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第59話 助ける、かもしれない

「お、おはよう火村君」


「おう。俺と付き合ってくれ」


「ごめんなさい」


「その調子だクソボケ」


木下さんの特訓を始めて三日が経った。

最初と比べてかなりはっきり話せるようになっており、今も俺が挨拶からのナチュラルな告白を放ったら一蹴してくれた。中々やるじゃねぇか。フラれた俺はとても傷ついた。


「この調子ならナンパされても大丈夫だな」


「な、ナンパ? そんなことされないと思うけど……」


何言ってんの。寧ろ逆によく今までされなかったなとすら思う。一人で買い物してたのにナンパされなかったのは奇跡だと自覚しなさい。あなたレベルの女なら大学生がワンチャンワンチャン言いながらワンちゃんみたいに駆け寄ってくるぞ。

木下さんは可愛いんだからさ。この言葉が出そうになる。


「されるかもしれないだろ。そういった時もクソボケが!と断るんだぞ」


なんとか飲み込んで別のアドバイスをする。

なんだろうね、安易に可愛いとか言っちゃ駄目な気がする。ラノベの主人公じゃねーんだから。

それに自身の可愛さを自覚して性格悪くなったら最悪だ。

可愛い子の大半は自分が可愛いと自覚しており、故に発言と態度が偉そうなものになる。極端な例が雨音お嬢様だ。あれは酷い。

今の時代こんな純粋で大人しい子そうそういないのだ。今の謙虚な性格のまま、はっきりと喋れるスキルだけ与えたい。


「そういやこの前教えてもらったアプリ、少しやってみたわ」


木下さんに携帯の画面を見せる。数匹の猫が庭にたむろしている画面だ。


「わぁ、良かった。猫可愛いよねっ」


「まー、そこそこ。俺みてーな心の汚い人間は猫がいるなぁとしか感じない」


木下さんにオススメされた猫を集めるだけの緩いゲーム。餌を置くと猫が集まってまったりするのを眺めるだけ。違う意味でヌルゲーだわ。


「お前みたいな心の汚い奴はこれ見て浄化されろって意味で紹介してくれたんだろ?」


「ち、違います。本当に猫がか、可愛くて……」


「ごめんごめん俺も本気では言ってねーよ」


一般人や女子供は猫きゃわいい癒される!とか言ってキュンキュンするかもしれない。だが俺には響きません。

これ見てると田舎のジジババの家を思い出すなぁ……懐かしい。あぁ、あの頃に戻りたい。どうして高校に通って使用人をしているのだろうか。泣ける。ぐすん。


「……あ、あのね火村君」


田舎に初恋メガトン級の思いを馳せていたら木下さんが話しかけてきた。

何気ない会話とかじゃなく、妙に真剣な雰囲気。でもどことなく照れて上ずった声と紅潮した顔。


「も、もし私がナンパされたり変な人に絡まれたら……た、た、助けてくれませんかっ?」


何を言いだすかと思えば、いやあの特訓の意味は? 一人で言えるようになろうとしてる最中でしょが。

木下さんは目をぎゅっと閉じてプルプル震えている。可愛い。これを計算してやっているなら相当の悪女だ。あら怖いー。


助ける、ねぇ……。


「前にも言ったが気分次第だ。その場に俺がいるとは限らないし」


主人公がヒーローみたいに颯爽と現れて不良をボコす? そんな激アツ展開が現実にあるわけねーよ。男が駆けつけた時には手遅れでした、の方がリアルだね。


「……だ、駄目?」


それでも、まぁ、ね。

もしその場にいて木下さんから助けを求められたら、


「分かんねーわ。たぶん助けるんじゃね?」


はっきり助けると言わない自分が誇らしいぜ。さすが俺、やるじゃん。いつかはニート王!

悪いね木下さん、俺はこんな奴なんだ。クズ相手に頼んでも無駄だってことさ。


「うん、ありがとう火村君っ。よろしくお願い、します」


けど木下さんは嬉しそうに安堵した顔でお礼を述べてきた。頭を下げて、信じて頼りすがるように。

……まぁ、あれだな。時計が五の倍数だったら助けてやるよ。そんな感じで。


「あんまし期待するなよ」


俺は木下さんから目を背けて無言のまま猫が集まる画面を眺め続けた。


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