第5話 一日目・ガチガチのパズー
「初めまして。あなたが今日から入学する火村陽登君ね」
職員室にて担任の教師と対面。
おー、おばさんタイプの先生か。良い塩梅だな。ここでの良い塩梅とは年齢のことを指す。
四十代半ばってところか。あだ名はババア直前にしよう。よろしくなババア直前。
「君のお母さんから話は聞いているわ。一年間何もしてなかったと」
「空白の一年間って言うとカッコ良く聞こえますよね」
「……とりあえずよろしくね。ああ、木下さん。プリントはそこの机に置いて」
俺の横に女子生徒が現れ、あ、さっきの人だ。
職員室の前まで案内してもらって、その後荷物を返して俺は先に職員室の中に入った。また会うとは奇遇ですね。まぁ会うよね。目的地同じだもの。
「あとそっちのプリントは朝の小テストの分ね。先に持っていって小テスト始めていてください」
「分かりました。……あっ」
「よーっす」
目が合うと女子生徒はペコリと頭を下げてきた。
さっき運んでもらったことへの感謝ってやつか? 気にすんなよお互い様だ。
「あら、木下さんと知り合いなの?」
「いえさっき会ったばかりです。Ⅷで言うとスコールとセルフィみたいな感じです」
「何を言ってるのか分からないけどとりあえず火村君は今日から一年A組の一員よ。分からないことあったら木下さんに聞いてね。同じクラスだから」
「ご高配あじゃさすー」
その後、ババア直前に校内を軽く案内された。体育館の場所や学年ごとの階、主な移動教室の場所等。
そして現在、一年A組の教室の前に立っている。
「おー、廊下にロッカーあるんですね」
「今更だけど火村君はどうして鞄を二つ持っているの?」
「一つ失くしても大丈夫なようにです」
「なるほど理由になってないね」
そういえばお嬢様に鞄返してなかったな。あの人がどのクラスか分かんねー。まぁいいや。
どうでもいいけど二個も鞄あるとなんか完璧って感じがするわ。今ならなんでも出せそう。食パンやりんごも出せる気分。パズーの気持ち。
「それじゃあ中に入りますね。緊張する?」
「わぁ、パズーの鞄って魔法の鞄みたいね」
「大丈夫そうね」
担任と一緒に教室の中へと入っていく。
うーん、特にこれといって特徴のないクラスだな。今日からここで過ごすのか……あぁ、嫌になってきた。だりー。
「はい小テスト回収します。それと新しいクラスメイトを紹介をするわ。火村君、自己紹介して」
「は、初めませぇて火村でふ」
「ガチガチじゃねーかパズー!」
い、いやだってこんな大勢の前に立つなんて久しぶりだから……。
後ろからプリントを回しながら皆の注目は俺に向けられる。やめて、そんな興味ありげな瞳で見つめないで。恥ずかしい。
……ん?
何か、すげー睨んでくる奴がいるんだが……。
と思ったら雨音お嬢様だった。
おいおい? 何あの人、俺をめちゃくちゃ睨んでいるんだけど!?
あ、黙って消えたことを怒っているの? そんなに怒ることかよ。つーか同じクラスかよ。さらに憂鬱になったわ。
「ほらもう一回。自己紹介」
「あー、火村陽登と言います。諸事情により入学が遅れましたが仲良くしてください。ちなみにラピュタは実在すると信じてる派です」
「最後の補足いる? じゃあ質問は休み時間にね。火村君の席は……木下さんの横が空いてるわね」
担任の指差す方向にラピュタ、じゃなくて誰も座っていない席があった。
その隣の席には先程の女子生徒。お、またしても会ったな。
「さっきはありがとな」
「い、いえ、こ、こちらこそ……」
目線があっちこっちに流れておどおどしているが返事は返ってきた。
まさかクラスメイトの人とは思わなかったぜ。俺らってなんか良い感じだよね。これはもう運命、って痛ぁ!?
「火村! この馬鹿! 鞄持って勝手にどこか行かないでよ!」
頭を叩かれた。人が和んでいたのになんてことしやがる。
文句を言おうとした、が……振り向いた先に立つお嬢様はとてつもなく怒り狂っていた。髪の毛先が蛇の如く荒れ狂っている!?
「アンタが私の鞄持っていったせいで小テストの勉強出来なかったじゃない! どうしてくれるのよ」
「はあ? んなこと知るかよ。人に鞄持たせておいてその態度はおかしいだろ。小テスト受ける前に常識受け止めろ馬鹿」
「黙れ! 使用人のくせして私に刃向かうなっ」
激昂するお嬢様。怒り爆発だ。
荒れまくりだな。どうどう落ち着け、深呼吸しましょ。
はあ……まだ授業前なのに、俺のテンションはゼロどころかマイナスに振り切った。
今日から高校生、一年ぶりの学生生活だ。
「無視するな!」
もうお家に帰りたいです。