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第50話 肩パンには屈しない

本日の授業も終わった。つまり、すぐに帰宅する。当たり前だよなぁ。


「それでね、皆ったら私の弁当をジロジロ見てくるのよ。ホント庶民って感じ」


「そうですか」


「それに英語の小テストだって私が一番点数高かったんだからねっ。やっぱり私って頭良いのよ」


駐車場へと向かう道、お嬢様の話が止まらない。

昼休みにクラスメイトと飯食った話や授業で行われたテストの話を自慢げにしている。嫌味と生意気な内容だが話し手の口調はとても楽しげだ。脱ぼっち出来たのが余程嬉しいのだろう。はいはい良かったね。


「ちょっと陽登聞いてるのっ?」


お嬢様は肩で俺に体当たりしながら不満げな声を上げる。

だからなんで俺がいちいち相槌を打たなくてはならないんだ。めんどくせーんだよ。使用人以外にも聞き役ってジョブの人間雇えよ。金はあるんだからさ。

俺が聞いていますと返事をすればお嬢様の高飛車な自慢トークが再開する。


「品位の低い庶民と話すのは疲れるけどまぁ暇を潰すには丁度良いわね」


「そうやって仲良くなるチャンスも潰してろクソが」


「は? なんか言った?」


「はい素晴らしいですねと言いました」


「聞き間違いの範囲を超越しているんだけど」


「Soですねっ!」


「なんでここでキレキレの返しするのよ!?」


お嬢様のツッコミもキレキレですね。

テキトーに話しているうちに駐車場へ着いた。既に待機している車と最近負けが続いている運転手さん。甘デジを打てばいいのに。デカイ一発当てようってのが駄目なんすよ。

勝とうと思って打つから負けるんだ。田舎の爺さんがそんなことをよく言っていた。ジジイ昔はパチンカスだった説。爺さんもカスだったのか。やはり血は争えない。


「あ」


扉を開けてお嬢様が乗り込むのを待っているのにピタッと止まるお嬢様。少し待つが、乗車しようとしない。

おいどうした早く入れよ。俺は夕方のニュース番組観たいんだ。アナウンサー可愛いから。あれだけで観る価値がある。やべっちFCも然り。


「教室に筆箱忘れてきちゃった」


「別に筆箱ぐらい置いて帰ってもいいだろ」


屋敷に筆記用具はあるだろうしそもそも自宅学習なんてクソ食らえだ。


「駄目よ。陽登みたいな変態が筆箱盗むかもしれないじゃない」


サラッと俺を変態のカテゴリーに入れないでください。いや確かに変態的行動はしてきたけどさ。


「盗まれてもいいだろ。金持ちなんだからまた買えよ」


「そうじゃない。私、可愛いから変態に筆箱の匂いを嗅がれるかもしれないじゃない」


自分のことを可愛いとか言う奴にろくな奴はいねぇ。あらゆる人間がこれを熱弁してきたが今俺にも分かった、その通りだよ皆さん。

呆れつつ、仕方ないことよね的な優越感にも似た微笑でお嬢様は溜め息を漏らす。自分の容姿に自信を持った故の発言だった。


「自惚れんな。誰もお前の筆箱の匂い嗅がねーよ」


「世の中に陽登以上の変態がいてもおかしくないし不安なのよ」


だから俺を変態扱いするな。そして俺を変態のアベレージにするな。なんかすっげぇムカつく。


「あと別に自惚れてないわ。私、可愛いでしょ?」


「いや全然これっぽっちも。悟飯にデレるピッコロさんの方がまだ可愛いわ」


「はぁ? 意味分かんない」


単行本読めよクソが。


「よく知らないけど私が可愛くないって言いたいのっ?」


詰め寄ってくるお嬢様。パッチリとした大きな黒目が俺を捉えて離さない。横から吹く風に少し流される黒髪が頬にかかって思わず見てしまう。健康的な白さの肌、整った小さな鼻、潤いあるピンク色の唇。誰がどう見ても、俺から見ても……


「はぁ……早く乗れよ。いつまでこうして言い合うつもり?」


お嬢様から目を背ける。自分の鼓動が少し早くなっているのが分かるし、今こいつに見惚れていたのも自覚している。だからこそ、落ち着け俺。テメーは女子一人にドキドキするようなキャラじゃない。さぁ脳よ、クズ濃度を上げろ。クズ作用を促進させるホルモン的なのを分泌させるんだ。

気持ちが落ち着き、再びお嬢様と目を合わせる。もう大丈夫だ。


「それにお前みてーなクソ性格悪い奴は可愛いとは真逆の存在なの。可愛いの対義は知ってるか、うんこだようんこ」


「いや違うでしょ」


「うんこのお前のクソ臭い筆箱なんて誰も盗まないし嗅がない。安心して放置して帰ろうぜ。明日ハエが群がっている程度だよ」


「やっぱりアンタ失礼過ぎるよね。アンタは使用人よ! 分かる!?」


「Soですね!」


「ぎいぃぃムカつくぅ!」


はっはっは、そうだおおいに苛立つがいい。そして俺を恨め、それが俺が生きる糧となーる。

歯噛みして、威嚇する猫のようにこっちを睨んでくるお嬢様の気性はさらに荒くなってきた。わなわなと髪の毛先が揺れている。アシタカみたいナウシカみたい。ジブリ髪になっているぞ。


「とにかく! 筆箱は持って帰りたいの!」


「はいはい分かりました。じゃあ待っているんで取り行ってこいです」


俺はその間に運転手さんとパチンコの話でもしているよ。


「何言ってるのよ。陽登が取り行きなさい」


あ゛?

何言ってんのこいつ?


「いやいや、テメーの忘れ物なんだからテメーが取り行けよ」


「陽登は私の使用人よ。下僕ってこと。アンタが取り行きなさい」


あ、ヤバイ俺キレそうこいつぶん殴りたい。

こ、の、クソ生意気女が。なんで俺がお前の忘れ物を取りに行かなくてはならんのだ。お前のミスだろうがお前行けや。


「これは命令よ。主人の言うことが聞けないの?」


偉そうに言葉ぶつけてくるお嬢様。当然でしょ私が全て正しい、みたいな態度しやがって。

両手を腰に当てて踏ん反り返ってお嬢様の催促が始まる。


「早く行きなさいよ」


「嫌です」


モチのロン、拒絶させてもらいます。ふざけんなぜってー行かない。

俺が即座に拒否すれば、即座にお嬢様の顔が不機嫌なものに変わった。


「は? 行きなさいってば」


「嫌だってばよ」


「……」


お嬢様が俺の肩を叩いてくる。肩パンってやつだ。

だがその程度で屈しない。俺は微動だにせず車のドアを開けたままお嬢様をガンつける。


「……行ってきなさい」


「嫌です」


肩パン、これで二発目。

だがその程度では屈しない。硬直したままお嬢様を睨みつける。


「いい? 私は主人、アンタは使用人。主人の命令は絶対よ分かる?」


「はあ、そうなんですか」


「命令するわ。私の筆箱を取ってきなさい」


「嫌です」


「……」


三度目の正直パンチが俺の肩を襲う。

だがその程度では屈しない。俺は頑なにノーを貫き通す!


「……あのね」


「嫌です」


「何なのホント!? 普通折れるでしょ、なんで行かないのよ!?」


ついにお嬢様がブチギレた。

ぎゃあぎゃあと騒いで俺を殴ってくる。ふえぇぇ暴力反対だよぉ。


「お嬢様、失礼を承知で言います。俺は、絶対、行かへん!」


「なんでこういう時だけ言葉に力強さがあるのよ!」


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