが指先にカスがつくだけ。ん~、もどかしい。こういうのって一度気づいたらずっと気になるよね。仕方ねぇ、掃除すっか。

クソ矢部がゴロを打ったところでゲーム機の電源をオフ。ベッドから起き上がって部屋から出る。

この前会った木下さんの同中の女を耳クソと罵ったが俺自身も耳クソだったわ。はーぁ、だりーなー。


「つーか綿棒とかどこにあるんだよ」


屋敷に来て一ヶ月半の俺はまだ屋敷全体を把握していない。俺が入ってはいけない部屋はたくさんあるし、ごく普通の一般家庭で使う雑貨をどこに保管してあるか知るわけがない。手がかりなしで探すなんて、そんなの無理に決まってるじゃないですかーやだー。

とりあえずリビングに行くか。一番ありそうだし、もしかすると誰かいるかもしれない。耳をほじり、取れないことにモヤモヤしながらリビングへと入れば、


「あれ、陽登君どうしたの?」


メイドさんがソファーに座っていた。シャツとホットパンツのラフな姿で足を伸ばしている。この人くつろいでいるなぁ。ここが自分の家みてーな感じ。実際住み込みで働いているから自分の家なんだろうけどさ。

とにもかくにもメイドさんがいて助かった。この人なら綿棒がどこにあるか知っているはず。


「めんぼーってどこあります?」


「めんぼー? 綿棒よね。ちゃんと発音してくださいー」


語尾を伸ばして可愛い声しているあなたに言われたくねーんですけどー。

しかし言いたいことは伝わったみたい。スッと立ち上がったメイドさんは迷うことなく棚のところへ行き、家庭でよく見る綿棒の入ったケースを取り出した。

おぉ市販のやつで良かった。お金持ちだから金粉まぶした綿棒とか出てきそうで怖かったよ。なんで金粉? さらに耳汚れるだけじゃね?


「はいどうぞ。何に使うの?」


「口内上皮を採取して顕微鏡で細胞を観察するなんて特殊な使い方はしませんよ。普通に耳掃除するだけです」


長台詞を喋ってしまった。ちょっと面白い返しをしようとした俺です。

あ、尻の穴をほじって新しい趣味の扉を開くつもりだと言ってボケれば良かった。綿棒でするのって変態の第一歩らしいですよ。ハマったらすごく怖いから俺はしない。

メイドさんから綿棒を受け取ろうとする。が、寸前のところでメイドさんの手が止まって上へと上がってしまった。

俺の目を見るメイドさん。じぃ~、と何か考えている目。すると、目が光って頬を緩ませニヤリと意味ありげな微笑みを浮かべた。


「せっかくですから私が掃除してあげますよー」


「え?」


それは、えっと、俺の耳掃除をメイドさんがしてくれるってことですか。まるでお母さんみたいですね。俺は母親にやってもらった記憶はないけど。あの社畜ババアに子を愛でる時間はなかった。

そんな母親の愛情を味わえるイベントをこの人がやってくれるか。そうだな、せっかくなのでお願いしよう。あざます、と礼を述べたところでメイドさんが小さな声を上げた。


「ちょっと待っていてください」


するとメイドさんはスタスタ歩いていき、リビングから出て行った。残された俺、一人でポツン。

一体どうしたんだろ。トイレか。それとも俺みたいなイケメンの耳穴を掃除するのが照れくさくて一旦部屋から出て深呼吸でもしているのかな。扉の向こうであのクールな上司が顔を赤く染めていると想像したらグッと来た。最近の俺はグッと来やすいなおい。

待つこと十分。扉が開いてメイドさんが戻ってきた。

やっぱトイレだったか、と思いきや先程とは違う点がある。服装が変わっていた。

シャツの上から薄いカーディガンを羽織っているのは別にいいけど、ホットパンツが丈の長いスカートに変わっているのは……もしかして、


「先程の格好ですと足の露出が多かったので着替えてきましたー。間近で陽登君に見られるのは嫌ですし舐められそうだったので」


そう言ってメイドさんは微笑む。いやいや、ニコッと笑って言うことじゃないでしょ。

あーね。ホットパンツだと俺に超至近距離で生足を見られてしまう。俺があなたの足をペロペロしちゃうかもしれないと。そんな気持ち悪いセクハラを未然に防ぐ為に服を変えてきたんですね。

うん、俺の信頼度がいかに低いか分かった。そしてそこまでして耳掃除をしたい理由は分からん。別に自分で出来るからいいのに。


「ささ、陽登君は横になってください」


ソファーに戻り、フワッという擬音が聞こえるぐらいフワッと座ったメイドさんは自身の足をポンポンと叩いている。ここに頭を預けてくださいと言わんばかりに。

さっきから気になっていたんだよ。わざわざスカートに履き替えて俺に足を見られたくないと言ったからには、もしかして俺はこの女性の太股に頭を乗せていいのか?

確かに他人の耳掃除をする場合、そういった体勢になるのは当然かもしれない。だが本当にやってもいいのだろうか……。な、なんかドキドキしてきた。


「んじゃあ失礼しまーす」


しかーし! この火村陽登を見くびってもらっては困る。童貞でも俺は臆しない童貞だ。舐めるではない! 足は舐めたい!

母親にすらしてもらったことのない初イベント。彼女にしてもらいたいイベント筆頭の耳掃除を前にして一般童貞なら戸惑って顔を真っ赤にしただろうが俺は違う。こんなチャンス、もう二度とないかもしれないのだ。困惑する暇なぞあるか。ご厚意に甘えて存分に堪能してやろうぜ。

ヘラッとした調子でソファーに乗り、メイドさんの足に頭を置く。まずはメイドさんの体とは反対方向を向く。視界にはクソ広いリビングが映る状態だ。


「やっていきますね。痛かったら言ってくださいー」


「はーい」


うわぁああぁ太股柔らかい。布の上なのに柔らかさが伝わってくる。全神経を頬に向けるぜー。はぅわあぁ、膝枕すげー。はぁ、はぁ……!

と、耳に何か入ってきた。耳掃除が始まったか。ゆっくりと、奥には入らず穴の周りを綿棒がくすぐる。こ、これは……気持ち良い……っ。


「メイドさん上手ですね」


「えへへ、そうですかー?」


嬉しそうな声と共に綿棒が少し奥へやって来た。自分がやるのとは違い、メイドさんは優しくそっと丁寧に掃除をしてくれているのが分かる。カリカリ、と小気味良い音が聞こえ、不思議と意識がトロンと緩む。


「メイドさんにこんなことしてもらえるなんて思ってなかったです」


「最近、陽登君は頑張っていますからね」


「頑張っている?」


これまた珍しい。メイドさんが俺のことを誉めた。

でも悪いですけど最近というか今まで特に頑張ったことはありません。屋敷の掃除はダラダラやっているし時間があれば昼寝とゲームだ。

この人は何を見てきたのやら。今は俺の耳穴を見ているよねっ!


「学校で何かやっていますよね? 帰りが遅いことが多いですよ」


「んなのお嬢様放置プレイで遊んでいるだけっすよ。頑張りとは言わないでしょ」


「私はそう思いませんよ。何か、大切なことをやっている気がします」


「……ふーん」


中々に鋭いなこの人。

今言われた通り、別に遊んでいるわけじゃない。木下さんの意識改革をやっている。とはいえ本人から頼まれたと言うよりは俺が勝手に提案してほぼ強制でさせているようなものだが。

ここ最近は毎日やっており、おかげでうちの姫様こと雨音お嬢様は放置している。何かと不満げな顔して文句言ってくるよなぁあいつ。


「何をしているのですか?」


「大したことじゃないですよ。野ブタ的なやつです」


「誰かをプロデュースしているのは分かりました」


「おっ、あのドラマ知っているんですか。さすがお年を召されている~」


「鼓膜突き破りますよー」


あ、ごめごめ、嘘。でも放送されていたの結構前ですよ。どうして知っているんですかね。それはやはり年が……おっと、これ以上言うとマジで鼓膜が危ない。ちなみに俺はDVD借りて観てました。田舎は暇だからね。ドラマ結構観たよ。コトー先生とか勇者ヨシヒコとか。


「ふふっ」


「何かおかしいことでもありました?」


「陽登君には人を変える力がありますからね。クズですけど」


顔は見えないがメイドさんは笑っているに違いない。何を楽しげな声を出しているんだい。笑いながら人をクズと言わないでもらいたい。事実でも言っちゃいけないことはあるんですよ。例えばブスにブスと言ってはいけないとか。俺は平然と言うけどねー。

心地好い耳掃除に涎が出そうになる中、メイドさんの言葉に違和感を覚えた。俺に人を変える力がある、ねぇ……。そんなことはないと思いますが。だって俺は元ニートでクズで向上心ゼロの駄目人間だぜ。仮に変える力があったとして改善ではなく改悪の方でしょ。他人を駄目にする系の能力者だろう。


「何かあれば私に相談してくださいね」


「んー、お気遣いありがとうです。まぁたぶん大丈夫ですよ」


実際のところ俺のお節介で木下さんは以前より話せるようになった。女子高生がクソボケと言うんだぜ。俺ヤベーよ何してんの?

クラスでも男子とはまだ話せないが女子達と楽しくお喋りしているし、俺が出る幕はない。メイドさんに頼ることもないってことだ。


「でも何かあったら全力で頼りますわ。俺、おんぶに抱っこじゃないと生きていけない人間なんで」


「陽登君らしい台詞ですねー。はい、こっちの耳は終わりましたよ」


ではもう片方の耳ですね、と言ってメイドさんは俺に反対方向を向くよう指示する。俺はスッキリした耳に満足しながら今度はメイドさんの方を向いて……っ、


目の前にはメイドさんのお腹。柔らかい足の上に頭を乗せ、眼前にはシャツ。この一枚の薄い壁の向こうにはお腹が……!

想像が脳内を溢れて理性が決壊、サーバーダウン、バルスした。俺は首に力を込めて頭を前進させ、一気にメイドさんの下腹部へダイブ!


「ひゃ」


「クンカクンカクンカふんふんふんっふんふんうぅはぁはぁはぁ!」


うわあああああ良い匂いがするうううぅぅー! うほほおおぉ柔らかいぃー!

欲望を剥き出しの本能は暴走、コントロール不能、アバレンジャー。もっと、もっとだ。


「んほおおおおおぉぉぉぉおおおおおおおおおおおぉぉぉ!」


突然車道に飛び出した子供の如く勢いよく、俺の手は服の端を掴む。

いざ行かん!と服をめくろうとした時だった。


耳が、耳の穴が痛い。


「は~る~と君~。何しているのかなー?」


「痛い痛い痛い痛いぃ!?」


ぎゃあああああ! めんぼーがあぁぁ!? 鼓膜が痛い!

先程とは打って変わり、綿棒がゴリゴリと穴の奥深くまで入ってきて中で暴れまくっている。や、ヤバイヤバイ耳が死ぬ!


「セクハラ行為はお姉さん許しませんよー」


「ご、ごめんなさい調子乗りまし、がぁ!? だ、だからそんな奥まで突っ込まないでぇ……」


天国から地獄。耳の中を襲う耐え難い激痛に悶え、俺の意識は吹き飛ぶ寸前だった。


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