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第65話 見たかった笑顔と見たかった全裸

ショッピングモールで服を見て回り、ゲーセンで俺の華麗なクレーンゲームの腕前を披露し、ペットショップの猫コーナーから動こうとしない木下さんを眺め、時間が余ったので流行りの映画を観た。

途中からは特訓とか関係なく普通に遊んで、集合場所だった駅前に戻ってきたのは夜八時だった。んーむふふ、楽しい時間ってのは過ぎるのが早いですね。もう空は暗い。僕達高校生だから補導されちゃうよ~。


「お、送ってもらわなくても大丈夫だよ?」


「うるせーなー、俺が送りたい気分なんだよ」


それ程暗くないが一人で帰らせるのは気が引けるんでね。そんなわけで木下さんの降りる駅で俺も降り、二人並んで住宅街を歩いている。

大丈夫だよ、送り狼みたいなゲスな真似はしない。それに、家まで送っていき玄関先で母親と会って「あらあらもう遅いから泊まっていってね」とか言われて木下さんの家で一泊して二人同じ部屋で寝て勢いに任せて初体験、といったエロ漫画の展開にはさせません。つーかならない。現実そんなに甘くない。俺知ってるもん。


「まぁ家の前まで送るつもりもないわ。この辺でいいかな」


木下さんも俺なんかに自分の住所を知られたくないだろうし、ここら辺でやめておこう。寧ろ俺が不審者扱いされる可能性がある。

やめておくれ、まだ犯罪には手を出していないつもりだから。誰かの胸を盗撮したことあるけどあれ一応身内だからセーフだと思う。うんきっとセーフ。次は全裸を盗撮してやりたい。はいアウト。


住宅街の道、街灯の下で俺と木下さんは向き合う。

こちらの気分としては彼女を見送る彼氏の気分。このシチュを味わいが為にここまで送ったと言っても過言ではない。うえ~い俺ってリア充~。


「じゃあな。ちゃんと薬飲んでポカリ飲んで服着こんでしっかり寝ろよ」


「わ、私、風邪引いてないよ?」


ナイスツッコミだ。きっと君ならツッコミ役として天下が獲れるよ。まぁ夜の漫才に関して言えば君はツッコまれる側なんだけどね。ふぉう! 下ネタ大好き!

手を振って俺は踵を返す。さてと、帰りますか。


「ひ、火村君っ」


「ん?」


「今日は、ありがとう。すっごく、た、楽しかった」


もう一度踵を返せば街灯の下に、頬を緩ませて笑う木下さんがいた。ふにゃあ、と柔らかく、けれどアヘ顔ではなく、俺に向けられた笑顔はただ純粋に可愛くて。

あぁ、そうそう。俺が見たかったのは、木下さんにしてもらいたかった笑顔はそれなんだよ。どこにでもいる女子が普通に笑って楽しそうにする姿。

その顔が出来れば十分だよ。こりゃマジで俺は用無しだな。特訓と言って束縛するのはやめるか。


「俺はそこそこ楽しかったぞ。んじゃあの」


素直に楽しかったと言えない俺ってホント人格終わってるなぁ、などと思いつつ三度目の踵返し。

さっさと帰って寝るか。駅を目指してダラダラと歩いていく。






「たでーまー」


屋敷に帰り着いた時には夜の九時ジャスト。どうでもいいが、ふと時計を見て何時ジャストとかゾロ目が揃っていたら少し嬉しいよね。日常にある些細な幸せ。

インターホンを押しても誰も出なくて困っていると玄関から庭師のおっさんが出てきた。あらら、今日は随分と遅い帰りですね。


「メイドさんはどしたんですか?」


「月潟さんとお嬢様は入浴中です」


そりゃなんと! 脳内で二人の裸を想像して思わず息子が起立する。思春期だからね、こうなっちゃうよね。俺ぐらいのレベルになれば想像だけでこのザマだよ。おかずは必要ない。カッコイイ。

何にせよ都合が良い。クソお嬢様に何か言われる前に自分の部屋に逃げ込もう。このチャンス、逃すなベイビー。


「庭師さんはお帰りですか。思春期の娘さんによろしくです」


「うん……最近はまた冷たいんだけどね」


暗い表情をして庭師のおっさんは帰っていった。社畜リーマンの帰宅姿みたいな哀愁があったなぁ。頑張れお父さん、きっといつか娘さんも素直になるよ。

ともあれお嬢様に見つかることなく屋敷の中に入れた。となればやることは一つ、覗きだ。


「……いやぁ、さすがに捕まるよね」


見つかった時のリスクを考えれば覗きは危険過ぎる。本気で土中に埋められて植物の栄養にされかねない。大人しく自分の部屋に行くか。

今日見せてもらった木下さんの笑顔と、お嬢様とメイドさんの全裸を思い浮かべながら今晩はこれでイケるなと思いつつ俺はティッシュを三枚ドローした。


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