第6話 一日目・ジャガイモ現る
休み時間、誰も俺に話しかけてこない。隣の木下さんがチラチラと見てくるだけ。
……俺、なんかしたかなぁ? 普通転校生来たら質問攻めとかあるものじゃないのか?
誰も俺に話しかけてこないし変な距離を感じる。あれだ、駅前とかで変質者を避けているみたいな感じ。いや俺変質者じゃねぇよ。
「まぁ質問攻め食らうよりマシだけどな」
なんて強がりを言って俺は机に突っ伏す。
クラスに馴染めない奴がプライドを保ち、決して居場所がないわけではないと自身を納得させる方法がこれである。
そう、寝たフリだ。
俺は眠たいだけで決して、決してボッチで寂しいわけではない。自分自身と周囲にそう言い聞かせるアクションだ。
そしてさらに言えば俺の場合はマジで眠たい。
大体さ、クラスに馴染むなんてクソでしょ。なんで俺が社交性のスキルを解放して他人と意気投合しなくちゃならんのだ。意味分からん。
よって寝て過ごした方が良いに決まっている。間違いないね。
さーて、このまま昼休みまで惰眠を、
「よっ、転校生!」
軽快な声と共に誰かが俺の肩を叩いた。イラつく。叩かれた右肩も「あ゛ぁん?」とキレてる。
誰だ、ボッチ転校生が張ったバリアを突き破った不届き者は。
目を開け、顔を上げる。
「なんだ起きてたのか~」
はあ? 何そのフランクな対応。ムカつくんだけど。
そこにいたのは男子生徒。爽やかな笑みを浮かべ、タレ目のくっきりとした目の黒髪ツーブロック野郎がいた。
「火村陽登だったな。陽登って呼んでいいか?」
「いや駄目だろ。つーかお前誰だよ」
今の返しは辛辣なものだったのだろう。
俺が答えた後、教室内がざわついた。隅でヒソヒソと女子生徒達が囁いている。
だが目の前の奴は違う。一瞬キョトンとしたがすぐにケロっと口を開けて笑った。
「それもそうだな、あっはは! まずは自己紹介からしよう!」
こいつテンションたけーな。
「俺の名前は土方芋助(ひじかたいもすけ)、よろしくな。これでいいか?」
「恵まれた名字からクソみてーな名前だなお前」
芋助って……名づけた両親を鈍器で殴り殺すレベルだぞ。
ここ数年でキラキラネームが流行っているらしいがまさか同世代にいるとは。可哀想な奴だ。俺なら絶望してニートになっているよ。
「おいおい言ってくれるじゃないの~。これでも俺は気に入ってるんだぞ」
「本人のセンスもクソかよ。ミドルネームにクソ入れて土方クソ芋助に改名しとけ」
「おおっ、名前覚えてもらえて嬉しいぜ!」
ゲラゲラ笑いながらクソセンス野郎は俺の前の席に座る。
今から俺と会話する気満々だ。死ねよ。
「中途半端な時期に転校して大変だな。俺が友達になってやるよ」
「いや結構です」
「そうツンツンすんなよハル~」
陽登どころかハルってあだ名までつけられた。
こいつ、初対面だよな? なんでこんなにグイグイ来るんだよキメェ。
「他の奴はハルのこと警戒してるけど俺は違うぜぇ。優しいだろぉ?」
「優しくもワイルドでもねぇよ。つーかなんで俺は避けられてるの?」
今も周りからコソコソ見られているし。
自己紹介は普通だったはず。変なことはしてねーだろ。
「うーん、ラピュタはあるって信じたいのは分かるけどさすがにないだろ~」
そこかよ。別に本気で信じてねぇよ。ただノリでボケただけだ。
まぁもしラピュタあったら是非行ってそこでニート生活送りたい。さすがに母さんも天空の城までは追って来ないだろう。あらやだラピュタに行きたくなってきた。
「ウッソ~、それは関係ないけどな」
鼻に飛行石ぶち込んでバルス唱えるぞクソ名前野郎。
「ハルって天水さんと知り合いなのか? 仲良さげだったみたいだけど」
「はぁ~? あんなクソ女と仲良いわけない。俺はあいつの使用人ってだけだ」
「それはそれで十分すごいと思うぞ!?」
ん? もしかして雨音お嬢様が関係しているのか?
現在、雨音お嬢様は自分の席に突っ伏して寝……あいつボッチなのかよ!?
「天水さんが誰かに話しかけるの初めて見たよ。いつも不機嫌そうにしているんだ。そんな天水さんと知り合いのハルのことを皆も不思議がっているのさ~」
最後の方は鼻歌交じりに土方はそう言った。とてもご機嫌な様子。
なるほどね、俺が避けられていたのは雨音お嬢様のせいだったか。
あのクソ女のせいで俺は警戒の対象にされた。そーゆーわけだな? うわムカつく。盗撮した写真を校内にバラまいてやりたい。
「まっ、そのうち皆も慣れてくるさ。これから仲良くしようぜハル!」
「嫌だよ」