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第39話 お嬢様は拒絶する

さて、今日も日中拘束連続座学時間の始まりだ。なんか漢文みてーになったな。

義務教育はまだしも高校の授業なんて必要ないと思う。特に数学と化学、テメーらは消えろ。保健体育、もっと増えろ。保健体育の実技がしたい。美人の保健医に避妊具のつけ方を教わりたいよね。頬を赤らめて「あっ、あっ、あっ」と儚く辛そうだけど快楽に浸った喘ぎ声を出してみたい。うわわ俺ちょーキモイ。


「おはにょーハル君」


「黙ってろカスがあぁぁぁ!」


「ぺにしりん!?」


話しかけてきた不快極まりない芋野郎に全力でビンタして吹き飛ばす。土方死ねコラァ!


「ひ、酷過ぎる……」


「喋んなクソ芋。大人しく皮剥きされるのを待ってろ」


「お、俺はちゃんと剥けてるぞ!」


そっちの皮じゃねーよ。下ネタやめろ。下ネタ言う奴はくたばればいいと思う。華麗なブーメラン。

お前のペニシリンが剥けているとか世界トップクラスでどうでもいい。イマイチ理解出来ない人はシリンをスに置き換えて読んでみよう。


「なぁハル、俺の悩みを聞いてくれ」


勝手に喋るな。殴られた直後だってのに何を普通にトークしようとしてやがる。

立ち直りが速過ぎるわ。そのメンタルの強さは就活や面接で活用出来そう。俺はニートになるから労働はお前に任せた。


「高校生になり、既に五月だ。一通り可愛い子はチェックし終えたんだが」


芋助はナチュラルに俺の机に座る。これまた不快極まりない。どうしてこいつは俺の怒りを煽る行為を平然とするんだ。

俺は優しいから一発ぶん殴るだけで済ませているが人によってはこうはいかない。特に殴りはしないけど心の中で悪態をつくだろう。

……おぉ、俺の方がタチ悪いねテヘペロ!


「なぜ誰も俺に話しかけてこないのだろうか……?」


小首を傾げて不思議そうに溜め息を吐く。

いやいや何その悩み、クソどーでもいいし当然のことだろ。

俺が女だったら芋助は最も話しかけたくない男子だよ。名前ありえないんですけどーキモイと言って三年間一度も近寄らないわ。


「ハル、どうしてだと思う?」


「例えば道にうんこが落ちていたとしよう。当然うんこを避けて通るよな」


「ま、まぁな」


「そーゆーことだよ」


「え……い、いや俺うんこではないよ!?」


声を荒げる芋助。朝から大声でうんこと叫ぶ、それが女子から嫌われる要因の一つだと思うよ。

納得がいかないのか芋助は机から降りて俺の肩を揺すり始める。


「女子からしたら俺はうんこだと言いたいのか! 違うぞ、俺は芋だ!」


「あぁもう芋でもうんこでもどっちでもいいわ。道にジャガイモ落ちていたら避けるだろ」


「いやうんこは避けても芋だったら『おっ、ちょっと壁に叩きつけてみるか』となって拾うかもしれないだろ」


「ならねーよゴリラがうんこ投げる時と同じ心情か」


「さっきから俺らうんこしか言ってねーよー!」


「うんこと叫んで何が悪い。恥じることはないぞ! さぁ皆も一緒に。エビバディセイうんこ!」


「土方君と火村君、静かにしなさい。つーかお前ら二度と喋るな廊下に立ってろ」


担任の先生に怒られた。

そういや今はホームルームだったよ。教壇の前にはババア直前。

芋助と二人仲良く、一限目が始まる前から廊下に立つことになった。






英語の授業、生意気な男性教師が偉そうに喋っている。


「昨日渡した課題の長文プリントだが、近くの奴と訳し合ってみろ」


うるせーなークソ公務員が。長文プリントとか宿題にするなよ。

絶対にありえないが、俺が大学に進学して教員免許を修めて高校教師になったとしたら、俺はこんなダルイ宿題はやらせない。教員と生徒双方がしんどいだけじゃん。まぁ教員になるつもりも大学に行く気も一切ないけどな。


「お互いの訳で違う箇所は随時辞書で調べろ。少し席を外すがしっかりやるように」


そう言って英語教師は教室から退出。静かだった教室内が少しずつ騒がしくなってきた。二、三人のグループを作ってワイワイと賑やかにノートを開くクラスメイト達。おまいら呑気か。

プリント取りに行くとか言って煙草吸いに行ったんじゃねーのかあの教員。


「火村」


何にせよ教師が出て行ったのはナイスだ。誰が真面目に指示されたことするかよバーカ。

サボれる時にサボる、当然だよね。クラスメイト共は無垢過ぎるんだよ。一歳年上の余裕ってのを見せてやるぜ。


「ねぇってば」


どうして宿題を出すんだろうね。テメーのする授業内でなんとかならないのかよ。

復習するのが大切なこと? そんなこと言ってお前ら教師は予習が大事、授業が大事、受験が大事、今が大事、となんでもかんでも大事のカテゴリーに入れているだけだ。ふざけるな、この世で最も大切なものは予習でも復習でもない。

それは、愛だよ。愛こそ地球を救う。愛こそ大事。


「おい火村」


「アイ、ウォント、ラブ~」


「……」


頭が痛い。正確にはうなじの上、後頭部が痛い。

痛みと音で分かる、誰か叩いてきたのだと。


「なーにしやがるんですか雨音お嬢様」


そしてこの教室で俺を殴る奴と言えば雨音お嬢様が最もありえる。対抗で芋助、大穴で木下さん。

あのさぁ、なんでお前は叩いてくるわけ? 暴力で意思疎通を図れると思っているのか。コミュニケーション能力低過ぎるんだよシーマンやって出直してこい。


「アンタが無視するからでしょ」


「無視したつもりはないっす。お嬢様の声は徹底的に遮断しているだけです」


「余計にタチ悪いんだけど!?」


ところでなぜ椅子を持ってきているの? またプロレスみたく俺の脳天に叩きつけるつもりかな。ですから暴力で意思疎通は出来ないってば。


「……ふん、早くプリント出しなさいよ」


俺の机の横に椅子を置き、偉そうな態度で座ったお嬢様はこちらを睨む。

パッチリした瞳は不満げにキツくなるがそれでもキラキラと綺麗。あぁんマゾになるぅ。

もしかして俺と一緒に長文の訳を言い合うつもりです?

直後、体が拒絶信号を出す。


「嫌です。したくないです」


「うるさい私に逆らうな。早くしろ」


どうですかこの態度、最高にムカつきません?

ムカつくが反論したところで殴られるだけならば素直に従った方が賢い。

諦めてプリントを出す。英文の下に手書きで『ここだけの話、ボブはボブではない』と書かれてあった。

昨日の俺は何をどう訳したのだろうか。自分でも不思議だ。


「この私と一緒に英訳出来ることに感謝しなさい」


何そのありがた迷惑。別にお前と勉強したくねーよ。

保健体育の実技なら話は別だが。寝ていて覚えていないだろうけど朝お前の足を撫でまくってやったからな。堪能したからな俺。


「ねーねー、私達も加わっていい?」


面倒くさいが作業に移るかー、といったところで女子二人がやって来た。

名前は知らないがクラスメイトの女子。

なんてことだ、女子に話しかけられた。入学してから話した女の子なんてお嬢様と木下さんしかいない俺に新たな出会いが始まろうとしているのかっ。


「実は火村君と話してみたかったのー」


「うんうん」


女子二人はキャピキャピと話しかけてくる。いかにもって感じの女子高生のノリだ。なんかキャピキャピって表現がピッタリ当てはまる気がする。

あらゆるコンテンツで需要のある名高いJKが俺に興味を持っている……。

こ、これはモテ期というやつではないか?

入学して一週間、やっと俺の魅力に気づいた奴が現れたようだ。

しょーがねーなー、一緒に英訳しようぜっ。まぁ俺が訳してきたのは『ここだけの話、ボブはボブではない』だけだけど。


「俺で良かったら全然構わないぞ」


「やったー。えっと……て、天水さんもいいかな?」


「消えて」




空気が固まった。

女子二人の顔は強張り、和やかなムードは一瞬にして崩壊した。

何気ない会話、気さくに返事をして英訳をする流れだったのを、たった一言でいとも容易く壊したのだ。

このお嬢様は何を言っているんだ……!?


「ぇ、その……あ、あははー……駄目、かな?」


女子二人のうち一人がなんとかして声を絞り出す。

無理して笑い、必死に言葉を吐き出しているのが分かる。


「馴れ馴れしく喋りかけないで。アンタらなんか知らない。どっか行け」


それでもお嬢様は何一つ変わらない。淡々と、冷たい言葉を投げつける。

拒絶するように、壁を作るどころか壁を押しつけて相手を潰すかのように。

艶のある唇、パッチリとした瞳、きめ細かな白い肌、上品で美しいお嬢様の容姿が表していたのは、不快感だった。女子生徒二人を睨む目は黒く、紡ぐ言葉は刺々しく、恐怖すら感じる程の冷淡な態度。


「ご……ごめんね」


「っ、じ、じゃあね火村君」


固まっていた二人はそそくさと俺の席から離れていった。

あんなこと言われたらそういう反応になるわな。怒らなかっただけ大人だよ。


……それにしても、こいつ、


「ふん。さっさと始めるわよ」


この態度は何だ。お前、今自分が何を言ったか分かっているのか。

ろくに訳していないプリントを丸め、机に叩きつけて俺はお嬢様を睨む。


「何してるのよ馬鹿火村」


「馬鹿はお前だ。おい、せっかく話しかけてくれたクラスメイトに今の言い方はないだろ」


と、い、う、かー!


「俺に話しかけてくれた女子になんつーこと言いやがる。あの子達は、俺を、誘ってくれたんだぞ! お前が拒否するのはおかしいだろ」


俺のモテ期を返せ。あそこから連絡先聞いたり放課後一緒に寄り道したり気づけば恋人になっていた。そんな無限の可能性があったんだぞ。


「ウザイ。あんなのと話す義理はないわ。本当ウザイ」


「あぁ? いい加減にしろよクソお嬢様。ウザイのはどっちだ。テメーの方がキモくてウザイわ」


「は?」


ワガママで高飛車で自分勝手のクソ野郎。お前に他人を気にかける優しさはねーのか。

ボッチでいるのはいいさ、俺だってお前に無理に友達作らせようとは微塵も思っちゃいない。

だけどな、せっかく話しかけてくれた人に向けて放つ言葉じゃなかっただろうが。


「アンタもウザイ。使用人のくせに逆らうつもり?」


「黙ってろカス。ボッチは一人で訳してろ。俺は謝ってくる」


「は? 待ちなさいよ」


誰が待つかボケェ。席を立ち、先程の二人がいる席へと向かう。

後ろからお嬢様がうるさいので唾を吐き飛ばして牽制する。ペッペッ!


「汚っ、何するのよ!?」


汚いのはお前の心だよ。一生一人でそうやってろ。

今朝、安らかな寝顔で眠るこいつが可愛いと思った自分が腹立たしい。

俺を超えるクズがいたとはね。でもなんだろう、全然嬉しくない。


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