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第52話 ネチョネチョのシャープペンシル

「ちゃんと反省しろよー」


「ひ、ひぃ~!」


廊下を走って逃げていく萩生君。

ふぅ、良いことをしたな俺。


「……結局ハルは何をしたの?」


俺が華麗に唾液で解決したのにお前は何を見ていたんだ。

理解しきれていないアホは無視して木下さんの方を見る。


「嫌なら嫌とテメーで言えるようにならないとな」


「ごめんなさい……」


泣き顔で謝ってくる木下さん。潤んだ瞳、下唇を噛んでプルプルと震えている。

目が合うと顔がたちまち赤面。俺の視線から逃れるように頭を深々と下げ、肩から髪がサラッと垂れた。髪サラサラ~。


「謝るなって何度も言ってるだろ」


「は、はい……ごめ」


「だから謝るなよ学習しろ。さもなくばセクハラするぞーっ」


デロデロと舌をうねらせて木下さんに迫る。その綺麗で透き通る白い肌を舐めまわしてやろうか!


「ぁ、あの……」


「ったく、これくらい跳ね除けろ。いつか本当に襲われるぞ」


アンタはお嬢様と違って生意気でもないし、バックが強い金持ちでもない一般人だろ?

普通に可愛いんだから身を守る術と嫌なことは拒絶することを覚えなさい。もしくは彼氏作って守ってもらえ。


「は、は……うん、頑張ってみま、みるねっ」


そうだそうだ、もっとフランクに話してこい。絶妙に汚い言葉で返してやるよボケェ。


「あ、あの、ね? また断れなかったら……助けてくれる?」


小声でボソボソと、両手の指を絡ませてモジモジと。小動物に似た可愛らしさ、そして恐る恐るといった様子で木下さんは俺の目を見る。今度はちゃんと目を合わせてくれた。

また助ける、ねぇ……うーん。


「ま、気が向いたら。木下さんの声小さくて聞こえなかったら無理だな」


「ち、ちゃんと大きな声で呼ぶっ」


「おー、頑張れよ~」


ラノベの主人公ならここで木下さんの頭を撫でて木下さんがボッと顔を赤くしちゃう、みたいな展開になるのだろうけど俺は違う。実際にやったらキモイだろ。注意しようね童貞の諸君。

俺はね、こういう時はゲスに転じるんだわ。ニヤニヤと笑って木下さんの体を上から下へと舐めまわすようにねっとり観察する。

制服の上だとボディラインがよく分からないがきっと服の下は穢れない美しい肢体が……げへへ、想像しただけで唾液が出てくるぜ。じゃあ今からはお礼をいただきましょうかね~。まずはお胸を、


「ちょ、ハル!?」


ちっ、またお前か。俺の邪魔ばかりしやがって。片栗粉まぶして油で揚げてゴミ箱に捨てるぞクソポテト。

俺は不機嫌な顔で睨んだが芋助は見てくれず耳元で囁いてきた。ウゼェ。


「い、いつの間に木下さんと仲良くなったんだよ?」


「仲良くぅ? 普通に話してるだけだろ」


「その普通ってのがすごいんだ。相手は木下さんだよ。俺なんて入学当初話しかけたら泣かれたんだぞ!」


訴えてくる芋助は涙目。

自身のブサイクっぷりを恨め。俺が女だったらお前とだけは話さないわ。女子ネットワークで「あのジャガイモ超キモイんですけどー」と流して女子全員でお前の存在を潰してやるよ。


「待て、待ってくれハル……常にATフィールド全開、最強拒絶タイプの天水さん。女子校出身で男は大の苦手、下手に近づくと泣かせてしまう小動物クイーンの木下さん。我がクラスにおける二大可愛い&難攻不落の二人と仲良くなっている、ハル!」


あ、呼んだ?


「中途半端な時期に入学してきた分際のくせにどうして大人気女子とお知り合いなんだ貴様ぁ!」


「知るかよいちいち騒ぐな。俺もう帰るわ」


うるさいので芋助は無視に限る。じゃあな。

それと、


「またな木下さん。メンタル鍛えろよー」


「う、うん、またね」


そういえばお嬢様を待たせていたな。あの人ぜってー怒っているだろうなー。






「遅い! 何してたのよ!」


ほらね、だと思った。車の中に入れば怒り心頭の雨音お嬢様が耳元で叫んでくる。

芋助の次はお前か。耳元でぎゃあぎゃあ騒ぐな軽く死ね。


「それが代わりに忘れ物を取ってきた者に対する態度か。少しは褒めてくれよ」


「遅過ぎるのよっ、この馬鹿陽登」


ちょっとしたハプニングがあったんですって。教室で告白ですよ胸熱ですよ?

それにちゃんと取ってきたのだから……あっ、そういえば、


「えっと、筆箱だけど……そ、そのさー」


お嬢様に差し出す筆箱、そして唾液でねちょねちょしたシャープペンシル。

唾液のついていない部分を指で持ってお嬢様に見せる。当然、お嬢様の顔は険しい。


「……何よこれ」


「いや違うんです。俺が取り行った時には……」


待て、冷静に考えろ陽登。言い訳は出来る。が、それを言って良いのか?

俺が取り行った時には誰かがしゃぶった後でした、と言えばお嬢様はキレて本当に捜査しかねない。

確かにシャーペンをしゃぶったとはいえ、強引に押し込まれただけのほぼ無罪の萩生君が天水家によって抹殺される可能性がある。それはさすがに可哀想だ。


「何よ、このシャーペンは何!?」


仕方ない。奴の命を助ける為にもここは俺が罪を背負ってやるか。

元々は俺が原因だし……はぁ、嫌だけど。意を決して俺は口を開く。


「すいません雨音お嬢様。俺が舐めました」


「はぁ!?」


「いや、えっと、なんでしょうね……あ~、お嬢様の筆記用具だと思うと沸き立つ興奮と背徳感に圧されてペロペロしましたテヘペロ」


「アンタ本気で何言ってるの!?」


お嬢様が激怒した。そりゃそうだ。

でも俺が舐めたことにしないと萩生君が殺されてしまう。殺されなくても彼の平穏な学校生活は終焉を迎えてしまうことは間違いない。俺が舐めたことにしておくのがベストだ。


「陽登……アンタって奴は……!」


今までも散々やらかしてきたが今回もお嬢様は大怒りだ。

とりま一生懸命謝っておこう。車内で出来る限り頭を下げて許しを請う。座席のシートに頭を擦りつけていくぅー。


「いや自分でもビックリなんですよ。それだけお嬢様の筆記用具には魅力があるというか」


「……そうなの?」


怒っていると思いきや、まさかの反応が返ってきた。

え……何、そのリアクション。急にしおらしくなり、照れた様子で俺とシャーペンをチラチラ見ている。


「ま、まぁね。この可愛い私だもの、陽登がそうなるのは無理ないわねっ」


これは勝機。照れながら、そして自慢げにふんぞり返っているではないか。こいつも馬鹿だったか。そんなポジティブな捉え方が出来る自信と自惚れはどうかしてるぞ。この精神異常者が。

だがチャンスなのには変わりない。ここで攻めよう。俺の語気に強さが増す。


「そうなんです、お嬢様のシャーペンがどうしても……! 本当にすいません!」


「仕方ないわね~、ホント陽登は変態なんだから~!」


あ? 変態ではねーよふざけんな性格ブス。

と言いたいが、ここは……ぐっ、大人しく謝っておこう。すげー嫌だけど。


「申し訳ありません、俺が変態なせいでお嬢様のシャープペンシルが汚れてしまって」


「しょうがないわね……そ、その、まぁ陽登が舐めたやつなら別にいいけど……」


シャープペンシルは一応拭いておく。それを持ってお嬢様は照れた顔。

言えない、それ俺じゃない奴がしゃぶったとは今更言えない。

まっ、言う気はないし黙っているんですけどね。


「ふふん、陽登の変態」


「おっしゃる通りですー」


機嫌を直してくれたお嬢様にもう一度詫びを入れて車内の空気は平穏に満ちる。

おいバキューム君、俺に感謝しろよ。そう思いながら機嫌良くシャーペンを仕舞うお嬢様を鼻で笑っている俺であった。


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