第37話 Sなメイドさん
「あー、癒される」
飯食って今は風呂に浸かっている。
さすがは豪邸、お風呂も超大きい! と思ったけど俺が入っているのはごく普通サイズの浴室だ。それでも浴室は綺麗で照明もお洒落。素晴らしい。
しかしこれ以外にも天水家にはお風呂がある。風呂というか大浴場と呼ぶべきか。俺は見たことも入ったこともないがメイドさん曰く、中はすごいらしい。マーライオンがいるってさ。おとぎ話かよ。
「ま、使用人の俺は入れないけどな」
こうして使用人専用の風呂があるわけだし、その辺はちゃんと分けてあるんだな。
ちなみにメイドさんも役職的には使用人なのにあの人はお嬢様と一緒に入っているらしい。透明人間になれるなら是非その光景を覗きたいものですね。俺のマーライオンも立ち上がりそうだぜ。フゥ!
庭師や運転手やシェフには家庭があり、帰る家があるので屋敷に住み込みで働いていない。てことでこの浴室を使っているのは俺だけだ。
俺専用だぜぇ~と鼻高々に浸かりつつも、毎日掃除しなくてはならないのがネックだ。俺も大きい方の風呂を使わせろよ。
「ふー、上がるか」
ニート生活で鍛えた逞しい体をタオルで拭いて超イカした髪を乾かしてジャージに着替えてフルーツオレを飲む。
うーん、ダンディ。俺ってやっぱハンサムだわ。カッコイイ。一目惚れされるのも時間の問題だな。一年間熟したニートの渋さとイケメンスマイルに女子高生はメロメロさ。
「……なんか悲鳴が聞こえたような」
遠くの方で叫び声。
声の主は、たぶん雨音お嬢様だ。ぎゃあぎゃあと騒いでいる。何を発狂なされているのやら。
使用人用浴室から出て廊下の曲がり角で聞き耳を立てれば、
「火村はどこ!? 出てきなさい!」
なーんで俺を呼んでいるんだ。しかもキレてるし。
怪獣の如く咆哮する雨音お嬢様の手にはゲームソフト。あぁ、ぼきぼきメモリアルか。
あの後もお嬢様はプレイし続けた。くだらないゲーム内容のあまり俺が寝落ちしかけると無理矢理起こしてきて大変ムカついた。晩飯の時間までやり続け、その後も恐らくまだプレイしていたみたいだ。ならなぜに怒る?
「何よこれ! そ、その……い、い、いかがわしいムービーが流れたんだけど!」
いかがわしい……? あ、まさか。
あいつ、キャラの好感度をMAXにしたのか。
芋助が言うにはエロムービーが流れるらしいがまさか本当だったとは。というかそこまで辿り着いたんかい。お嬢様すげーよ。
エロムービーが流れることを知らなかったお嬢様がキレている、ってわけね。
そうとなれば俺の取る行動は一つ。バレずに部屋へ逃げよう。
喚くお嬢様に気づかれぬよう音を立てずにその場を離れ、
「陽登君っ、お嬢様が呼んでいますよ!」
おいクソメイドぉ!
いつの間にかメイドさんが隣にいた。気配なかったぞ!?
そして大声で俺に喋りかける。テメ、わざとだろ。おい!?
「むっ、そこにいるのね!」
姫野ジュンレンみてーな重たく響く足音が近づいてくる。終わったな。
「メイドさん何してくれてんすかぁ……!」
睨みつけるが、メイドさんはニッコリ楽しげに微笑む。
「お嬢様に呼ばれたらすぐに参上するのが使用人ですよー。では私は失礼しますー」
俺を置いてメイドさんは去っていく。あの顔、ドSの顔だった……クソが。
「火村! 何よこのゲーム!」
……あー、いや、その、
「私にいやらしいモノ見せるのが目的だったのねサイテー! 馬鹿火村! アホ火村!」
「お、落ち着いてください。マジで言い忘れていただけですって。これは本気で謝ります」
「いつも本気で謝れ、つーか謝るような真似をするな!」
ごもっともです。




