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第54話 イチャイチャと受付

薄給というブラック企業並みの仕打ちを受けた俺のメンタルは崩壊寸前。もらった二万五千円でダイナマイトを購入して屋敷を吹き飛ばしてやろうかと画策するレベル。誰かニトログリセリン売っている場所教えて。マジで。

ただでさえムカついているのに今からお嬢様に付き合わないといけない。イライラは最高潮だ。リアルで額に血管が浮き出ている自信がある。クソが。


「着いたわよ」


電車を降りて駅から少し歩いたところでお嬢様の足は止まる。俺の苛立ちは止まらない。死ねや。天水家に関わる人全員死ね。ライブのモッシュに潰されて死ね。

舌打ち混じりで上を見上げればカラオケと書かれたカラフルな看板。どこにでもありそうな普通のカラオケ屋さんがそこにあった。


「ここがカラオケってやつね……」


強張った顔でピリピリしている雨音お嬢様。胸に手を置いて何度も深呼吸をする。言い換えると、おっぱいに手を置いて喘いでいる。エロく聞こえるよね、誰かティッシュください。

というか、無理矢理連れて来られて今からすることって、


「まさかカラオケしに来たんですか?」


「そ、そうよ。悪い!?」


語気を荒くして俺に噛みついてきた。ちょっと聞いただけじゃん。別に悪くはないし。高校生が遊びに行く場所としては最もポピュラーだと思う。

ただこいつと二人きりかぁ……なんだかなぁ。果たして盛り上がるのだろうか。いささか不安ではある。


「ま、いいか。入りましょう」


「う、うん」


固い表情のまま入店するお嬢様に続く。中に入ればすぐ目の前に受付があり、お姉さんが立っていた。細目で唇が厚い。可愛くない。テンション下がった。こういったちょいブスは厨房に押し込んでおけよ。もっと可愛い子を受付に配置しろ。

チェンジと言いかける口を閉じて受付の前に立つとブスが対応してきた。


「いらっしゃいませ何名様でしょうか?」


「え、えと、えっと、に、二名様よっ」


お嬢様、なぜか声が上ずっている。トーンが二段階程高い。どうした頭おかしいの?

あとクソどーでもいいけど二名様って返しはおかしいからな。クソどーでもいいし、それを指摘する奴はクソだよね。相手に伝わればいいんだよ。お持ち帰りではなく持ち帰りが正しい言い方だからな、と言う奴もクソ。細かいんだよ。

SNSに投稿すれば噛みつかれそうな内容を心の中でツイートしている間に店員が次のマニュアルに移行した。


「会員証はお持ちでしょうか?」


「か、会員証?」


戸惑うお嬢様。恐らくだが、こいつカラオケに来るのが初めてだと見た。

ちょいブスの店員さんに対して言葉に詰まっており、俺の方をチラチラと見てくる。困り果てた瞳は俺に助けを求めていた。了解っす。


「合言葉を言えばいいんですよ。ここの店舗では『ピリカピリララ ポポリナペペルト』です」


とりあえず嘘をついておく。サラッと当然のようにデタラメを吐ける自分がやはり一番のクソだ。うん知ってる。

一般人なら簡単にあしらう嘘だ。だが、もしお嬢様が馬鹿だったらこれを信じて、


「ぴ、ピリカピリララ ポポリナペペルト!」


馬鹿正直に呪文を言うだろう。上ずったまま声高らかに魔法の呪文を唱えた。

っっ、ヤベ、これ超面白い。し、信じるのかよ。こいつ素直過ぎぃ。


「はあ?」


そりゃ店員さんも意味不明だよな。眉間にシワ寄せたブスが不機嫌な顔になっていく。腹を押さえて笑う俺とは対照的に店員は苛立っている。

それを見てお嬢様はさらに狼狽する。焦燥した顔が超面白い。


「え、えっと……な、なんで……?」


「ぶぶっ、アホだ。あぁ、すいません今の嘘です」


「なんで嘘つくのよっ!?」


俺の胸ぐらを掴んでキレるお嬢様。顔がどす赤い。恥かきましたね~、ぶはは。

こちらとしては見事に引っかかって愉快痛快、テストで三点笑顔は満点ですわぁ。あぁストレス発散出来て楽しす~。


「……お客様ぁ?」


「はいはい、会員証は持ってないんで作ります」


キレるお嬢様を横に置き、キレ気味の店員さんに用紙をもらって記入欄を埋めていく。


「お嬢様、何時間にしますか?」


「え、えっと」


またしても困った表情を浮かべるお嬢様。口が開いて目線は泳いでいる。お前さっきから戸惑い過ぎなんだよ。


「とりあえずフリータイムのドリンクバー付きで。あ、学生証持ってまー」


財布から学生証を出して提示する。学生証の俺カックイイ~。目が死んでいるぅ。

確認を終えたブスは学生証を返してくれて雨音お嬢様の方を向く。対してお嬢様は何もせず口をパクパクさせるだけ。ほら早く出せって。


「が、学生証ってどれ?」


「なんで分からないんだよ。ちょっと財布貸せよ」


「か、勝手に見ないでよ」


「別にいいだろうが。ほらこれが学生証だよ。これ出せばいいんだよ」


「わ、分かってるわよ!」


はいはいそうですかさすがですねー。

ちなみにお嬢様の学生証も目が死んでいた。俺達バイトの面接でこの写真使ったら接客業は確実に落ちるよ。社会浮適合者の目をしていた。


「財布返してよっ」


「分かりましたから暴れないでください。字が乱れるだろ」


横でお嬢様がうるさい。可愛らしいピンクの財布を奪い返そうと暴れてくる。別にテメーの財布の中を隅々まで見るつもりはねーよ。だから暴れるな。

あとさ、胸が当たっているぞ。腕にふにゅふにゅと柔らかい感触が伝わってくる。財布を取り返すのに夢中で本人は気づいていないが、俺にかなり密着してきている。誰かティッシュ持ってきてー、俺これでイケるよ。今日のおかずこれに決定。

そして店員さんの目が冷たい。全身から憎悪のオーラが溢れており、お前らイチャイチャしてんじゃねぇ的な目線を感じる。別にイチャイチャしてないです。バカップルを見る目やめてください。


「機種はテキトーに選んでおきますね。ドリング選んでください」


「ど、どれが良いの?」


「テメーの飲みたいやつ選べよ。俺ジンジャエールで」


「ぇ、えっと……わ、私もそれで」


「真似するなよ」


「ま、真似してないもん。偶然だもんっ」


「……伝票ですどうぞ。それでは? どうぞ、ごゆっくり」


「ブスが不機嫌な顔するなよ顔面にミラーボール叩きつけるぞ」


「なんで急に店員さんに喧嘩売るのよ!?」


店員が歯噛みする音を背に俺とお嬢様は店内の奥へと入っていった。


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