第4話 一日目・いざ高校へ
お嬢様と二人、車の後部座席に乗っている。向かう先は高校。
わー、高校だー。楽しみだなー。
「このエロ猿」
「猿じゃないですお嬢様」
「うるさい! 人が寝ている時に襲おうとするなんて……最低っ」
俺の左頬はおもっくそ腫れ上がっています。
この女、全力でビンタしやがった。歯が折れたらどうするつもりだ。
……まぁ俺が全面的に悪いんですけどね。
あと一歩のところでお嬢様は目を覚まし、俺はビンタで吹き飛ばされた。
駆けつけてくるメイドさんに事情、もとい俺の盗撮行為及びモミモミ未遂がバレて危うくクビになるところだった。
が、登校時間も迫ってきているし、この件は学校が終わってから話し合おうと保留になった。
ん~、やらかしてしまったな。母さんにバレたら俺殺される。
勤務初日の初仕事でなんてことをしてしまったのだ俺は。
自分の理性の弱さに嘆く。だがそれ以上に悔しい。写真は後回しにするべきだった……さっさと揉んでおけば……ああ、あの巨乳ぜってー最高だったよ触ったら。めちゃくちゃ悔しいよ俺ぇ……!
「はぁ~……ふざけんなよ」
「なんでアンタの方がキレてるのよ!」
再びビンタされる。痛い痛い。
「さっきも言ったが、俺は指一本触れていねー。だからお前はそこまで怒らなくてもいい。寧ろ触れなかった俺の方が可哀想だろうが」
「何よその最低な言い分は!」
「最低? 褒め言葉っすか、いやぁ照れちゃうなぁ」
「褒めてないわよ!」
お嬢様がブチギレた。鋭利な目で俺を睨み、歯噛みする。
「なんでこんな下衆野郎が使用人に……!」
「お、高校ってあれか?」
「無視するなっ!」
暴れるなよヒステリックお嬢様。
いやいや、発言こそ余裕ぶっこいている俺だけどさ、内心ビクビクだからね? お前にキレられるのはどうでもいいが、母さんを怒らせると……。
「俺、殺されるかもしれません」
「ええ殺してあげるわ。火村の殺し方は帰ってから決めるわ。今は登校しましょ」
「そっすか。今のうちに遺影を決めておきますわ」
スマホの写真フォルダを厳選。よし、頭側から撮ったこの巨乳にしよう。谷間がエロイ。これ俺の遺影にしてくれと遺言を書いておこう。
等と考えていると車が停まった。
外を見る。遠くの門でたくさんの生徒が歩いていた。
ん? ああ、降りていいの?
「アンタ、私の下僕でしょ。早くドア開けなさいよ」
えー、そんなことも俺がするの? てか下僕じゃなくて使用人です。使用人も認めてねーけど。
反論したいが雨音お嬢様の目が怖いので大人しく従っておこう。
先に降りてドアを開けて待つ。
ふん、と鼻を鳴らしながら不機嫌そうに雨音お嬢様が出てきた。途端に鞄を押しつけられた。
「まさか俺に持てと?」
「まさか持たないと?」
いや持たせていただきます。だからその今すぐ殺してやろうかと言う目をしないでください。
二人分の鞄を持ってお嬢様の後をついていく。
……ここが俺の通う高校か。あとなぜか俺も高校に通うことになっているのは誠に遺憾である。単純に考えて高校生と使用人を兼業しろってこと? ファックだな。母さんの仕業か知らんがいつの間にか入学の手続きしやがって。マジファック。
「ほら早く着いて来なさい。今日は朝から小テストあるから勉強したいのよ」
「へーい」
「ちゃんと返事しなさい」
「しょうへーい」
「悪化してるんだけど!?」
さっきからブーブーうるせー。
校舎の中へと入っていき、廊下を歩く。
なんとも立派な校舎だ。床も壁も白く綺麗でとても清潔感ある校内。生徒や清掃員がちゃんと掃除しているみたいだな。労働乙、と。
あ、そういや俺は職員室に行かなくちゃいけないんだったか。
担任と学年主任に挨拶してこいと母さんに言われていたのを思い出した。
「一ついいすか?」
「うるさい黙って歩きなさい」
あ、こいつ話聞いてくれない。さっきの笑瓶のボケが気に食わなかったのかな?
まぁいいや。勝手に行こう。
俺は音をけし、しれ~っと近くの階段を降りていく。すると雨音お嬢様は一人勝手に廊下を進んでいく。
おほほぉ、意外と気づかれないものだ。悪いけど俺は職員室寄っていくので先に行ってください。一人になって廊下を歩いていく。
「さてと、帰るか」
あ、俺すげーな。ナチュラルに帰ると呟いてしまった。
これぞニート精神。面倒なことはしたくないってのが滲み出てるよね。ニート王の資質が出てるぜ。
そうしたいのは山々だがさすがにそれは無理か。
帰る場所がないし、田舎へ戻る為の金も持っていない。ここでバックれるのは後々のことを考えると利口ではない。大人しく職員室探そう。
「テキトーにそこら辺の生徒に聞いて……お、あいつにするか」
フラフラ歩いていると前方に女子生徒を発見。
何やら大量のプリントや本を抱えている。はいはい労働乙です。
「すいませーん。職員室ってどこ?」
「え、あ、あの……は、はい」
抱えている荷物で顔はよく見えなかったが近くまで来ると、あらら可愛い子ですね。
ボブカットの黒髪はふんわりと柔らかい雰囲気を持ち、程良く整ったぱっつんの前髪もグッドだ。少し地味だが素材は良い。
小顔にパッチリとしたお目々、おどおどしていて大人しそうな感じの女子生徒だった。
「し、職員室なら、い、今から行くところです……」
「丁度良い。案内してもらってもいい? つーか勝手に後ろから着いて行くわ」
女子生徒の許可は取らず代わりに行け行けと手を振る。とても態度が悪い。さすが俺。
「え、えっと……わ、分かりました」
俺の大雑把な態度にも女子生徒は嫌がらず、おどおどとしながら歩き出す。
……なんか俺、ガラの悪い奴に思われている?
小動物のようにビクビクしている女子生徒に対して酷い態度。
朝の過ちもあってか、なんか良い行動を取りたくなった。ニート王失格だがここは良心に身を委ねるか。
「その荷物持つよ」
「え? い、いえ、そんな……」
「気にすんな。案内してもらうお礼と思ってさ。ほら早くしろよ」
おどおど拒否してくるので強引にプリントの山を奪う。これはこれで最低? 知らんがな。
「人の厚意はありがたく受け取るのがマナーなんだぞ。さ、職員室まで案内よろしくー」
「は、はい。あの……ありがとうご、ざいます」
「任せろボケコラァ」