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第29話 五日目・ダラダラ、ヘラヘラ

芋助ラブレターでお嬢様の気は荒れ、稽古に集中出来なかった。そのせいでざますババアに怒られてしまった。

怒られたことで苛立ちは戸惑いに変わり、どうしてこんなことになっているのだろ?と揺れる。気が滅入って本調子を崩して惨めな気持ちになった。


心境の変化はざっとこんな感じだろ。

稽古は上手くいかず怒られて自分が悪いと思ってしまう。メンタル的にかなり辛いだろうなー。その原因となったのは俺と芋助なんだよねぇ。

……さすがに罪悪感ヤベェわ。

というわけで、俺はお嬢様の部屋に来た。


「お嬢様、いらっしゃいますかー?」


ノックするが返事はない。

晩飯の時もお嬢様は元気がなく、落ち込んでいた。あの状態のお嬢様をイジるのは気が引けて大人しくお代わりして飯を満喫するしかなかったわ。え、飯はしっかり食べなくちゃね。今日も普通に美味しかったです。


「お嬢様ー?」


にしても反応なさ過ぎ。寝てるのか?

執拗にノックして何度も呼びかける。オラ早く出てこいや俺が償いに来てやったんだぞ。ありがたいと思え、ふざけんな。


「勝手に入りますねー、うーっす」


「……勝手に入らないで」


「起きてるんかーい」


部屋に入ればお嬢様がベッドに腰かけていた。

いつもと変わらない不機嫌な顔。けど少し、落ち込んでいるようにも見える。


「今気分悪いから帰って」


「今更ですけどお嬢様の部屋ってテレビあるんすね」


えっとリモコンは……つーかここのテレビでもデカイな。マリカで四人対戦しても十二分だわ。あっ、マリカしたい。誰かマリカしようよ。俺コントローラー持っていくよ。それいつの時代?


「……出てけって言ったのよ」


「別にいいだろ。テレビ観させろや。金曜の夜は映画だぜ?」


と思ったらドキュメンタリーのスペシャルとかで今日はロードショーやってなかった。クソが、天空の城放送しろよ。俺をあの地平線輝くところに連れていっておくれ。

仕方ないのでテキトーにバラエティ番組に替えて床に座る。お嬢様に背を向け、リラックス。


「……何よ。どうせ私のことからかいに来たんでしょ」


お嬢様はベッドから動かず、その声は暗く黒く棘がある。

拗ねているようで、イラついているように、悲しげに切なく、ひどく弱々しいすすり泣きにも似た声だった。


「違うよ。暇だったから遊びに来ただけだわ」


後ろのお嬢様の方は向かず、テレビを観る。

地味に面白いなこの番組。たまに面白い企画やっているよね。


「……出てって」


こいつピリピリしてるなー。


「明日は休日ですよ、もっとテンション上げようぜ」


「うるさい。一人にさせて。どいつもこいつもウザイのよ……」


ホント、棘のある言い方だ。

他人を突っぱねて一人になろうとする。自分一人で黙って座ってバリア張って、典型的なボッチの行動だ。

それで解決するならいいけどさ、お前どう見ても一人で落ち込むだけだろ。


この五日間見てきた。

お嬢様はボッチだ。本人がそうなるよう過ごしている。

けど本当にボッチになりたいわけじゃないことくらい俺でも分かる。意地はって一人になりたがる。本当は違うくせに。


「お嬢様、携帯貸してください」


まぁお前の生意気な態度を改めて自分から歩み寄らないんじゃ友達なんてできねーよ。ずっとボッチやってろ。

これが本音だけど、せめて、慰めることぐらいはしてやるよ。


「嫌よ。早く出てって」


「机の中に入れてあるんだったかな?」


「か、勝手に開けないでよっ」


おーおー、ご丁寧に充電器や箱まで入ってる。

充電器をぶっ挿して充電しつつ携帯を起動。俺と同じメーカーのやつか、操作しやすいぜ。カバーつけていないし保護シートも貼っていないのはどうかと思うが。


「な、何してるのよ」


「何って、連絡先交換してるだけですよ。はい終わり」


お嬢様に向けて携帯を見せつける。

お嬢様の携帯、画面には『緋村ハル@5/9踊り手デビュー』の文字。……なんか痛々しいアカウント名みたくなったな。やっぱ普通にフルネームにしとこう。


「あ……」


「この前言っただろ、一応連絡先教えてくれってさ」


携帯は机の上に置いて俺はテレビの前に戻る。


「何か用があって呼びつけたい時は連絡してください。まぁ特に用事がなくてもメールしていいぞ。話し相手になるよ」


「……」


「放課後ラブレターもらった時からイライラしてたよな。ダンスの稽古もしんどかっただろ」


ラブレターは俺のせいとはぜってー言わないけど。俺はクズだな。うん自覚してる。

けれど俺なりに励ましてやるよ。クズだからこそ言えることもある。


「ま、そんな嫌なことはさっさと忘れろよ。もっとヘラヘラとダラダラしたら? そっちの方が気楽で楽しいぞ」


「……何よ偉そうに」


「使用人で同級生だけど俺の方が年上なんでね。一年分だけ偉そうに言わせてくださいよ」


年上とか使用人とかどーでもいいし、人に何か言うのはめんどい。

けど今回はちょっと頑張ってみるか。


「いつまでも落ち込んでしょんぼりしていたらもったいないだろ? 嫌なことから目を背けて楽しいことだけ考えるのもアリだと俺は思う」


人生全て上手くいく奴なんてほとんどいねーよ。誰だって失敗して落ち込むものさ。

お嬢様も勉強や稽古とか嫌なことはあるだろうけど、さっさと忘れて目先の楽しみを満喫したらいい。

もっとヘラヘラしてろ。不機嫌な顔して楽しいわけあるか。


「ダラダラ、ヘラヘラ。俺の座右の銘だ。雨音お嬢様も真似していいですよ」


面倒くさいこと、辛いこと、やっていて面白くないこと、挙げていては枚挙にいとまがない。人生ってのはそんな嫌なことの連続だ。魔法剣二刀流みだれうちの如く、げんなりする程にある。

働かないと食べていけない、勉強しないと進級出来ない、生きていく上で必要な苦しみなわけです。まぁニートはそれを超越しますがね!


「……これは別に経験談じゃねーけど、辛いことをずっと抱えていたら辛いままだ。一人でいると苦しくなる一方なんだよ。別に捨てろとは言わない、ただ横に一旦置いて大きく伸びでもしたら?」


重たい荷物を持ち続けるってのは大変だ。そりゃ出来る人間もいるだろうけどさ。

少しは軽くなって、軽い気持ちになってヘラヘラとリラックスすればいい。ダラダラと横に寝転んで「マジ荷物重たいわ~」と笑えばいい。

そうしたらさ、ちょっとは気持ちがスッキリする。辛いことが薄れていく気がする。


「もっと笑えよお嬢様。その方が絶対に似合っているよ」


「……別に」


「毎日学校行って稽古もやって、お疲れ様でした。すげー頑張っていたよな、全部は見てないけどある程度は見てたよ俺。月曜日までお休みになられてください」


「……」


「もうちょいしたら出ていくんで少し待ってください。このコーナー意外と面白いんで」


ドラマも良いけどバラエティも面白いね。

個人的には深夜のちょいエロな企画のあるバラエティが好みだよ。


その時、隣に気配。

俺の横に座る、雨音お嬢様。


「……私もテレビ観る」


口を尖らせてまだ顔は険しさが残っている。相変わらず不機嫌な目つきして態度も悪いまま。

けど、言葉に刺々しさはなかった。小さい声だったけど、ちゃんと聞こえた。俺も小さく返事を返して頷く。


「何よこれ、全然面白くない」


「いや面白いだろ。もっと寛容な気持ちで観ろって」


「天空の城観たい」


「だから今日やってないんだってば。今度DVD借りに行くか?」


「うん」


お嬢様とダラダラ二人並んで座り、ヘラヘラとくだらないこと喋りながらテレビを観て夜は更けていった。


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