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第34話 憂鬱な月曜日

「火村、行くわよ」


「しょうへいへい~」


「アンタそのネタ好きよね」


月曜日、憂鬱な一週間の始まりだ。

どうして学校に行かなくてはならないのだろうか。いや割とマジで。俺って一応使用人なのだから学生を兼業する必要なくね。俺間違ってる? ねぇ誰か教えーてーよぉ~。


「お嬢様、お弁当忘れていますよ」


「ありがと沙耶」


車に乗る際にメイドさんが弁当を持ってきた。

一つではなく、二つ持って。

おっ、これ新しい展開。え、え、ちょいちょい俺っち勘が働いたよ。それ、もしかして、


「はい、こっちは陽登君の分です」


もしやと思ったが本当に俺の分の弁当だった。手渡される弁当箱の程良い重み。

なんだろう、ちょっと嬉しい。メイちゃんの気分だ。これ持ってトトロの森に行こうぜ。歩こう、歩こう、私のアソコは元気~♪ なんつって。あはは下ネタ最高~。


「いいのですか?」


「はい。お嬢様も、面倒くさいことしないで素直に言ってください」


「べ、別に」


お前は沢尻か。今時「別に」とか言っても面白くねーんだよ時代考えろ。

ん、つーかメイドさんは何を言ってるの?


「どゆことです?」


「先週、お嬢様が陽登君にお弁当を分けてくれたでしょ。実はお嬢様が二人分作れと……」


「沙耶っ、余計なこと言うな!」


声を荒げてお嬢様がメイドさんに詰め寄る。何やら慌てた様子。

メイドさんはニコニコと笑ってお嬢様を押さえつける。ニコニコしているのに動きは機敏だった。


「素直に陽登君の分も作ってほしいと言えばいいのに。箸も二膳にしろと命令しちゃってー」


「火村行くわよ!」


「しょうへい、へ~い」


お嬢様に手を引っ張られて車の中へ乗り込む。

車が門を出て行くところでも玄関先ではメイドさんがニコニコと微笑んで手を振っていた。

シェフとメイドさんお弁当ありがとうございます。いただきマンモス~。これも古いネタだな、おっさんしか知らねーだろ。


「……何よ」


「いや何もないっすよ。変な因縁つけないでください」


チラッとお嬢様の方を見ただけで絡まれた。おお怖い、ヤンキーかよ。

高級車が快調に進んでいく中、俺は手元の弁当箱に目を落とす。


なるほどねー、なんか理解したわ。

先週、お嬢様は俺に弁当を分けてくれた。と言っても二段弁当で同じおかずとご飯が二つあって、一人分にしては多かった。まるで二人分のような。


「別に違うから。シェフがたまたま多く作っただけで別にアンタの分を作らせたわけじゃないから」


うわっ、ベタベタのツンデレだ。実在するのかよ……これがツンデレってやつか。俺その属性そんなに好きじゃないから効かないっすよ。

落ち着けって、別に深く追及したりはしないさ。俺的には飯がもらえただけで十分に満足だ。金も浮いてウハウハだぜ。


「……なんで沙耶言うのよ、別に言わなくても……」


「なんかブツブツ言ってるところ失礼しますが」


「な、何よ」


またしても睨んでくるお嬢様。そのギロ目を何度見たことか。俺にキレるなよ馬鹿。

小さく溜め息を吐いて、鞄の中に弁当を入れる。


「今日から俺も弁当あるんで良ければ一緒に食べませんか?」


「へっ……?」


「嫌なら別に芋助と食べるんでいいですけど」


「待って! し、しょうがないわね。アンタがそこまで言うなら仕方ないから、い、一緒に食べてあげるわ。感謝しなさいよっ」


うへぇ、ここまでくると逆に引くレベルのツンデレ発言だな。

まっ、お嬢様の機嫌が直ったので良しとしますか。






「ハル……面貸せや」


席に着くや否や芋助が迫ってきた。

その顔は渋く、眉間のシワとタレ目を覆い隠すように黒い影ができてなんとも厳つい表情をしていた。


「テメェに聞きたいことがある。体育館裏に来いや」


低い声には威圧感があり、普段のおちゃらけた芋助とは全く逆の印象。明らかに怒っている、もしくはそれに準じた感情が全身から溢れていた。

隣の席の木下さんも驚いているのか、いつも以上におどおどしている。怖がらせてしまってごめんな。ちょっと待ってね、急いでバシルーラ唱えるから。


「悪いけどもうすぐホームルームだからその後な」


「駄目だ。今すぐだ!」


「うおっ?」


呪文を唱える間もなく胸ぐらを掴まれて、そのまま廊下へと連れて行かれてしまった。怒気含む気迫に抵抗することさえ躊躇ってしまう。

ど、どうしたんだよ。お前らしくないぞ。

芋助のただならぬ態度に気圧されて俺は大人しく従う。


「さすがに体育館裏は遠いからここでいいか」


結局トイレに来た。

ホームルーム間近なので中に人はおらず、個室から「ん゛ん゛ん゛ん!」と唸る声が一つだけ。誰か知らんけど頑張れ。そんで気張れ。


「で、何か用か?」


こいつの反感を買う真似はしてないつもりなんだけどな。

だが芋助の様子はおかしい。今にも殴りかかってきそうだ。場合によっては喧嘩になる可能性も。勘弁してください、喧嘩なんて青春臭いことしたくない。


「先週のこと覚えているか?」


「先週?」


せっかくトイレに来たので用を足しておこう。

芋助の問いに答えつつ小便を放つ。汚い描写だなんて知らねー。はいジョロジョロ~。快便ならぬ快尿なり~。


「ほら、あれだ、その……ラブレターだよ」


ラブレター……あ、そういえば。

金曜日に書いた限りなくゴミに近い何かのことか。頭に浮かぶアルミホイルの手紙、そしてお嬢様がそれを引き裂く姿まで出てきた。


「その、さ……渡したんだよな?」


急にモジモジしだして頬を染めるジャガイモ君。キモ度が上昇してる。


「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん!」


個室の奴はまだ出ねぇの? もうホームルーム始まるから急ぎたまえ。出産するウミガメの気分でレッツ快便。


さて、どうしたものか。

そういえばこいつに結果を伝えるのを忘れていた。お嬢様は手紙を読んではくれたがブチギレて手紙を引き裂き、機嫌も悪くなって送り主ぜってー許さない発言、という結果を。


「なぁオッケーもらえたのか!?」


さっきの怖い顔はどうした。そんなことの為に俺を呼び出したのクソ野郎?

土日のうちに考えなかったのかよ。うんこのついたトイレットペーパー以下のラブレターでお嬢様のハートを奪われるわけがないと。つーか土日のうちに俺に電話かメールで聞いてこいやカス。


「あのな、お嬢様は手紙を読んではくれたが返事はノーだとさ」


とりあえず端的に結果を報告しておく。これで満足しろ。


「ま、マジか……で、でも他になんか言ってなかったか?」


なんで追及してくるんだよテメェ、察しろよ。

だが芋助は必死に俺の制服を掴んできやがる。おいざけんなジャガイモ野郎。ソラニンが伝染るだろうが。キアリーは会得していないんだって。ポイゾナも然り。


「もういいだろこの話は。諦めようぜ」


「嫌だぁ! 天水さんペロペロしたいのん!」


この土日で悪化してるぞこいつ!?

目は血走って透明の涎が顎に垂れている。小学生が迷わずブザー鳴らすレベルだ。キモ過ぎる。だからさっきの怖い顔は何だったんだよ!


「なぁ、おい! 何かあっただろ? 今は無理でもまずはお友達からとか一度本人と会いたいとか。あんなにもハイセンスな恋文を送ってノーの一言で終わるわけないだろ!」


だよね、あんなクソみてーな恋文送りつけられてノーの一言で済ませられる人間できた奴なんてごく少数だよ。

……仕方ない、真実を言った方がこいつの為になるだろ。


「なぁハル」


「お嬢様は今までにない程にブチギレて手紙を破り捨てた」


「え……」


「それでも怒りは収まらず、ラブレターを書いた奴は絶対に許さないと言っていた」


「……」


「分かるか? お前は終わってんだよ」


ピシャリと告げると、豆史はゆっくりと手を離した。

見る見るうちに顔が歪んでいく。カイジかな?


「そ、そんな……」


激しく絶望しているのか、声は弱まっていき最後はその場で膝から崩れ落ちた。両手をついて倒れ、微かだが啜り泣く声が聞こえてきた。悲痛で、苦しげに、掠れた声。

どうでもいいけどお前ここトイレだぞ。床汚いぞ?


「駄目だったのか……」


絶対に無理だろ。

そもそも雨音お嬢様を狙う時点でおかしいんだよ。あれのどこが良いの? 顔とスタイルは抜群かもしれねーけど性格は腐っているぞ。腐海を見てきたナウシカでも「これアカンやろ終わっとるで」と引く程にお嬢様の性格は最悪だ。


「うぅ、次はどうやってアプローチすべきだろう」


まだ諦めないその姿勢は尊敬する。


「よし、今日はそれを一緒に考えようぜ!」


「なんで俺も一緒なんだよふざけんな」


勝手に一人でやってろ。さすがに前回でこりごりだよ。


「た、頼むよぉハルぅぅお前しか頼れる奴がいないんだあ!」


「汚い手で触るなテメェェ」


「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛んん!」


お前は早くうんこ出せよ!


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