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第38話 眠り姫

優雅に朝食を食べる。それはそれは優雅で気品良く、大抵の女なら濡れるくらい美しく食べている。


「陽登君、黄身が服に落ちていますよー」


「すいません」


トーストの上に目玉焼きを乗せてパズー食べをしていたらメイドさんに注意された。やっぱ半熟じゃこの食べ方は難しいな。固めに焼いてもらわなければ。

制服を拭きつつホットミルクを飲む。


「ほらお嬢様も。陽登君みたいにダラダラしないでください」


俺みたいってワードいるか? 悪い見本に俺を使うのやめてください。


「ん~……」


向かいの席に座るお嬢様。とても眠たそうだ。目は開いておらず、うにゃうにゃと意味不明な返事をしている。

可愛い、けど違う。騙されないぞ。お前違う。オマエ、チガウ。


「お嬢様、一緒にパズーの食べ方しましょう」


「んん、眠いの……」


「陽登君、お嬢様に下品な食べ方を教えないでください」


あ? んだとパズー馬鹿にする気か。

これこそ最高の食べ方だろ。ラピュタの正当なる王位継承者リュシータ王女だってこれで食べたんだぞ。


「もう学校に行く時間です。いい加減目を覚ましてください」


「ククク、覚醒めろ我が主よ」


「陽登君は悪ふざけしないで」


朝食を終えて身支度。

歯を磨いていると横の廊下をメイドさんに支えられてお嬢様が通った。

あいつ大丈夫かよ。寝不足か?


恐らく徹夜でぼきぼきメモリアルに没頭したのだろう。

エロシーンがあるとはいえお嬢様はゲームシステムと内容をえらく気に入っていた。馬鹿だから朝までやっていた可能性すらある。馬鹿だから。

あのゲームのどこが良いのやら。コミュ力が向上すると思って勧めたが果たして効果があるか疑わしい。たぶん意味なかったよね。鉄パイプと姫野ジュンレンのインパクトしか残っていない。


「陽登君、お嬢様のこと頼みますね」


身支度を済ませてお屋敷を出る。

車に乗る際、メイドさんに囁かれた。やぁん耳がくすぐったい。感じちゃう~。


「ちゃんと聞いてます?」


「あぁビクンビクンっ」


「晩ご飯なしですねー」


「嘘ですジョークです俺に任せてください」


ふざけた態度は駄目だと一体いつになったら俺は理解するのやら。自分の愚かさに溜め息が出る。

車に乗った瞬間にお嬢様は目を閉じて寝た。のび太君ぐらい寝るのが早かったな。


「学校、着いた、ら……起こし……」


「え、何、全っ然聞こえないふざけんなカス」


「すぅ……」


いつもなら反撃してくるのに返ってきたのは寝息。本当に寝てしまったよ。

隣には安らかな寝顔。……まるで天使、とでも評価しといてやろう。顔は整っているからな。寝顔は最高に可愛いよ。内面は鼻クソのくせに。


……イジっても面白くないし、今は寝かせてあげるか。

お嬢様から視線を外して窓から景色を眺める。おやすみなさい、お嬢様。






「おら、さっさと起きろよ……!」


前言撤回、可愛いとか言ったのナシ。

こいつ、全然起きねぇ!


「むーん……」


「むーん、じゃねーよ。変な声出すな」


学校に到着したのでお嬢様を起こしてみたが、全然目を開けてくれない。いくら揺すっても寝言が溢れるだけ。耳元で叫んでも起きる気配がない。

忘れていた、こいつ寝起きが悪いんだった。今朝こいつを起こしたメイドさんはすげーよ。きっと相当苦労したに違いない。


「だ、大丈夫?」


「な、んとかしてみます……!」


運転手さんが心配してくれる。ぐっ、俺がなんとかしてみせますよ。

後部座席からお嬢様を引きずり降ろして肩を支える。


「で、ではお気をつけて」


ういーす。発進する車を見届けて、さてと……どうするか。


「雨音お嬢様、学校ですよ。もう起きてください」


「むむーん」


駄目だ全然起きねえー。遅刻するぞおい。

支えてあげないと倒れてしまう。まるで泥酔の奴を相手しているかのようだ。俺酒飲んだことねーけど。


「お、嬢、様! 起、き、ま、しょう!」


「むむむーん」


割と大きめの声で叫ぶが反応は薄い。

さっきからこいつの寝言は何なんだ。意味分からん。可愛くねーぞオラ、ボケカスファック。


「少しでいいから目を覚ませ、ホームルーム終わったら存分に寝ればいいだろ!」


これだけの大声を耳元で叫ばれたら普通起きるんだけどね。なーぜこの子はピクリとも動かないのだろうか。

才能か、才能なのか。俺にニートの才能があるようにこいつにも寝続ける才能があると。お互い社会には貢献出来ない才能を持ってしまったな。


……はぁ、溜め息つくことすらしんどい。正直今までの仕事の中で一番しんどいかもしれない。


「お前そんなんだといつか強姦魔に襲われても知らないぞ」


金持ちだから夜一人で出歩くことなんてないだろうけど、いつか本当に襲われちゃうぞ。誘拐されて廃墟で脱がされて初めてなのにぃ、となったらどうする。


「うぅん……火村ぁ……」


……どうして俺の名前を呼ぶんですかねぇ。

未だに寝息安らかに瞳閉じたままの雨音お嬢様。俺に体重を預けてだらしなく寝る姿。

それは信頼しているってことですか? 俺はお前と出会って一週間程度の人間だぞ。しかも朝襲うようなクズなんだぞ。


……はぁ、めんどいけど仕方ないか。

メイドさんにも言ったし、俺がちゃんと教室まで送ってやるよ。


「今日だけですよ雨音お嬢様」


お嬢様を持ち上げ、教室へと向かう。

腕の中で眠るお姫様、とでも言うのかな。

さっきからずっと良い匂いがして、サラサラの髪が腕にかかる。綺麗な肌と整った鼻と眉、小さく開いた薄ピンク色の唇。

やっぱりこいつ容姿だけは一流なんだよな。ムカつく奴だけど、そこだけ認めてやるよ。なぁ、俺のご主人様。




でもせっかくなので生足をナデナデする。抱きかかえるついでにナデナデ。うわあスベスベ、女子高生の生足サイコー。

隙あらばセクハラ。これぞ俺である。どどんっ。

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